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★電脳歌人ミコトの恋の覚書 その45★消印の日の愛…俵万智@

  • 2014年08月07日  菱月 美琴  



    手紙を書く…という事が、縁遠くなりつつある現代、メールや携帯の通話で、ほぼリアルタイムに感情は行き来しています。便利な世の中になった分、発せられる感情が画一的だったり、何となく薄く感じられたりする事も。
    待ったり待たせたり、少しばかり時差があっても、恋愛にとってはいいのかも? 
    今回は、恋愛における「時差」について考えてみたいと思います。
     
     
    「手紙には愛あふれたりその愛は消印の日のそのときの愛」
    (引用:俵 万智著『サラダ記念日』より)
     
     
    @この短歌、こう読みます。
     
    読み方は、「てがみには あいあふれたり そのあいは けしいんのひの そのときのあい」です。
     
    メールや携帯が普及した現代は、感情もほぼリアルタイムに送受信出来ます。なので、この短歌の様な思いは、なかなか遠くなってしまいましたが、それでもじわりと心に響く歌です。
     
    手紙を書いた時点では愛情があふれていたのに、届く前に感情の行き違いが発生して、手紙を読む頃には、その愛を振り返るような立場に居ます。(喧嘩? または別れてしまったのか)。
    「愛」という言葉を3回織り込む事によって、短歌にスピード感が出て、切実な想いが伝わってきますね。
     
    A俵万智さんのこと。
     
    昭和37年、大阪府出身の女流歌人です。早稲田大学 第一文学部卒業。在学中から短歌を詠み始め、佐佐木幸綱氏に師事します。短歌結社の「心の花」に所属。卒業後は、高校の国語の教師として勤務、第32回、角川短歌賞を受賞。昭和62年、第一歌集の『サラダ記念日』は、260万部を超えるベストセラーになります。戯曲や小説の執筆も。現在は沖縄県石垣島在住。twitterは、島での暮らしぶりや息子さんの話等、キラリと光る言葉の数々が、散りばめられていて素敵です。
     
    B遅れて届いた愛。
     
    事務機メーカーのOL、A子さん(28)には、付き合って5年の彼氏Bさん(26)がいます。彼は大学卒業後、写真家になるという夢を持ち、定職につかず世界各国を放浪していました。お金が尽きると日本に帰国して数カ月のバイト生活、そして又海外へ…という繰り返し。A子さんはそんな彼が好きでしたが、みそじが近づくにつれ、そろそろ「結婚」についても考えるようになりました。
     
    A子さんの親は、彼との交際に反対でした。ちゃんと定職に就いた、それなりの人と結婚して、普通の幸せを掴んでほしいと願っていました。
    「結婚と恋愛はある意味別なのよ。家庭を築くってとても大変な事なのよ」。
    母の言葉が時々よぎりました。
     
    ある時、日本に帰って来ているBさんに、
    「あのさ、日本で写真撮れないの? または写真は趣味にして、どこかの会社に就職しようとは思わないの?」
    「何、俺に才能無いって言いたいの?」
    「そうじゃなくて…。また数カ月海外に行っちゃうと思うと、寂しいし、あと…」
    「何?」
    「両親もそろそろ、将来の事とかうるさいし…」
    「…あ、そう…」。
    彼は一瞬、現実に引き戻されたような、不安げな顔をしてA子さんを見ました。
    その後は沈黙が続き、具体的な話も出来ないまま、彼はヨーロッパへ一人旅立ちました。
    (そろそろ、潮時なのかな…)。A子さんは思いました。
    (彼と居ても結局、時間が過ぎて行くだけ、私はただ年老いて行くだけなんだ)。
     
    A子さんは親の勧めでお見合いをする事にしました。
    お見合いの相手は地方公務員で、親の言う幸せの条件は全て揃えている人でした。
    好きとか嫌いとかそんな感情は湧きませんでしたが、思い切って付き合う事にしました。「結婚」を前提にして。
     
    数日後、珍しくBさんから国際電話が掛かって来ました。A子さんは
    「あのね、私、もう、終わりにしたい。別の人と結婚を前提に付き合おうと思っている」と、一気に言いました。Bさんは電話口で何か言いかけましたが、
    「…そうか、もう、決めたんだね。解ったよ。…今日、葉書を送ったけど、捨てていいから」
    「…」。
    「幸せになって」。電話は静かに切れました。
     
    二週間後、A子さんの元に葉書が届きました。ギリシャの白亜の家々が立ち並ぶ、青空の写真。その下には「日本に帰る。一緒に暮らそう」と書いてありました。A子さんは何度もその短い言葉を読み返しました。ぽろぽろと涙が零れ落ち、失ったものの大きさを思いました。
     
    C時差を楽しむ。
     
    A子さんとBさんの様な、悲しいすれ違いは嫌ですよね。でも、感情の「時差」を楽しむ事によって、より愛情が深まる場合もあるのです。
    お花や贈り物を郵送で贈ったり、暑中見舞いや年賀状に一言気持ちを書いたり等々、方法は様々です。
     
    D過去、現在、未来の事。
     
    手紙や葉書が過去の感情を記すものだとすると、メールや携帯でのやりとりはほぼリアルタイムの感情が行き来します。なので、売り言葉に買い言葉、思いもしない言葉が飛び出してしまう事も。
    一つ一つの言葉を大切にして、二人の関係を未来へと繋げたいですよね。
     
    「夏の夜 手紙に君の気配かな」