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《おばあちゃんの恋袋 第七十三話》長い春のけじめ〜再びの恋〜

  • 2015年03月23日  吉井 綾乃  



    早く来い、来い。さくらばな。

    そろそろ桜前線がスタートする時期であろうか?

    巷は、卒業シーズンを終え桜の開花とともに新しい門出や新学期を迎える学生さんの若い活気がみなぎる頃でもある。また、官公庁や多くの会社では新年度の始まりを迎えるけじめの時期でもあろう。

    春は桜の季節、新しい出会いに一番ふさわしい季節。さしずめ、春の代名詞は桜そして、恋の代名詞は春、というところか。

     

    『世の中は三日見ぬ間の桜かな』(大島蓼太の俳句)と、言うほど桜の散り際って、見事よね。この歌の本来の意味は世の中の移り変りの早さを桜に例えたものだけれど、三日で終える命の短さ、この潔さが春の代名詞の桜をより美しくみせているのよねぇ。

    だけど、同じ春に例えられる恋心となると潔くなんて、できないものよね。三日で終わるような恋心だとしたらそれは、恋ではなく夢、夢なら醒めるのも当然だわ。でも、本当に恋に落ちたとしたらどうかしら?

    潔く(美しく)恋心に終止符を打つなんて、誰にとってもなかなか出来るものじゃないと思うわよ。だから、今でも世の中には『長すぎた春』とか『長い春』とか呼ばれる関係のカップルが大勢いることだろうと、おばあちゃんは推測しているの。

     

    昔々のお話。さて、今日は周りから長い春と呼ばれる関係を続けていたヒトエさんとヨシナリさんのちょっと良い話よ。

    ヒトエさんとヨシナリさんの出会いは学生時代。同じ大学の同級生同士。お互い一目惚れのような状態で恋に落ちたの。二人ともそれまでは心惹かれた人はいたけれど、お付き合いした経験はゼロよ。ヨシナリさんは色が浅黒く鼻筋が通った端整な顔に長身、嫌でもパットまわりの目を引く美男子ね。さぞや、中学、高校時代は女の子に人気が高かったではと思いきや中学、高校と男子校だったこともあって女の子の免疫が皆無。それに、彼はその見かけに反して運動が大の苦手だったの。で、その昔、同級生の中でも身長が低くチビだったせいもあり、小学校時代には女の子との徒競走に敗れ、その上、ドッチボールでは好きだった活発な女の子に狙い撃ちされ、と散々だったみたいね。だから、ヨシナリさんの女の子の思い出はあまり良いものとは言えないわ。そんなことも関係してかヨシナリさんは女性に対しては臆病だったの。でも、ヨシナリさんが自分の方から積極的にアプローチするに相応しい、際立ったルックスの持ち主だったことは間違いないわ。

    一方、お相手のヒトエさんは一見、物静かでお淑やかで良妻賢母そのもののような女性よ。ところが、彼女は高校時代には男女共学の学校の初代女性生徒会長であり、陸上部では長距離の選手という経歴の持ち主よ。その経歴からも分かるようにヒトエさんの性格は芯が強く負けず嫌い。だからと言って恋の経験が多かったわけではなく、ヒトエさんも恋には奥手だったわ。とは言え、その当時としては二人とも平均的な学生像かしらね。

    恋の始まりは同じでもアプローチはヒトエさんの方からだったみたいよ。際立つルックスを持つヨシナリさんへの女学生人気はとても高くてこれが、ヒトエさんの負けず嫌いの闘争心に火を付けたのね。もともと、ヨシナリさんも一目惚れ状態だったので、二人が付き合うことには何の障害もなかったわ。

    初々しい、嬉恥ずかしの初デートから2年が過ぎた頃、二人には最初の危機が訪れるわ。三年生になり、ヨシナリさんの所属するサークルに入って来た新入生の美少女がヨシナリさんに恋をして、何時でもヨシナリさんの回りに現れるという事件(?)が勃発。この時は、ほぼヒトエさんの独り相撲の勘違いで心にもない別れを宣言して一時は、お別れ状態ね。でも、お互い好きな気持ちが消えたお別れじゃなかったから復縁も早く『雨降って地固まる』じゃないけれど、同棲を始めたのはこの直後よ。狭いアパートでのままごと遊びのような楽しい同棲生活と交際は二人の就職活動とヨシナリさんの浮気でまた、終りを迎えるの。でも、そんなことがあってから何か月かたった雨の夜。アパートの前に佇むヨシナリさんを見て関係はまた、元通りに・・・。

    それから、二人の間には紆余曲折、様々なことが起きたのよ。大きな出来事としてはお互いが違う異性に心を動かされたり、ヨシナリさんの転勤だったりと、数えきれないほどにね。その度に、別れたり戻ったりを繰り返して七年が過ぎようとした頃、ヒトエさんはある決心をしたの。それは、ヨシナリさんとの決別よ。『このままでは、二人に未来はない。これからは良い友人としての関係を維持する。ヨシナリにもハッキリと伝えよう』。

    そう心に決めていたある日、ヒトエさんは素敵な女性をエスコートするヨシナリさんを偶然見てしまうの。学生時代より一層魅力的になったヨシナリさんは赤坂見附の通称赤プリ(今は無い)の中のレストランで優しく女性に話しかけていたの。

    すると、彼女の胸の奥底から、えも言われぬ感覚が押し寄せてきて胸が苦しくて切なくてその場にいることが出来なかったそうよ。これが恋心でなくてなんでしょうか?

    長い春を過ごしてきた二人だから、ヨシナリさんにはただのヤキモチや独占力ととられかねない気持ちよね。でも、ヒトエさんは臆することなく率直に自分の気持ちをヨシナリさんに伝えたのよ。

    それを聞いたヨシナリさんは、

    「嬉しいよ。ありがとう」

    そう言って抱きしめてくれたそうよ。真っ直ぐにヨシナリさんの目を見て気持ちを伝えるヒトエさんを見て、最初に出合った頃の彼女を思い出し、彼女に出会った時の自分の気持ちも思い出したのだそうよ。

    これ以降は、とんとん拍子に話は進み二人はゴールイン。

    これは、おばあちゃんのお友達のお姉さんの結婚秘話よ。若かりし頃のおばあちゃんは甘いだけではない大人の恋物語の不思議さに聞き入ったものよ。