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★電脳歌人ミコトの恋の覚書 その44★石積む女…大西泰世

  • 2014年08月04日  菱月 美琴  



    「逢いたい」と思った時、人はどうするのでしょうか。手っ取り早いのはメールや携帯ですよね。でも、それだけに頼ると、何となく、単調。もう少し、独創的で自分らしい表現方法はないのでしょうか。「逢いたい」の伝え方やそのバリエーションについて、考えてみたいと思います。
     
     
    「逢いたくて生まれるまえの石を積む」
    (引用:大西泰世著『椿事』より)
     
     
    @この作品、こう読みます。
     
    読み方は「あいたくて うまれるまえの いしをつむ」です。
     
    幻想的な作品です。石積みと言えば、賽の河原の石積みを真っ先に思い浮かべますが、「生まれるまえ」なら、少し時代を遡った、会った事もない人(死者?)に「逢いたくて」という事になります。「会う」ではなく「逢う」という漢字をあてているのは、恋しい想いを表現していると思いますので、軽く女の狂気を感じる、不思議な作品です。
     
    A大西 泰世(おおにし やすよ)さんの事。
     
    昭和24年生まれの川柳作家。26歳から川柳を作り始めたそうです。昭和58年、第一作品集『椿事』を発表。昭和60年、スナック「文庫ヤ」を開店、大学等では講師をつとめました。詩的な情感のある作品も多く、「川柳と俳句のボーダーラインにいる」作家と見られているようです。共感できる素敵な作品の数々で、広く読まれている作者です。
     
    B歴女と呼ばれて。
     
    図書館司書のA子さん(26)は、中学時代からずっと恋い焦がれている人がいます。
    それは、幕末の新選組副長の土方歳三。司馬遼太郎の『燃えよ剣』を読んでから、本の中・歴史上の人物としてではなく、一人の男として、土方歳三が好きになったのでした。
     
    仕事が休みの時には、新選組関係の本を読むか、ゆかりの場所めぐりで、日本各地を飛び回っていました。近い将来、タイムマシンが出来たら、絶対、幕末に行って恋人になるんだと夢見ていたのです。
    「携帯電話が発売された時、これはもう、タイムマシンだっていずれ出てくると思ったわぁ」と言っていた、母(バブル期の人)の口癖を心の拠り所にして。
     
    そんな訳で、A子さんは恋愛らしい恋愛をして来なかった訳ですが、それでも中学時代からは何人か、ほのかに想いを寄せる人はいました。
    「横顔があの人に似ている」とか、「クールな彼、もしかしたら、あの人の生まれ変わりかも」と言うような、全て土方歳三フィルターを通してなのですが。
     
    娘を心配する母は、親用の婚活イベント等へ密かに通っていました。親目線での絶対条件をクリアしたお相手の中から、例の彼に通ずるもののある人をピックアップ。最終的に「この人!」という彼に目星を付けて、出会いの場をセッティングしました。
     
    「あのね、お母さんの知り合いでね、あなたの好きな新選組のあの彼に似ている人が居るのよ。今度の日曜日にデートしてみなさいよ」
    「やだ、お母さん。私、子供じゃないんだから、勝手に色々決めないでよ!」
    「いいじゃない。予定無いでしょ。親孝行だと思って一度会ってみてよ。お願い」
    A子さんは、母一人子一人で、大事に育ててくれた母に、口には出しませんでしたが、とても感謝していました。
    「わかったよ。会ってみるね」
    しぶしぶ了承しました。
     
    日曜日、公園で待ち合わせた彼は、本当に土方歳三に雰囲気の似た人でした。そして、とても紳士で、控えめだけど、頼もしい感じもしました。
    「私、歴史オタクなんですけど、大丈夫でしょうか」
    「私も歴史、好きですよ。特にお城とか見るの好きなんですよ」
    A子さんは、これはもしかしたら、運命の人かも…と思いました。
     
    デートから帰り楽しそうな様子のA子さんを見て、母はホッとしていました。娘の好みを徹底的に調べて、親用婚活イベントに参加し始めてから約1年。やっと願いが叶いそうだと思いました。
    (本の中の男じゃ娘を幸せに出来ないわ。いつかこの手に、かわいい孫を抱くため)。
    母はその一心で頑張り、何もかもセッティングして来た事は、今後も娘に内緒でいようと思うのでした。
     
    C狂気を秘めた人は魅力的。
     
    少しミステリアスな感じのする人って、モテますよね。ポイントは「少し」という所。余りに突飛な考えや行動は、「不思議ちゃん」と認定されてしまう危険性があります。やはり、何事もホドホドが一番ですよね。
     
    D伝え方を工夫してみよう。
     
    冒頭の作品では「逢いたくて石を積む」という愛情表現だった訳ですが、そこまで飛躍するのは、日常生活ではかなり難しいです。メールや携帯といった普通の手段で「逢いたい」を表現するだけではなく、ちょっとひねって想いを伝えてみてはいかがでしょう。非日常的な演出に、ドキッとさせられるかもしれません。
     
    「“逢いたい”を託して空へ夏の蝶」