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《おばあちゃんの恋袋 第七話》略奪愛 〜愛の勝者は誰?〜

  • 2013年12月10日  吉井 綾乃  



    さてもさても、今も昔も恋は思案の外とは良く云ったもの。げに言い得て妙なり。

    人生の折り返し地点をとうに過ぎたる今でも、答えかと思しきもの欠片をジグソーパズルのように貼り合わせながら、その謎と魔力に魅了され続けているのが論より証拠。

    古来、事実は小説より奇なりと言われているけれど、恋こそ奇なり、愛こそ奇なり、と思う。

     

    略奪。この言葉自体が悪を連想させるわね。でもこれにと言う言葉をプラスすると俄然、景色が変わる様な気がしないこと?

    そう略奪愛と聞いて善も悪も飛び越して、いじらしい切なささえ感じるはのは歳を重ねたからに相違ないわ。

     

    さて第六話のお話の続きは彼女の大学祭を訪ねたところからかしらね。

    衝撃の事実とは、婚約者の出現と突然の結婚宣言。

    美少女の誉れ高かった親友と久々の再会を果たした大学祭でいきなり婚約者を紹介されると云う思いがけない先制パンチを受けて頭の中は空白、ぽか〜ん。付き合っている男性がいる事も知らなかったのに“この人と結婚するつもり”とのご宣託。

    聞けば彼は栃木の豪農の長男坊でやはり寮生活。それに二人はとても、とても深く愛し合っており一緒になることは必然、と宣言。

    それを聞かされてもおばあちゃんは只々唖然。でもおばあちゃんの懸念した親御さんの反対もなく百姓仕事は免除され、むしろ祝福されて親掛りの学生結婚を果たしその頃は未だ庶民には高根の花だった沖縄への新婚旅行もしているのだから恵まれた結婚のスターと云えるわよね。

     

    美女に野獣。と思わせるカップルで彼女の夫はがっちりと背が高く、小柄な彼女は彼の胸元程の身長しかないので、彼が彼女を抱くと総て彼にのみこまれて見えなくなってしまう感じだったわね。

    彼はお世辞にもハンサムとは言えないご面相だったけれどとても優しくてそれこそ見かけ通りに総てを包み込む様な愛情で彼女を愛していることが良く解ったし、彼女もその優しさを愛していたのだと思うわ。

     

    それから3年程の歳月が流れて二人の生活の基盤は東京へ移ったの。只その頃の二人は若い人たちの間で一種のブームの様になっていたねずみ講に夫婦揃ってのめり込んでいて、ちょっと危ない時期だったと言えるわね。

    実際、彼女の旦那様の傾倒ぶりは生半可なものじゃなくて、自分を勧誘した上司(?)の頭の良さと優秀さを褒め称え、事あるごとにおばあちゃんにも彼の頭の良さを披歴するのよ。本当に信じ込んでいたのだと思うわ。

    若かったおばあちゃん達がその頃ねずみ講に対してどんな認識を持っていたのかはっきりとは思いだせないのだけれど、とにかくおばあちゃんは、その勧誘している男性がどうしても好きになれず甘言に乗ることはなく、親友にはあの男(上司)は絶対信用ならないと力説したものよ。

    説得力に欠ける理由だけれど、おばあちゃんの気迫に押されたのか何か感じるところがあったのか、彼女は徐々にその組織と距離を置くようになったわ。旦那様の方はあいかわらずの傾倒ぶりだったみたいだけれどそのことで諍いになる様な事はなかったみたい。ある意味お互いを尊重した結果だったのかしらね。

     

    その頃おばあちゃんはと言えば学費を捻出すると言う名目で大学を休学中。

    アルバイトに勤しんでいて夜のアルバイト先はカウンターの中に三人も入ればイッパイ〃のスタンドバー形式の当時スナックと呼ばれていた小さなお店。

    土地柄かママの人徳か、客層も温厚で会話のキャッチボールを楽しめるとても落ち着いた明るい店だったわ。そんな楽しい店だったから近くに住んでいた親友も旦那様がねずみ講の勧誘に出かけた夜は良く遊びに来ていたの。そしてそこで運命の出会いをしてしまったのよ。

     

    お店の常連さんと呼ばれている人達の中で、おばあちゃんの一番のお気に入りのFさん。彼が彼女に一目ぼれしてしまったの。

    最初のうちは、彼女は美人だしこれも彼流の軽口だろうと思っていたら、どうも本気らしい。彼女もどうも憎からず思っている様子。

    そうはいってもFさんはおばあちゃん達より一回り上のオジサン。会話もウエットに豊みちょっとはにかみながら軽口をたたく時は確かに魅力的だし大好きではあるけれど恋愛は対象外。とおばあちゃんは思っていたのだけれど、幼い頃に父親をなくした彼女には十分恋する対象だったのだと後で気づいたわ。

     

    それからはあっという間に二人は恋に落ちたわけだけれど、これは世に言うところの不倫。おばあちゃんはと言えば、恋の仲立ちと言えば聞えは良いのだけど逢瀬の手助けをしたりアリバイ工作をしたり・・。

    その時は、二人の気持ちが本物だとは言うことだけで正義の味方の様なつもりでいたけれど、彼女の何の落ち度もない旦那様のことを思いやる思慮のなさには気が付いていなかったのよね。若さ故の愚かさかしらね。

     

    Fさんとご主人の対決の時はとても早くやってきたわ。Fさんと彼女がそれを望んだからよ。

    ご主人にとっては、寝耳に水。それは想像を超えたドラマ以上のドラマ。殴り合いにこそならなかったけど、魂と魂が鬩ぎ合い残虐と言う形容が当てはまる程相手を打ちのめしてそして奪う、其れが略奪・愛の姿。

    勝者には確かに愛が与えられたけれど敗者には何が残ったのだろうと考えたとき愛の残虐さを垣間見た様な気がして、今更ながらおばあちゃんは心が痛むのよ。今Fさんと彼女が幸せであることが救いかしらね。