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《おばあちゃんの恋袋 第三話》イイ男・今昔物語 Part V

  • 2013年11月12日  吉井 綾乃  



    今は昔。今は昔と言うけれど古今東西、恋のイロハを教えてくれた学校はない。

    教えてくれた先生もいない。だから恋は優等生も劣等生もつくらない。

    そう。だから誰も上手な恋のしかたを知らないのだわ、と思う。

     

    中森明菜ちゃんが歌う曲の中に”恋も二度目ならもっと上手に“という歌詞があるけれど、おばあちゃんのうん十年の恋の歴史(?)からみても、経験を積んだら上手になると言うのは無理、間違いだと思うわ。そんなに簡単な代物じゃないわね。あれは。

     

    話は変わるけれど、今どきの女子やおの子も秋は人恋しく物悲しい気持ちになったりするのかしら?

    季節の中でも特に秋は恋が良く似合うと、このおばあちゃんは思っていたのだけれど若い人たちの恋は別ね。若い子達の恋には夏が一番似合っているかも。

    眩しいくらいに輝いているから夏が似合うのね。若さの特権よ。精一杯恋して頂戴。

     

    速いものね。紅葉の季節ももう終わり。秋も終わりを告げるわ。もう十一月も半ばになるのですものね。

    実はね、おばあちゃん自分のことを第二話で話し始めてしまったのをちょっぴり後悔しているのよ。

    街路樹が色づく頃になると思い出してしまう、だけど思い出したくはない触れたくはなかった恋話のこと。でも頑張ってお話しましょうかね。

     

    さてどこまで話したかしら。

    見染めた彼のアルバイト先の喫茶店に、一日に二度も通い詰めとうとう彼がおばあちゃんの存在に気がついた。ここまでだったかしら?

    夏の終わりに芽生えた恋。

    文字にすると格好がいいわね。中身はまるでお粗末だったから少し格好つけておこうかな。笑止ものだけど。

     

    大学の夏休みは長いわ。八月いっぱい夏休みだったけど其の夏休みの終わりに彼を見染めたの。其の時は思ったものよ。

    なんで夏休が終わる時なの、もっと早く休みの前に彼を発見したかった。そしたらきっともっと楽しい夏休みになっていたはずなのに、って。すごい思い入れ。

    たしかに彼は綺麗でスマートな人だったから、見ために惹かれたのは事実かもしれないけれど、でも未だに解らない。なぜあんなにも夢中になったのか、いったい彼の何に魅せられたのかが。本当に謎。

     

    半月も通い詰めた甲斐が有って、彼から声をかけられた時は、其れは其れは嬉しかったものよ。たしかに天にも昇る様な気持になった記憶が有るもの。

    その頃のおばあちゃんは、アルバイト先の訳あり軍団からの影響や持って生まれた探究心やらのおかげで相当の耳年増になっていたわけ。

    でもまだまだ初心でピュアだったから、それこそはにかんで頬染めながら受け答えしたものよ。

    会話の内容はなんにも覚えていないけれど、たわいもない会話がとても楽しく心躍るものだったことは確かね。

     

    40年前の夏の終わりは、近年の様な厳しい残暑こそなかったものの今も昔も変わることなく季節は巡り来るわ。

    季節は巡り彼から始めてデートに誘われたのは、街路樹が見事に色づいた秋も盛りの有る日の事でした。

     

    皆は知っているかしら、推理作家でシャンソン歌手の戸川昌子女史のこと。80歳位になる今も歌っているとのことだけれど、その女史が東京は渋谷で”青い部屋“と言うとても有名なサパークラブ、(今ではサパークラブも死語かな。食事も出来てお酒も飲めるお店)を経営していたの。其の”青い部屋”って最初は喫茶店だったらしいけれどおばあちゃんが其のお店の存在を知った頃には、今は亡き天井桟敷の寺山修司氏や三島由紀夫氏、そしてまた文壇のそうそうたるメンバー等が通うお店として、超が幾つもつくほどの有名店になっていたのよ。だからおばあちゃんだって当然名前を知っていたわ。

    そのお店に一緒に行こうって彼に誘われたのよ。“ワーオ”断る理由なんか有るはずないわよね。おばあちゃんも絶対行ってみたいと思っていた店だもの。

     

    ”青い部屋“が朝まで営業していたのかしら。

    二人のアルバイトが終わる10時過ぎに待ち合わせをして、彼が車で迎えに来たわ。完璧なシチュエーション。今だって立派に通用する格好の良さでしょう。

    ただ車が彼の持ち物だったのか借り物の車だったのかは、まるっきり覚えていないの。

    行きの車の中で何を話したのかも覚えていないのだけど浮かれ気分だった事は想像がつくわね。

     

    お店につくと靴を脱がなくてはいけなかったのはちょっと吃驚したけれど、店内の床に絨毯が敷き詰めてあったので納得。

    お客様が椅子もテーブルもない空間で、それぞれ思い思いの場所に座り込みピアノの弾き語りなんかを聞いているなんて、田舎育ちのおばあちゃんにとっては大変なカルチャーショック。なんてアカデミックで都会的なんでしょう。そう思ったわ。

     

    あらあらまた肝心のイイ男についてお話する時間が足りなくなってしまったわ。

    困ったことね。おばあちゃんとしてもあまり長くならないうちに終わりにしたかったのに、なかなか思い通りには運ばないものね。長引いてしまってご免なさいね。

    話したくなかった恋話一つ。残りはあと少し。また少々待っていて頂戴な。