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《おばあちゃんの恋袋 第九十六話》原石をみつけたよ〜運命の人〜

  • 2015年08月31日  吉井 綾乃  



    明日、9月1日は暦の雑節・二百十日。

    立春から数えて210日目が9月1・2日頃になるのだが、昔から台風がやって来るのもちょうどこの時期と言われ、二百十日は厄日とされていた。が、近年は二百十日以前に台風が来ることが多くなっているらしい。

    年月は台風までも変えてしまうようだが、原石とはどんなに年月を経ても変わらぬもの。そして、その原石こそ愛の証なのかもしれぬ。

     

    いつの時代にも不器用で自分の殻に閉じこもりがちな人って、結構多いのじゃぁないかしらね。さてさて、今日はね、不器用で自分の殻に閉じこもっていた女性とその女性の輝きを探し当てた男性のお話よ。

     

    黒縁メガネと肩まであるまっ黒な髪を首筋の後ろで一つに束ねた髪形はナオちゃんのいつも変わらぬスタイルよ。まるで目立たず、むしろ周りからは浮いたような存在ね。本人が周りにまるで溶け込もうとしていないから何となく女性社員からは敬遠されていたし、若い男性社員の中にはナオちゃんを『壁の花』と揶揄する輩もいたらしいわ。

    『壁の花』って、これはね、今はほとんど消えてしまったダンスホールが全盛期時代に生まれた言葉よ。男性から『踊っていただけませんか・Shall we ダンス?』と声をかけられるのを、壁を背にして待つ女性がダンスホールにはたくさんいたと思召せ。すると、どうしても男性陣から声がかからず、壁にもたれたままの女性も中には出てきてしまうもの。そんな女性を『壁の花』と称したわけよね。要するに、暗に魅力のない女性と言っているのと同じなのよ。失礼な話だけれど、若い女性が多い職場でもあり可愛い子やお洒落な子がたくさんいたわけだから、ナオちゃんはそんなことは百も承知していたのでしょうね。だって、ナオちゃんはとても聡明で感受性の豊かな女の子だったのですもの。

     

    幼少期からどうしても周りと馴染むのが苦手だったみたいだけれど、ご本人曰く『いつの間にか周りから一歩引いたところに身を置く術を身に着けてしまった』とのこと。そうなるには多くの出来事が彼女を苦しめたのだけれど、それは、今日のところは割愛させて頂戴ね。

    次に登場するのがおばあちゃんの5歳下の従弟、徹ちゃん…?小さい時から呼び捨てなので今更、徹ちゃんとも呼びにくいので徹、で行くわね。

    徹はおばあちゃんの妹、由紀乃の昔からのお気に入り。だから、徹の歴代の彼女には鋭いチェックが入り由紀乃のおめがねに叶う女性はそれまでもなかなか現れてはいなかったのよ。勿論、ナオちゃんにも鋭いチェックが入ったのは当然ね。

    従弟の徹が、あまたの魅力的な女性の中にいてけして目立たなかったであろうナオちゃんになぜ、目が行ったのかは本人も良くわからないようだったわ。神の御業かしらね。

    「なぜって言われても…。(しばし沈黙)偶然に新宿の紀伊国屋書店で彼女をみかけたのが最初のきっかけかなぁ」

    と、徹。

    「うん、それで紀伊国屋でどうしたの?」

    と、妹由紀乃の質問。

    「どうしたのって、どうもしないよ。ただ、(沈黙)本を読んでいる横顔にドキッとした。綺麗な人だと思った…」
    「初対面じゃないでしょうに」
    「そうだけど、話したことないし…、同じ会社だな、という程度しか知らないんだから初対面みたいなものだよ」
    「で、話しかけたの?」
    「しないよ、だいたいもともと彼女は『私の側によらないで』のオーラ全開のタイプなんだぜ。無理だよ」

    と、徹。

    「じゃぁ、どうやって口説いたのさ」

    と、由紀乃。

    おばあちゃんが言うのもなんだけれど従弟の徹は幼い頃から顔立ちの綺麗な可愛い子だったのよ。そして、長じてからは男らしさも加わり女性が放っては置かないタイプの男性に成長していたの。言うなれば選り取り見取りの買い手市場だわね。でも、こと女性に対しては、とても誠実で自分が選り取り見取りの買い手市場にいるという意識がまるでないようだったわ。由紀乃にしてみれば、そんな徹が外見上は目立たないイケテない女の子を選んだことが少し腑に落ちなかったのか、質問攻めで徹を困らせていたのよね。

    「別に口説いたわけじゃないよ」
    「だって現に今、付き合っているんでしょうに、よ」

    と、ほぼ詰問調。

    「思い切って食事に誘った」
    「いつ、いつよ。それで?」
    「紀伊国屋で見かけてから1か月ぐらい後かなぁ」
    「徹、あんたはおじいちゃんか。1か月も何してたのさ」
    「何してたって、何も…。ただ見てた」
    「キショイ、気色ワルー」
    「なんでだよ。彼女他の人を寄せ付けないような雰囲気があるんだぜ。でも、何故かいつも彼女のことを目で追ってた…」
    「お、おっ。惚れたんだね。で、それからどうしたの」

    と、おばあちゃんも聞いてみたわ。

    「思い切って食事に誘ってみた」
    「やるじゃん。それで」

    と、おばあちゃん。

    「そしたら、彼女、最初、すごく驚いて鳩が豆鉄砲食らったように、目がまん丸。そのあとに少し怯えた顔になって『私にですか』って聞いた」
    「へぇ〜」
    「ふぅ〜ん」

    と、おばあちゃんと由紀乃。

    「そしたらさ、そこでも彼女『本当に私なんかと食事がしたかったのですか、本当に私なんかで良かったのですか』って聞くんだ。だから、言った。『貴女が、いいんです』って言ったよ」
    「カッコイイじゃん」

    と、由紀乃。

    「そしたら、泣き出した」
    「へぇ〜、そうなんだ」

    暫し全員無言。

     

    と、無事に由紀乃の厳しいチェックも通過して二人は恋人同士。そして、1年が過ぎた頃にはお洒落上手な由紀乃の手解きを受けて見違えるように可愛いらしく素敵な女性に大変身したナオちゃん。もともと、素材が良い原石のような彼女は徹に発見されて、光り輝き出したというわけよね。だから、それ以来徹は自分の美意識と見る目の確かさを自慢の種にしているわ。

     

    でも、おばあちゃんはそれもこれも愛のなせる業、と思っているのよ。だって、今でも徹とナオちゃんは素敵な夫婦ですもの。