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《おばあちゃんの恋袋 第三十七話》愛される資格 〜離れ離れ〜

  • 2014年07月14日  吉井 綾乃  



    年に、たった一度きりの逢瀬。なにもかもがスピーディに過ぎていく現代においては、織り姫と彦星の恋物語はロマンそのものだ。

    しかし、残念なことに今年の七夕は曇天・雨で天の川は架からずじまいだった。天の川が架からなかった以上、織り姫と彦星の逢瀬も叶わなかったのだろう。

    だから二人はまた、会える日を夢見ながら来年の七夕まで待ち続けるのだと想像すると、そんな関係が愛しく羨ましくもある。

    今では、会いたい時に会えるツールも方法も揃っているから、我慢など必要ないし物理的な欲求はほぼ満たされてしまう。でも、今も昔も心が満たされる恋の条件はあまり変わってはいない、と思う。

     

    さてさて今日は、今年も雨で流れてしまった天の川を偲んで、織り姫と彦星の様な恋のお話をしましょうかしらね。

     

    さっちゃんは中学時代の同級生。だけど、進学した高校は別々だったの。そのうえ、彼女は高校を卒業すると数少ない就職先・地元のデパートにさっさと就職してしまったから、中学校の卒業以来まったくと言っていいほど接点が無くなってしまっていたのよ。

    就職口もままならない田舎町のことだから、いたしかたないことなのだけれど、彼女の様に地元に残った同級生は少ないのよね。ほとんどの同級生は地元を後にせざるを得なかったのよ。そんな田舎町が年に2度、一気に人口密度が高くなり急に活気づき、他県ナンバーの車が道路を占拠する時があるの。そう、お盆とお正月よ。

    おばあちゃんにとっても、年に2度の帰省は東京での学生生活の中で、アルバイトよりも重要な位置を占めていた様な気がするわね。おばあちゃんの様に故郷に帰省した同級生たちは、久しぶりに会えた懐かしさと愛しさを温め合うの。同級生同士の近況の報告合戦みたいなものかしら。だから、故郷にいる時より上京してからの方が同級生の動向が良く分っていたのよ。なんともおかしな話でしょう。

     

    さっちゃんの恋物語を知ったのも上京してから何度目かの帰省時だったわ。お相手の名前がゆきおくんと聞いてとても嬉しかったのを覚えているわ。さっちゃんは「幸子」ゆきおくんは「幸雄」どちらも「幸」の字が付いているのよ。でもそれで嬉しかったわけではないのよ。

     

    また、おばあちゃんの歴史を紐解く様ことになるのだけれど・・。あれは中学2年生も終わりの頃だったかしら?ゆきおくんとは小学校も同じで、男女バレー部のキャプテン同士、お互いにあだ名で呼び合うほど気心の知れた仲。片やさっちゃんは、地区が違うので小学校が別、中学校に入学してからの同級生でそれまで同じクラスになったこともない女の子。その当時、おばあちゃんは男の子ととても仲が良く同性同士の様な関係を築いていたのよ。だからひょんなことからゆきおくんがさっちゃんが好きらしいと気がついた時、頼まれもしないのに「シロ(ゆきお→雪お→白い→シロ)おいらに任しときな。合点承知」とばかりに恋のキューピット役を買って出てさっちゃんに告白。そしてあえなく撃沈・・。

    自分がさっちゃんと同じ立場だったら「何だ、この女は?!」だもの。おバカさんにも程があるわよね。大きなお世話ですもの。

    それ以降、さっちゃんとは仲良しになれたわ。けれども、シロを傷つけてしまったという事実だけは残り、シロがそのことでおばあちゃんを責めることも触れることも無かっただけに余計に申し訳なくて、おバカな自分をおおいに反省したものよ。

     

    そんな、いきさつがあったので二人がお付き合いしているらしいと聞いた時には、それまですっかり忘れていたにも拘らず長年の思いが叶った様な不思議な感覚に襲われたわ。もちろん、それが本当ならとっても嬉しいし、万歳と叫びたいぐらいだったわよ。

    居ても立ってもいられなくなって、だから彼女の勤めているデパートまで押しかけて、彼女の仕事が終わるのを待って真相を確かめることにしたの。

    待ち合わせの喫茶店に彼女が現れると、挨拶もそこそこに事実確認。やったぁ!本当だった。

     

    最初こそ、おつきあいにいたるまでの経緯を恥ずかしそうに話していたけれど話しても、話しても話尽きないという様に彼女の話はとどまることなく続いたわ。

    今は彼が仕事の関係で九州に住んでいること。お客様相手の彼女の仕事の休日と、土木建築関係の仕事の彼の休日がまるで違っていること。九州があまりに遠いので彼がまるで外国に行ってしまった様に感じること。正式にお付き合いを始めてからまだ数えるほどしか会えてないこと。エトセトラ・エトセトラ。

    おばあちゃんが思わず、「遠距離恋愛かぁ。織り姫と彦星みたいで素敵だね」と呟くと、「一年に一度だって会うのは難しいけれど週一回の優しい手紙と月に一度の電話が二人の天の川かなぁ」とさっちゃん。聞けば月一回の公衆電話をかけるために、ゆきおくんは煙の様に公衆電話に吸い込まれて消えていく10円玉(まだ100円硬貨の使える公衆電話がなかったのかも)を買い物や事あるごとにせっせと集めまくったそうよ。なんとも涙ぐましい努力!そのことを話してくれたさっちゃんはとても幸せそうで、とても輝いていたわ。

     

    愛されるのに資格があるのだとすれば、お互いを思い合うさっちゃんとゆきおくんにはその資格が十分に備わっていたのでしょうね。