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★電脳歌人ミコトの恋の覚書 その33★人知れぬ恋…紀貫之A

  • 2014年06月26日  菱月 美琴  



    人知れぬ恋に悩むのは、今も昔も同じ事。「この思いは自分にしか解らない」と苦しんでいる時、いにしえびとも同じだと知ったら、少し気持ちが軽くなりますよね。
    また、嘆き悲しみ苦しんだ分だけ、人として一回り大きくなれていたり。
    そんな、自分を成長させてくれる、究極の片想いについて考えてみたいと思います。
     
     
    「人知れぬ思ひのみこそわびしけれ我がなげきをば我のみぞ知る」
    (引用:『古今集・606番』より)
     
     
    @この短歌、こう読みます。
     
    読み方は、「ひとしれぬ おもいのみこそ わびしけれ わがなげきをば われのみぞしる」です。
    「誰にも知られていない、貴女への熱く燃える恋心であればこそ、とても侘しく感じます。私の(深い)嘆きは、私のみが知っているのです」。
     
    片想いの歌でしょうか。「思い」は「おも火」、「嘆き」は「投げ木」で、身の内の恋の炎を真っ赤に燃やして、苦しんでいる様を表現しています。一見、平明な歌に、仕掛けを潜ませているのが、さすが技巧派、紀貫之のすごい所です。
    「のみ」を二つ使う事で、歌のリズムに勢いがありますね。
     
    A紀貫之と言葉あそび。
     
    和歌の名手であった紀貫之は、言葉あそびの達人でもありました。
    掛詞や縁語、折句、物名などを自在にあやつり、詩的にも完成度の高い作品を数々生み出しました。紀貫之の書いた文章は、随所にちょっとした小ワザがあるので、読み返してみて、それに気付くと二度美味しい気分になります。
    折句で有名なものに、「おみなへし」の歌が有ります。「小(お)倉山 (み)ねたちならし 鳴(な)く鹿の 経(へ)にけん秋を 知(し)る人ぞなき」
    「おみなへし」が、無理なく上手に隠してありますね。
     
    B先生に恋をして。
     
    英会話スクールに通って半年が経つAさん。残業で遅れそうな時も何とか都合をつけて、毎週火曜日のレッスンを欠かす事はありませんでした。
    Aさんは英会話スクールの講師、カナダ人のBさんに恋していました。
     
    柔らかそうなサイドパーツのロングの金髪に、青味がかったグリーンの瞳、陶器ような白い肌という、エル・ファニング似の容姿も素敵でしたが、日本人とは一味違う、明るく裏表のないサバサバした性格に、とても魅かれていました。
     
    Aさんは食品会社の経理部に所属しています。いつかは海外の支店で働きたいと、会社の皆には内緒で英会話を習っていました。
    当然、Bさんに想いを寄せている事は、誰にも秘密でした。
    英語が上達して、日常会話レベルに達する事が出来たら、勇気を出してBさんをデートに誘おう。そう、心に決めて、通勤の車の中でも教材を流す等して、会話力を磨く努力をしていました。
     
    ある日、ちょっと早めに英会話スクールに到着したAさん。
    事務局の若い男性と、Bさんが楽しそうに英語で話しているのを見掛けてしまいました。
    Bさんは笑いながら、一瞬、事務局の若い男性の肩に手を掛けました。
    (…教室では見せた事のない顔…、もしかして、この二人、付き合っているのかな…)。
    Aさんはきゅうっと胸が苦しくなりました。
     
    レッスンが始まってもさっきの光景が頭を掠め、集中出来ずにいました。Bさんはいつもどおり、テキパキと進めていきます。
    「A。ドウシタンデスカ? ダイジョウブ? OK?」。
    BさんがぼんやりしていたAさんの顔を覗き込み、声を掛けてくれました。
    Aさんは、はっと我に返りました。
     
    次の週、意外な形で、半年間秘めていた片想いは玉砕します。
    英会話のレッスンが終わると、事務局の男性に呼び止められ、
    「あ、Aさん。火曜日のレッスンなんですが、講師が変わります。Bさんが来月、カナダに帰る事になりまして」。
    「ええっ?」。
    「実はBさんのフィアンセの仕事の都合で、急きょ決まったんですよ」。
    (ええええっっっ)。Aさんは心の中で叫んでいました。
    そう言えば、Bさんのプライベートなんて、何も知らなかった…。
    告白する事もなく、一つの片想いは終わりました。
     
    しかし、その半年間の片想いはAさんに大きな変化をもたらしていました。
    Bさんへの今までの想いが溢れ出し、知らぬ間に口から出ていた独り言は、流暢な英語だったのでした。(oh my God!)
     
    C片想いは自分を成長させる。
     
    頭の中でのみの片恋だったとしても、はじまりと終わりとでは別人かと思う位に、人は大きく成長ます。
    Aさんの、やや下心アリの英会話のレッスンも、純粋一途な恋心のお蔭で、人の何倍も速く上達していたのです。片想いはあえなく終わったとしても、この恋でついた英会話の力は一生モノなんですよね。
     
    D人のいたみに添えるようになる。
     
    そんな苦しい片想いを経験すると、自然に人のいたみにも添えるようになります。人として厚みが出るんですね。
    目の前の恋が終わったとしても、来るべき次の恋に大きく役立つ経験と言えますよね。
     
    「片想いひとつ終わらせ夏の蝶」