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《おばあちゃんの恋袋 第三十九話》 〜夏祭りの恋物語パート2〜

  • 2014年07月28日  吉井 綾乃  



    梅雨が明けて夏も本番。一年の中でも一番エネルギーに満ち溢れた季節。

    キャンプファイヤー・海水浴・バーベーキュー・ビアガーデン・・。思いつくままに夏の風物詩を書き出していると、過ぎ去りし日に、楽しく幸せな時間を共有したなつかしい人達の顔が浮かぶ。そんな思い出の中の彼らの笑顔に元気をプレゼントされた様な気がして、不思議と活力が湧いてきた。

    夕涼み、浴衣に花火、夏祭り、とくれば隣に愛しい人が一緒にいてくれれば『鬼に金棒』どんなにか楽しく幸せな夏を過ごせることだろう、と思う。

     

    さてもさても、男女の縁とは摩訶不思議。なればこそゆかしき。

    今は昔。ある田舎に若い男ありき。

     

    おばあちゃんの生まれ育った町には今ではもう見ることもほとんどなくなった履物屋さん・下駄屋さんが二軒あったわ。そのうちの一軒にはおばあちゃんの同級生の女の子がいて家も同じ町内だから幼馴染ね。小学生時代はお互いの家も行ったり来たり、だから、彼女の歳の離れたお兄さんのことも良く知っていたの。

    さてさて、今日のお話は幼馴染の美紀ちゃん、彼女のお兄さんが主人公よ。

    美紀ちゃんもマトリョーシカに描かれている女の子に良く似た、小柄で目のぱっちりとした可愛らしい子だったけれど、お兄さんはまさに鄙には稀なる美男子だったわね。子供心にも彼の綺麗な顔はとても強く印象に残っているわ。

     

    ご尊父がだいぶお年を召していたし、なにか家庭の事情もあったのでしょうけれど、彼は高校には進学せずすぐに家業をついだのよ。おばあちゃんたちより一回りも年が離れているわけだから、おばあちゃんの記憶の中の彼は店先の座布団に胡坐をかいて、黙々と鼻緒をすげかえ仕事にうちこんでいる姿だわね。

    大変な美男子の彼には、町内にも在にも(田舎町のなかにもマチウチとザイ・町と田舎の呼び名がある)お嫁さんに立候補する女性は星の数程いたらしいわ。要するに大変にモテモテ(美紀ちゃん談)だったみたいね。

    それでもなかなか彼のお眼鏡にかなう人は現れていなかった、そんな矢先の夏祭りの日。事件はおこったの。

     

    夏祭り。今の故郷の夏祭りはきっとだいぶ様変わりしていることでしょうねぇ・・。

    今の様子はまるでわからないのだけれど、昔々、おばあちゃん生まれた地方では祭りというと町や村単位・はたまた、地区や神社ごとに催されていたから、数でいうと相当数にのぼるわね。それが昔の人たちの楽しみであり、コミュニケーションの場所でもあったのよ。だから、お祭りというと親戚や友達、知人を招くのがごく当たり前の風習だったの。お呼ばれしたり(招かれたり)招いたりね。

    美紀ちゃんのお兄さんの運命の人も、職場の保母さん仲間にお呼ばれして、その日隣町からお祭りに来ていたのよ。

    二人の出会いはまるでドラマの様な衝撃的なものだったのよ。

    まさに事件そのものよ。

    「目の周りはお岩さんの様に紫色になり歯も欠けて唇は腫れて血が滲んでいた」(美紀ちゃん談)

    そうなの。彼女は同僚と逸れてしまった、ほんのちょっとの隙に不幸にも暴漢達に襲われてしまったのよ。招き招かれる祭りでも妙齢の見知らぬ女性は珍しいから、隣町からやってきた彼女は目立っていたのかもしれないわね。

    祭りの宵。酒の勢いか集団のなせる業か、いずれにしても絶対許せないけれど犯人は若いエネルギーをもてあました愚かな輩たちよ。

    いつ、自分たちもそんな目に遭うやもしれない、そう思うと中学生1・2年生だったおばあちゃんたちにとっても、震いあがるほどショッキングで恐ろしい出来ごとだったわ。

     

    まったくの偶然、近くを通りかかった美紀ちゃんのお兄さんが、異変に気がつかなかったらもっと取り返しのつかない事態になっていたことでしょうね。

    祭り会場を後にして家に帰る途中、少し近道しようと神社の横手に回った時、祭囃子にまぎれて女性の声がした様な気がして暗がりに目をやると、何人か人のうごめく気配、「誰かいるのか」大きな声で呼びかけると蜘蛛の子を散らすように犯人どもが走り去り、後に傷ついた彼女が残されていたというわけよ。

    痛めつけられ、恐ろしさや悔しさ・いろいろな感情で口もきけないほど打ちひしがれた彼女を彼は自分の家に連れて帰り、けがの手当てをしてあげたの。(正確には手当をしたのは美紀ちゃんとおかあさん)

     

    助けられた彼女にすればハンサムな彼は『白馬の王子様』。

    彼女が一晩で恋に落ちてしまったのは必然、当然の結果といえるわ。でも恋に落ちたのは彼女だけではなく彼も同じだったみたいなのよ。妹の美紀ちゃんには、どうしてもそのことが納得できないみたいだったけれどもね。

    「ねぇ、聞いて。うちのあんちゃん(兄さん)ブス好みだったみたい。彼女、顔の腫れがひいてもほとんど顔かわらないのになぁ〜」。さすがにこれは言い過ぎかと思うけれど、大事な自分の兄を他の人に取られることへの反発心を差し引いても、その当時の感想としてはおばあちゃんも美紀ちゃんと同意見だったわ。でも、子供時代の美醜感覚だからあまりあてにならないし、美紀ちゃんのお兄さんの顔があまりにも端正だったので釣り合わない様な気がしたのかもしれないわね。

     

    釣り合わないと言えば、彼女は家つきの跡取りで一人娘。学歴も短大卒。かたや、彼は中卒の跡取り息子。あれやこれや、何やらかにやら総て釣り合わないと、彼女の家族から猛烈な反対をうけながらも彼らはめでたくゴールインすることとあいなりまする。

    紆余曲折の物語はまた、機会があればお話し致しましょうかしらね。

    まずは、めでたしめでたし。