TOP > イククルコラム > 《おばあちゃんの恋袋 第七十八話》良い人はいいね〜切ない想い〜

《おばあちゃんの恋袋 第七十八話》良い人はいいね〜切ない想い〜

  • 2015年04月27日  吉井 綾乃  



    北上中の桜前線は今、どのあたりか?

    例年、東北青森の各地で催される桜まつりは今頃だったと記憶しているが…。

    細く長い日本列島、春の訪れを東北まで届けるのはいささか大変だったことだろう。今春の異常な気温の乱高下に負けず是非、多くの人に桜を届けてほしいものだ。

    桜をめでる善男善女。傍で見ていても愉快なものだ。が、善男善女だからといって恋の女神がほほ笑むわけではないらしい。

     

    さてさて、今は昔。とある地方都市に鄙にはまれな美容院がありました、とさ。

    鄙にはまれとは言っても、たしかに、そのお店は垢抜けて洗練されてはいたけれど母親と娘で代々受け継がれてきたお店よ。時代的にも、今の様にカリスマ美容師というように美容師さんがもてはやされたりすることもなかったわ。それに、世間一般でも認知度の高い職種と言うこともなかったわね。だから、今の美容室のイメージとはだいぶかけ離れていると思うわ。

    今日は、その美容院に勤めていたインターン(今は廃止されている制度)の関根君と美緒ちゃん、二人のお話よ。

    当時は、男性の美容師さんってほとんどいなかったし、美容師を目指すこと事態とても珍しいことだったのよ。仮に、職種として男性が選ぶとしたらほとんどの場合は理容師、床屋さんですもの。片や女性の美緒ちゃんも美容師になることが小さい時からの夢だったわ。

     

    美緒ちゃんが住んでいた所は、その美容院のある地方都市だからおばあちゃんの生まれ育った町とは違うわ。でもね、美緒ちゃんはおばあちゃんの母親が懇意にしていた家の一人娘。だから、物心がつかない頃からの仲良しさん、気心の知れた仲だったのよね。

    おばあちゃんより3歳年下の美緒ちゃんはおばあちゃんの妹、由紀乃と同い年。だから、幼い頃は三人でよく遊んだものよ。その頃から美緒ちゃんは他の人の髪の毛をいじるのが大好きだったわ。人形遊びのおままごとでは飽き足らず人間の髪の毛を何とかしたいといつも思っていたのね、きっと。

    「綾乃ちゃん、由紀乃ちゃん、髪の毛結ってあげるよ」

    結えるほど長くはない髪をあれこれといじり倒す(?)のが美緒ちゃんに会った時のパターンだったわ。せっかちな妹はいじられるのが好きではない様子だったけれど、おばあちゃんは美緒ちゃんの柔らかく優しい手がおばあちゃんの髪をいじり倒す(?)のが気に入っていたみたい…。

     

    住む町が違い学校も別ということもあり中学・高校と進むにつれ、会う機会もほとんどなくなっていた美緒ちゃんに久しぶりに再会したのは、おばあちゃんが東京に出て帰省した時だったわ。

    その頃、美容師になること強く夢見ていた二人、関根君と美緒ちゃんは鄙にはまれな美容院で修業中の身。見習いさんと言うのかしら?

    当時はまだ、インターン制度があったから美容院での修業期間がないと国家試験を受験できなかったのよ。だから、二人は夢の実現のためにその美容院で頑張っていたのよね。

    関根君は近郊の在の生まれ、通うのは無理。で、住み込みで修業中よ。そして、美緒ちゃん。美緒ちゃんは自宅から通っていたわ。

     

    美緒ちゃんに久々に会って、一番びっくりしたのは優しくしなやかだった手が見る影もなく荒れ果てていたことよ。(今はそんなことはないのかしらね)パーマ液の強い薬のために手が痛めつけられていたのね。

    お客さまの髪をいじることはできない、雑用ばかりの毎日でも『とても楽しい』と目を輝かしながら話してくれたわ。そしてもう一つ、美緒ちゃんが目を輝かせる理由があったのよ。それは、美緒ちゃんのお話の中に何度も登場する関根君というインターン仲間の存在なのよ。でも、勝気で男勝りの美緒ちゃんがおばあちゃんに最初から自分の恋心を教えてくれたわけじゃないのよね。それでも、妹のような存在だった美緒ちゃん恋心が手に取るようにわかって微笑ましかったわ。

     

    おばあちゃんは関根君なる男の子に会いたいがために、美緒ちゃんのお店の練習台モデルを買って出たのよ。それ以降、帰省する度に無料で髪の毛が整えられてちょっと得した気持ちもあったわ。貧乏学生だったしね。

    ほとんどの場合、先生(お店の経営者)の許可を得てお店の営業時間が終わった後が練習時間よ。住み込みの関根君はいつも一緒にいたわ。先生に代わってお店の戸締りもしなければいけなかったしね。

    「今度は関根君のモデルになってあげるよ」
    「ハンサムだね、関根君は」
    「これ!美緒、関根君に見とれて手がお留守だよ」

    あれや、これや。美緒ちゃんの気持ちを知っているおばあちゃんは二人より年上でもあるし、何とか二人を盛り上げようとしたのよ。ところが、負けず嫌いで気が強いと思っていた美緒ちゃんが関根君の前ではからっきし意気地がないのよ。まるで、おばあちゃんそっくり。でも、美緒ちゃんの本来の姿はおばあちゃんよりはるかに、しっかり者で男勝りなはずなのに…。美緒ちゃんがそんな風で埒が明かないに、それに輪を掛けて関根君が寡黙で大人しい人。体つきも細く、大柄な美緒ちゃんより一回りも小さくみえたわ。でも、身長はかろうじて関根君のほうが高かったわね。

     

    美容院のお休みの日。そんな二人とおばあちゃんの妹の4人でその当時ブームだったボーリングに行くことを計画したのよ。関根君の断れない性格を織り込み済みでね。

    そして、ボーリング場でのこと。妹と美緒ちゃんが御手洗いに立ったあと、

    「関根君さぁ、美緒のことどう思っている?」

    と、ズバリ切りだしたの。すると、

    「良い人だと思います。良い人です」

    彼は元々軽い吃音なのだけれど、ゆっくりゆっくり噛みしめるように答えたわ。

    おばあちゃんは思ったわ。まるで、『伊豆の踊子』の『良い人はいいね』のセリフみたい。これはきっと、関根君にも淡い恋心があるに違いないって。でもね…、

     

    さて、今日だけでお話するのはちょっと無理があったようね。この続きは来週ということにさせて頂戴な。