TOP > イククルコラム > 《おばあちゃんの恋袋 第三十二話》幸せの青い鳥 〜後の祭り〜

《おばあちゃんの恋袋 第三十二話》幸せの青い鳥 〜後の祭り〜

  • 2014年06月09日  吉井 綾乃  



    暑い。 六月の声を聞いたばかりなのにこの暑さはどうしたものだろうか。

    ちらほらと梅雨入りの声も聞こえてくるけれど、暑いのも敵わないが梅雨時の雨も厭なものだ。暑さも梅雨も農作物にとっては大事な天の恵みと解っていても好きにはなれない。

    恋も同じ。 好条件で非の打ちどころがないお相手だと解っていても、それだけでは恋心は生まれわしない。寧ろ往々にして、条件の悪いお相手に心惹かれたりするものだ。 だから恋の成就がいつでも幸せを運んで来てくれるとは限らない、と思う。

     

    昔々の若かりし頃の出来事を、時々「あれは人生のターニングポイントだったのかもしれない。あの時違った選択をしていたら・・」、と『たられば』後悔と言うか・・何と言えばいいのかしらねぇ? 後悔でもないし懐かしいでもない、ちょっと複雑な気持ちで思い出すことがあるのよ。

    これだけ長く人間をやっていると人生のターニングポイントと思しきことには何度も遭遇しているわけだけれど、中でも結婚の決断、伴侶の選択これが一番大きいポイントよね。とかなんとか、偉そうに書いているけれど若かりし頃のおばあちゃんはワカイというよりバカイに近かったのかもしれないわね。大事なターニングポイントは見落とすし、仮に気づいても状況を良く理解出来ていない、要するにお馬鹿さんだったのね。だから『たられば』はとっても多いのよ。

     

    今日はそんなおばあちゃんの今更ながらというより、今だからわかる恋心のお話をしましょうかしらね。

    今から40数年前、アルバイト姫と呼ばれるぐらい毎日アルバイトに明け暮れていたおばあちゃんの勤め先に、1階がケーキ屋さんで2階がレストランというお店があったの。場所は上野よ。 そこにはおばあちゃんがねえちゃん(お姉さん)と呼んで慕っていた女性が働いて、一緒に働けるのはとても楽しかったわ。

    おばあちゃんはアルバイトだったけれどそのお店は会社組織なので殆どの従業員が社員さん。もちろんねえちゃんも社員さん。ねえちゃんは中学を卒業してすぐにそこへ就職したから勤続14年のベテラン社員よ。だから、その頃すでにお局様。そして男性社員にも人気があったわ。だからそのねえちゃんの妹分のおばあちゃんにとって、とても居心地のいい職場だったのよ。

     

    或る日、ねえちゃんが真剣な顔をして「○○子、お願いがあるの。私の代わりにデートに行って」。聞けば同じ職場の男性にデートを申し込まれて会う約束をしたのだけれど、遅番の人手が足りなくて残業をすることになってしまった、それで約束の時間に行けそうにもないから代わりに、と言うことだったの。 他でもないねえちゃんの頼みだし相手の顔を見たい気持ちもあったから二つ返事でOkしたのよ。 只、「私が行くまでその人の相手をしていて頂戴」。ん・・?なぜ? 少しおかしいとは思ったけれど今の様に携帯電話などない時代だから連絡の方法がないのですものね。待ちぼうけさせては可哀想だと思っているのだろうと軽く考えて待ち合わせの場所に急いだの。

     

    あっと声には出さなかったけれどデートのお相手の顔を見て内心とてもショックだったわ。何故かと言うとその彼はその当時、おばあちゃんの一番のお気に入りの人だったからよ。

    彼は2階のレストランで働いているコックさん。お話したことは殆ど無かったのだけれど、優しそうな笑顔と白衣が良く似合って実は♡す〜ごくいいなぁ♡と思っていたのよ。私服の彼を見るのは初めてだったけど、私服姿もとてもカッコよく見えたわ。で、思ったの。『彼はねえちゃんより年下のはず。でも彼の様に優しい人にはねえちゃんみたいなしっかりした人がお似合いなのかもしれない』ってね。

     

    ねえちゃんのご命令通りにねえちゃんが来るまでの間しっかりお相手をして頑張ったわ。

    彼は横浜の生まれで実家は和菓子屋さん。長男が実家を継ぎ彼は次男坊。横浜と言っても田舎の方なので土地は一杯あり、親御さんがすでに彼がお嫁さんを迎えて住む家を用意している、などなど。彼はおばあちゃんにインタビューされている気分だったかもしれないわね。 

    どのぐらい時間が経ったのかしら、待てど暮らせどねえちゃんが来ない。「お腹すいたでしょう。ご飯でも食べに行く?」「いいえ、○○さんが来るまで待ちます」「大丈夫、そこの公衆電話でお店に連絡入れて○○さんには行き先を知らせて来るよ」。

    実はおばあちゃんにはその日も夜のバイトがあったの。だからねえちゃんが来たらバイト先に向かうつもりだったのよ。

    「連絡して来たから大丈夫。行こうか」「連絡出来たのならお二人で楽しんでください。まだ、馬に蹴られるのは厭ですから、それにこれからちょっと野暮用があるのでお先に失礼します」。 今思い返せばその時一瞬彼が悲しそうな顔をした様な気がするのだけれど・・。

     

    そのお店の次ぎのバイト日が来て、ねえちゃんにデートの結果を聞こうと「ねぇねぇどうだった」「鈍い子ねぇ」。なんとそのデートは彼がねえちゃんに頼んだおばあちゃんとのデートだったのよ。 後日談は長くなりそうなので今日はここまでかしら。

    近頃はね、彼と一緒になっていたら今頃は横浜の一軒家に住んで都会生活を満喫していたかも・・、なんてあれこれ想像しながらちょっと楽しんでいるのよ。