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★電脳歌人ミコトの恋の覚書 その22★純潔神話2014…鈴木しづ子

  • 2014年05月19日  菱月 美琴  



    恋人の過去の彼氏や彼女、気になりますよね。「出来れば一番最初の恋人になりたかった」…何だか昭和なこのセリフ、チラリ脳裏によぎった事のある人も多いのでは。
    「結婚するまで純潔を守りなさいっ」。そんな風に教える親も見かけなくなった平成の今日、それでも「処女性」に密やかな憧れを持つ風潮は絶滅していません。
    自由恋愛のままならなかった時代に、バッサリそんな感情を切り捨てて見せた女性がいます。一時俳壇に華やかに現れて消えてしまった、「娼婦と呼ばれた女流俳人」、鈴木しづ子の俳句を見て行きたいと思います。
     
     
    「夏みかん酸つぱしいまさら純潔など」
    (引用:鈴木しづ子著『指輪』より)
     
     
    @この俳句、こう読みます。
     
    読み方はそのまま「なつみかん すっぱし いまさら じゅんけつなど」です。
    「夏みかん(夏蜜柑)」は、晩春の季語。ごつごつした手触りの黄色い蜜柑の皮に指を入れると果汁が飛び、細い白い指が蜜柑のひと房を取り口に運びます。コメカミにきぃんと来る酸っぱさは、痛みの感覚に似ています。
    そこからの「いまさら純潔など」の飛躍。いままでの一連の描写が、途端に性的な色合いを帯びて来ます。そう言いながら、まっさらな少女だった頃への感傷も感じられます。
    突飛なようで、生理的に何故かすんなり理解できてしまう俳句です。
    また、「純潔」を性的な意味合いだけではなく、「戦争という大きな不純」への、彼女なりの批判…ととらえる解釈もあるようです。
     
    A鈴木しづ子のこと。
     
    生没不詳、謎の多い女流俳人です。大正生まれ。東京淑徳高等女学校卒業。女子大の入試に失敗し、製図工の道に進んだそうです。21歳、岡本工作機械製作所入社。社内の俳句サークルに入り、俳人・松村巨湫(きょしゅう)と出会い、巨湫の主宰する句誌『樹海』へ投句するようになります。昭和21年(1946年)2月、処女句集『春雷』を発表。
    若い女性の素直な気持ちをあざやかに表現したこの句集は反響を呼び、約五千部を売り上げました。
    職場結婚の後、一年程で破たん。岐阜へ移り住んだようです。
    岐阜のダンスホールでダンサーをしていた頃、本国に妻子のある黒人兵と恋仲に。やがて黒人兵は朝鮮戦争へ出兵、帰還。戦地で麻薬に蝕まれ、心身共にボロボロになっていました。しず子は熱心に世話をしますが、彼女の元を去り、母国で死去。
     
    句誌『樹海』では、しず子の第二句集の準備が進められ、昭和27年1月発行、出版記念会が盛大に行われます。
    しず子はそこに姿を現し「みなさんごきげんよう、さようなら」と挨拶。句稿を師に宛てた後、消息を絶ちました。自殺をほのめかすような俳句もいくつか。
     
    鈴木しづ子の、色白のすっきりした顔に赤い口紅。黒髪に細かくパーマをあてた、美貌の白黒写真はよく目にしますね。
     
    B数を気にする。
     
    彼女と付き合い始めたばかりのAさんは、ずっと気になっている事がありました。
    (前の彼氏って、どんな奴だったんだろう…何人位の男と付き合ったんだろうか…)。
    彼女の事を知り、好きになればなる程、その事が頭から離れませんでした。
    かと言って、直接本人に聞くのはためらわれる…悶々とする日々が続きました。
     
    ある日、彼女のアパートに行った時、ふと、鏡の前に無造作に置かれたアクセサリー類を目にします。いつも視界には入っていたけれど、まじまじ見た事はありませんでした。彼女が席を外した時、近寄って見てみました。
    名前の彫られたブレスレット、自分がプレゼントしたのではない指輪類、高価そうなプラチナのネックレス…そんな物達が、絡み合って、ごっちゃり一つの山になっていました。
     
    「あ、それ」。
    彼女はいつのまにかAさんの背後に立っていました。
    「前の彼氏達に貰った物だけど、今は付けていないよ…気になる? 捨てて欲しい?」。
    焦ったAさんは、
    「いや、気にしないよ。持っていたらいいじゃん」…と、心にもない事を言ってしまいました。
    「そうだよね。何かモノ捨てるのって気が引けるんだよね。使って無いからいいよね」。
    (そういう問題じゃないだろ…)。Aさんは密かに思いましたが、ここで批判めいた事を言って、小さい男に見られたくなかった為、平静を装いました。
     
    それから、彼女の部屋に行く度、その、アクセサリーの山が気になるように。
    (確か、彼氏「達」って言ってたよな…。一体、何人の男と付き合ったんだろう。)
    無造作に置かれ絡み合ったアクセサリー類は、日々キラキラ輝き、増々Aさんを悩ませたのでした。
     
    C聞いたらホッとする?
     
    性格にもよりますが、女性より男性の方が恋人の「過去の恋愛」について気にするようです。人物像や付き合い方よりまず、「数」。
    その点女性は、「どの位相手が好きだったのか」…や、「どんな別れ方をしたか」等、「気持ち」の方に重きを置くようです。
     
    Dどちらにしろ、過去は過去。
     
    過去の恋愛について、洗いざらい聞いた所で、いい気分になる人はあまりいないと思います。けれども、「恋人の歴史」を知る事にもなり、より深い関係へと進むことが出来る場合も。さすがに今さら「純潔」を恋人への最大の条件にする人は少ないと思いますが、過去の恋は恋人の履歴として、さらっと確認しておきたいですよね。
     
    「最初の恋最後の恋に夏みかん」