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《おばあちゃんの恋袋 第三十八話》 〜夏祭りの恋物語パート1〜

  • 2014年07月21日  吉井 綾乃  



    どこかで祭囃子の音がする。キンコンと独特の高い音を奏でる当たり鉦と笛の音だ。そうか、今年ももう夏祭りの時期がきたのか・・。

    太鼓の音も聞こえる。なつかしく心が浮き立ち思わず口元が緩む。

    今、暮している町の近くでは豪華な山車などが出る、わりと規模の大きな夏祭りが毎年催される。そんな華やかな祭りも良いが、昔の村祭りの名残そのままの小さな地区々が主催する小ぢんまりとした祭りも捨てたものじゃない。

    祭囃子を聞いている限り、大きな祭りでも小さな祭りでも参加している人・見物する人、皆一様に楽しく幸せそうだ。

    なつかしい思いだけでなく心踊る様なウキウキ気分の夏祭り、そんな夏祭りは今も昔も、お若い人たちの恋や出会いの大事なアイテムになるのでは、と思う。

     

    ここ2・3年は夏祭りに出かけることも無かったのだけど今の時代でも、夏祭りの宵には中学生か高校生とおぼしき男の子や女の子が三々五々、楽しそうに連れだっているのを良くみかけるわよね。

    いくつものグループに出会うのだけれど、男女混合のグループってほとんどなくて、男の子と女の子のグループにはっきり分かれていていることが多いわね。お互いのグループを意識しながら付かず離れず、言葉を投げかけ合う、そんな感じかしら。それがとても初々しくて可愛らしくて実に微笑ましいなぁって、彼らを見かける度に思うのよ。

    思い返せばおばあちゃんの中学・高校時代もそんなふうだったかもしれないわ。いいえ、気持ちは、今の女の子たちよりも、もっと大きくふくらんでいたかもしれないわね。なぜって、昔々、おばあちゃんの若かりし頃の夏祭りと言えば一大イベントだったのですもの。おばあちゃんの生まれ育ったところがとても田舎だし、何より今のように有り余るほどの娯楽の選択肢などなかった時代だから、夏祭りの役割はとても大きなものだったのよ。

    街灯だって大通りに数個しかない様な田舎町で、若い女の子が大手を振って夜に外出できるのはお祭りぐらいしかなかったのですもの、期待も胸もふくらむというものよ。

     

    男の子のグループも女の子のグループも、お互いに声をかけてきてくれるのを待っている様な微妙な距離感がとても可愛らしいわねぇ。(いわゆるナンパとは何所か風情が違うと思うのはおばあちゃんの思い込みかしら)それから進化(?)するとカップルね。その前に二人だけよりダブルデートを選ぶ恋人未満と思われる初々しい2組の子たちもいるかしら。それから、しっとりと落ち着いた恋人同士、それぞれ微笑ましいわよね。でも、手を繋ぐのさえ恥じらってしまう様な初々しいカップルが、夏祭りには一番似合う様な気がするのは昔の思い出のせいなのかもしれないわね。

     

    中学・高校と夏祭りはおおいに青春を謳歌したけれど、まだまだ女の子同士のガールズトークイベントの域を超す事は出来なかったのよ。でも、上京してはじめての夏休み、帰省中の夏祭りの夜にそれはおこったの。

    夏祭りの会場に行けば誰かしら帰省中の友達に出会えることは間違いないから夕飯を済ませて、まだ高校生だった妹と連れだって家を出たわ。

    会場につくとすぐに妹は同級生の女の子達に合流してしまったから、おばあちゃんは道の両側にズラリと並んだ屋台を見て回っていたの。とんとんと肩を叩かれて振り向くとドキッ!そこに立っていたのは中学の2学年上のバスケット部エース、郡司先輩。中学生当時、1年生女子の一番の人気者。色が浅黒くて背が高くスポーツ万能。小学校を出たての女の子から見たらとても大人で格好よく見えたのね。

     

    風のたよりで、先輩が高校を卒業して消防士の学校(?)に進んだらしいということは知っていたのだけれど・・。「久しぶりだね」「はい」ガチガチに緊張しまくり。とても同級生の前と同じように、煙草をスパスパの物知り顔のねえちゃんの態度なんてとれません。中学時代なんかと比べようもないほど、素敵で魅力的な男性になってすぐ側に立っているのですもの。

    幸せなことに、それからしばらくの間誰からも声かけられることもなく屋台をそぞろ歩きながらいろいろ近況など話したのだけれど、ほとんど内容は覚えていないのよ。

    でも「明日も来るの?」「はい」「じゃぁ、また会えるね」その言葉だけは鮮明に記憶しているの。「また会えるね」。明日また会おうってことでしょう。『やったー』思わず心の中でガッツポーズだわ。郡司先輩もおばあちゃんもそれぞれの友達と合流してその日は終わりよ。

     

    宵祭りに本祭り。祭りが2日間続くことに感謝よ。

    次の日、急に浴衣を着せてと頼み込んで、母親を不思議がらせて『いざ鎌倉』へ。あんまりキョロ〃としてはみっともないから祭り会場の辻で何気なく立ちどまる。程なくして「こんばんは」。なんということ、今日は肩をとんとんと叩くのではなく、そっと手を握ってくれた。それこそ心臓が口から飛び出しそう・・。心臓の音が彼に聞こえてしまうのではと思い余計にドギマギ。頬がかっとほてるのが分ったわ。嬉し恥ずかしと思う間もなく、お面をつけて水鉄砲を持ったちびっこ達が、追いかけっこをしながら二人の間を駆け抜けて二人の手は離れ離れ、それっきり。

    隣に先輩がいることだけでとても嬉しかったのよ。でも、もう一度手を握りたいと心底願いもしたわ。しかしねぇ、お粗末なことに無理して履いた下駄の鼻緒がきつ過ぎて、早々に家路に就かざるをえなかったの。しかも裸足でね。先輩にはなんて伝えたのだったかしら、忘れてしまったわねぇ。

    夏の日の夢のごとくだわね。