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《おばあちゃんの恋袋 第九十話》高ビー女史の弱点〜武骨な男〜

  • 2015年07月20日  吉井 綾乃  



    36℃!梅雨明けの声はまだだが…。

    うだるような暑さと湿度が尋常ではない。各地に高温注意情報なるものが出されているがはて、何をどう注意すればよいものやら。我慢せず冷房の効いた場所へ避難すべし、ということか。

    然もありなん。無理な我慢は命取りになる。おおよそ、痩せ我慢が似合うのは武士の世界とイイ女・イイ男の世界ぐらい、なもの。でも、恋心には我慢は禁物…。

     

    先週までは雨・雨・雨の毎日でうんざり、今週は打って変わってこの半端ない暑さ。極端な変化に身体がついて行くのがやっとよ。

    昔から梅雨は鬱陶しいし、夏は暑いものだったけれど、今は、昔々とは気象状況がだいぶ違っているようだわねぇ。

    さてさて、今日のお話はと言うと、今も昔も変わらない不思議な、不思議な女心のお話よ。

     

    最近は「三高」というフレーズはとんと聞かれないけれどもう死語なのかしら?

    バブル全盛期に、女性が結婚相手の条件として三高、「高学歴」・「高収入」・「高身長」の男性を求めたことから流行語にもなって、今では俗語として認知されているわよね。

    今日の主役リエさんはこの三高の女性版。「高学歴」で「高収入」そして「地位が高い」女性だったわ。正しくは、周りの人の目がリエさんを三高の女性と見ていた、というのが正解かしらね。

    そもそも、昔々の会社で女性が役職につくのは破格なこと。それに今の様に誰も彼もが大学に行くような時代でもなかったから、それなりに大卒の肩書は力があったのよね。

    その会社は女性が多い職場だったし、リエさんがその会社では珍しい大卒の女性だったことしかも、ちょっと際立つ美人さんだったこと。そんなこんな、が重なって周りの目がリエさんを特別な存在、高みにいる人、それが転じて三高女史と、みなしていたの。でも、決して高級取り、高収入でもなかったと思うのよ。地位だって肩書は主任だったしね。それでも、当時は女性が男性の部下を持つ立場にいる、というのは珍しいことだったと思うわよ。

     

    高収入も地位の高さも?マークだけれど、間違いなくリエさんは誇り高き女性。

    仕事に対する姿勢もリーダーとしての資質も二重丸どころか三重丸。毅然とした態度と凛とした姿が魅力的な人だったわ。でも、男っぽいということではないわよ。

    当時のリエさんの直属の男性上司のリエさんを称える口癖が『女にしておくのはもったいない』という女性から見れば女性蔑視の有り難くない褒め言葉だったのは、リエさんが本当に有能な女性だったということの表れだわ。

    性格も、ハッキリした実に男前なリエさん。ところが、圧倒的に女性が多い職場でもあり、なまじ美人さんだったのが災いして、周囲からは高飛車な女、今でいうところの『高ビーな女』のレッテルが張られていたわ。

    ほとんどが嫉妬心からの評価に違いないけれど、あながち、そうとばかりも言えないのは会社でのピラミッド構造のせいだったかもしれないわね。

    仕事上、リエさんの下には5人のグループリーダー(男性)がいて、そのグループリーダーの下が4〜5人の女性陣で構成されていたの。だから、ピラミッドの頂点がリエさんでそれを支える男性陣、その下に多くの女性陣という構造よ。それに、5人中1人を除いて男性リーダーは全員がリエさんの信奉者。だから臣下を率いている女王様、高ビーな女に見えるかもしれないわよね。

     

    「高須さん。前回のQCの結果報告まだよね」

    と、リエさんが目線もあわさず強い口調で質問しているのはおばあちゃんの班のリーダー高須さん。我が班のリーダー高須さんは武骨を絵にかいたような男性。他の4人のリーダーと比べると可愛そうなぐらいだったわ。だって、おばあちゃん最初は高須さんが妻帯者だと思い込んでいたぐらいだもの。なぜって、高須さんが生活感の滲み出ている年配者に見えたのよ。老けて見えるのも残念だけれど、ぶっきらぼうな物言いもマイナスポイントだわ。正直な話、ほかの班のリーダーは若くそれぞれ魅力的な男性だったから高須さんの班に編入されたときは内心ガッカリ、だったのよね。

    リエさんの我が班への風当たりが強いのは、高須さんがリエさんの信奉者ではなく、加えてリエさんは高須さんのような武骨な人が苦手なのだろうと、想像していたわ。だって、リエさんが高須さんに話かけるときはいつも詰問調だし、目線だって満足に合わせないで、一方的にまくしたてる感じ、そうなのよ。いつもイライラ苛立ち、怒っている感じなのよね。

    「これからです。今日中にだせます」

    と、弁明するでもなくぶっきらぼうに答える高須さんに

    「お願いしますね」

    と、言いおいてそそくさと去って行くリエさん。

    ほかの班のリーダーたちや他の部署のリエさんの信奉者とは楽しそうに談笑したりしているのに、よほど、高須さんとそりが合わないのだと思っていたのよ。

     

    リエさんは男前で仕事のできる魅力的な女性。これは最初から分かっていたことだったけれど、我が班のリーダー高須さんが、実に味わい深いイイ男でしかも、5人の中のリーダーの中で一番若いと知ったのはアルバイトを始めてそんなに日数がたたないうちだったわ。しかも、最初の印象が最悪だったせいで高須さんの株はおばあちゃんの中ではうなぎ上りに急上昇よ。

    そうなってくると、賢くリーダーの資質にも恵まれているリエさんが高須さんの良さに気づかないのがどうしても、解せないのよねぇ。

     

    リエさんは、そんなに高須さんが嫌いなのか、苦手なのかと思っていた矢先におばあちゃんが目撃したのは高須さんの後をつけるリエさんの姿…。

    あれは、夏の日の半ドン、土曜日のこと。おばあちゃんは友達と待ち合わせて遊びに繰り出す相談がまとまり、会社から最寄りの駅に向かう道すがら、硝子窓が通り沿いに面した某有名喫茶店チェーンで珈琲タイム。

    すると、反対側の歩道を駅に向かってやや急ぎ足で歩いているのは高須さん。『今日は残業無いんだ』と、見ていると日傘で顔を覆うように高須さんの歩調に合わせてやってくる女性が一人。高須さんはまるで気づいていないように歩調は変わらないわ。そして、男性の早足に合わせるのには、日傘を差すのは無理とばかりに日傘が閉じられ、現れたのはリエさんのちょっと緊張した顔。『えっ?え〜?』

     

    狐につままれたような気持ちに襲われたけれど、いっぺんに疑問が解けたような気持にもなったわ。

    リエさんの高須さんに対する態度は恋する女の痩せ我慢の表れか、はたまた年上だからかしら、上司だからかしらと若いおばあちゃんは考えてみたけれど、女心は今も昔も不思議でいっぱいね。