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《おばあちゃんの恋袋 第九十一話》魔法が解ける時〜うそぉ!〜

  • 2015年07月27日  吉井 綾乃  



    梅雨が明け7月も終わる。

    夏本番、暑さも本番、30度越えは当たり前の毎日が続く…。

    夏は暑くて当然だが、近年の夏の暑さは異常だと感じている方々も多いことだろう。

    近年の予測不能の暑さ寒さもさることながら、この世には『えっ』と虚をつかれる出来事は後を絶たない。ことに、偉大なる勘違いの産物ともいえる恋心の結末は喜怒哀楽と驚きに満ちている。

     

    さてさて、皆様方。今、好きなお方はいるのかしら?

    『想い想われ振り振られ…』と、ニキビ占いじゃないけれど、順調に事が運べば恋の最終形は相思相愛と言うことだわよね。でも、片想いのまま自分の想いをお相手に告げずにいるとその恋心はどこに行ってしまうのかしら?

    今日は、自分の想いを伝えることが出来なかった純子ちゃんの恋の行方のお話よ。

     

    純子ちゃんとは、バイト仲間の田辺君の想い人。田辺君は、今でいうところのチャラ男に近い、ネアカで楽しい人。性格も良いし顔もそれなり?というより美形と言ってもいいぐらい目鼻立ちの整った男の子だったのよ。ところが、いつもオチャラケてばかりなので整った顔が何の役にも立っていなかったわ。だって、変顔の一人コンクールみたいな人だったから、殆どの場合、大口開けて笑っているかおふざけの最中なわけよ。

    一度、おばあちゃんがバイト仲間の無礼講女子会で、

    「田辺君ってお洒落だし、けっこうハンサムだよね」

    と、言ったとたん

    「えっ、冗談」
    「エぇ〜。綾乃ちゃん、趣味ワル〜。眼も悪い〜」
    「ついでに顔も(笑い)」
    「そうだ、そうだ。冗談は顔だけにしろぉ〜」

    と、出席者全員から大ブーイングの嵐…。今も昔も、男性のいない女性だけの集まりは姦しく口が悪いもの。『男を見る目無しのレッテル』を貼られてしまったわ。たしかに、おばあちゃんは普通一般の女性が好む男子にあまり興味がなかったのは事実。でも、誰が何と言おうと、田辺君が整った顔をしていたのも事実よ。

     

    その田辺君が二年間ずっと想い続け、もうすぐ3年目に突入するという片思いの女性が純子ちゃん。

    二人の出会いは、純子ちゃんが短大入学と同時に始めたアルバイト先。そこには、先輩アルバイターの田辺君がいたという寸法よ。高校卒業したばかりの、『おぼこい』純子ちゃんに一目惚れしたのが田辺君。それからと言うもの、押しの一手で交際を申し込むこと数知れず。純子ちゃんが短大を卒業して就職が決まり、アルバイトを辞めてからも田辺君の攻撃は続いていたわ。その間、純子ちゃんにはデイトの真似事をするお相手が何人か現れもしたし、純子ちゃんから田辺君に色よい返事が届くということは皆無だったのよ。それでも、田辺君メゲナイ、メゲナイ。何度も何度もアタックするのみよ。

    「好きになりました。僕と付き合って下さい。お願いします」

    と、テレビでよく見る光景、花束を捧げ右手を差し伸べ、頭を下げる、そんな感じかしらね。

     

    そもそも、一か所のアルバイト先を入学から卒業までの間辞めずに勤め続けたことだけでも、おばあちゃんから見れば驚異的。それだけでも、純子ちゃんが真面目で実直な人だと分るわよね。それは、田辺君にも言えること。彼も大学の4年間、そこでアルバイトを続けたはずよ。二人とも真面目そのものよ。

    純子ちゃんが田辺君からから最初に、告白されたときは田辺君の軽佻浮薄な言動に嫌悪感に近いものを抱いていて、田辺君のおふざけの一環ぐらいにしか思っていなかったらしいのよ。最初こそ、まるで取り合う気がなかった純子ちゃん。でも、何かにつけて垣間見える田辺君の優しさや、本当に純子ちゃんだけを想い続けている一途さに、少しずつ仝心は田辺君に向き始めていたのよ。

    『軽薄で嫌いだわ、この人』から『軽薄さは、サービス精神がおおせいだからなのかもしれないわ。田辺さんって良い人なのかも…』そして、『軽薄さはうわべだけね。本当は心の優しい周りに気遣いのできる人なのね』までに変わり、田辺君の交際の申し込みを受けてもいいと考え始めたの。

     

    でも、純子ちゃんが最後の一歩を踏み出して田辺君にOKサインを伝えられないのには訳があったの。実は、純子ちゃんには中学・高校時代から憧れ続けた片思いの男性がいたのよね。その片思いのお相手は良くある、スポーツ万能、成績優秀、長身で爽やかイケメン。全女生徒の憧れだったらしいわ。中学生の時は、淡い初恋程度の想いだったらしいのよ。けれど、その想いが本物の片思いに代わるきっかけが高校時代におきてしまったの。なんと、高校生になった彼の交際相手、彼女とは、純子ちゃんの中学の時のクラスメート。しかも、2年3年と同じクラスで割と仲も良かったらしいのよ。その事実を同級生から聞かされた時、自分でも驚くほどの強い衝撃をうけて、教えてくれた同級生に自分の動揺を気づかれないようにするのにとても苦労したらしいわ。

    『私、ほんとにY先輩が好きなんだ』と思い知らされたその晩は『夕飯食べないの?』と、訝る母親の声も無視。胸が苦しくて切なくて布団を頭からかぶって死んだふりを続けるほかなかったみたい…。それから、社会人になるまでその想いはずっと純子ちゃんの胸にくすぶり続けていたわけよね。そんな事、知るよしもない田辺君は押しの一手だけれどもね。

     

    社会人になった順子ちゃん、仕事の関係で出向いた先で、偶然にもこのY先輩に遭遇。Y先輩は純子ちゃんにまるで気がついてはいないけれど、何年も想い続けた純子ちゃんは直ぐ気付いたのは勿論のことだわよね。

    そこでのY先輩の醜態は『百年の恋もいっぺんに覚めるほどのもの』だったかは少し、異論のあるところだけれど…。その時、純子ちゃんが目にしたのは、彼女らしき女性に下僕の様について歩き、何故か、不機嫌な彼女にオロオロと情けない表情を見せる先輩の姿。高校時代に、クラスメートとの交際の事実を知った時とは逆にスーッと気持ちが引いていくのがわかったそうよ。恋の魔法が解けた一瞬ね。

     

    これがね、結婚を決めた田辺君と純子ちゃん、二人から聞いたおのろけ話。

    そして、二人は今でも仲良し夫婦。ホントに恋心は不思議よね。