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《おばあちゃんの恋袋 第二十一話》今昔浮気考 〜問い詰めないで〜

  • 2014年03月24日  吉井 綾乃  



    春本番。 例年より少し長かった冬もやっと終わりを告げたようだ。

    春夏秋冬。四季があると言うことはなんて素敵なことだろう。 四季その折々に五感が解き放たれて、年を重ねた身にも喜びや幸せを思い出させてくれる。 特に春はあらゆる生命の息吹の時。厭でも元気になれる思いがする。

    さてさて季節とは移ろい往くもの。そしてその移りゆく季節の如く移ろい往くものとは、人の心だろうか。 確かに男と女の恋愛においての心変わりは移り往く季節そのものだ。でも浮気と心変わりとは全く別物なのだ、と思う。

     

    今も昔も浮気はそうそう隠し通せるものじゃないようね。

    悪事千里を走るとまではいかないまでも、先ず間違いなく浮気は露見すると思った方がいいわね。

    浮気の発見にもとっても役に立ちそうな今どきの携帯電話。 この携帯電話、今どきの恋愛においても大変な威力を発揮しているわよね。 でもそれって恋する男女にとって良いことなのかしら。 昔人間のおばあちゃんから見ると何故か味気ない様な気もするのだけれど・・。

     

    良くテレビや雑誌で彼や彼女の携帯電話を内緒で見るか見ないかと言う論争があるけれど、浮気調査の為に(他に何らかの理由があるにしても)お相手の携帯電話を検閲するのは如何なものかしらねぇ。

    相手のことを知りたければお相手の彼や彼女を良〜く観察なさい。安易に携帯電話に頼らなくてもきっと気づく事が一杯あるはずよ。浮気のことばかりじゃなくともね。

    仮に浮気の動かぬ証拠が携帯電話から出てきたとしたら皆はどうするつもりなのかしら? 問い詰めて土下座させてお払い箱にしちゃます? 

    彼や彼女が貴方にひた隠しに隠そうとしていたのなら未だ心変わりはしていないはず。貴方に罪悪感を持っているから隠そうとするのよ。 これは単なる浮気。気の迷い。

    長い年月を考えたら一回や二回の間違いは誰にでもあるものよ。

    ここで肝心なのは貴方の気持ちよ。「どうしても許せない、これから一緒に歩いては行けない」そう思うのなら問い詰めてお払い箱になさいな。 でも未だ一緒にいたいと思えるのなら、問い詰めるのは得策とは言えないわね。 ケースバイケースだから一概には言えないし、泣き寝入りしなさいと言うことじゃないのよ。 

    但し、お相手の彼や彼女が一時の浮気心ではなくはっきりと心変わりしたのだと気づいた時はキレイサッパリ終わりになさい。 そうして前に進むの。

     

    昔々、お付き合いしていた彼のアパートにお泊りした朝。 40年も前のことだから携帯電話なんてまだ影も形もない頃のお話よ。 

    おばあちゃんはその日はお仕事がお休み。 前日の夜二人で映画を見て、そのあと少しアルコールを頂いてそのまま彼の部屋へ・・。彼は普段通り仕事が有ったのだけれど、其の当時、おばあちゃん休みの前の日はそのまま彼の部屋でお泊り。そして彼が仕事から帰るのを、お掃除してお洗濯をして夕ご飯の準備をして待つ、そんなフルコースがお気に入りパターンになっていたの。 

    だからその日の朝もぬくぬくと朝寝坊を決め込んでいたのに、けたたましい電話の音が無常にも鳴り響いて叩き起こされてしまったのよ。 受話器を取ると「○○さんいらっしゃいますか」と若い女性の声がしたわ。「まだ寝ておりますがどんなご用件でしょう」「○○さんにモーニングコールを頼まれた者です」えっ!えっ!えっ! 一気に眠気は飛んでいってしまったけれど、この一大事をまるで理解出来ないでいる寝ぼけた頭が、咄嗟に今一番の良案としてタヌキ寝入りを指示したのよ。 そうなの。彼と対峙することを避けたのよ。 結果的にはとても良い方法だったのだけど・・。 眠くて目が明かない、と寝ぼけている体で、黙って彼に受話器を渡すと、そのまま蒲団にもぐりこみタヌキ寝入りを続行したの。

     

    彼は何時ものように出勤準備を済ますと、何事もなかったように「行ってくるよ」と何時も通りに優しく頬にキスをして会社に出勤して行ったわ。

    でも残されたおばあちゃんはとても々いつも通りとはいかなかったわよ。 もう寝てなんかいられないもの。それでも不思議なことに彼に腹を立てると言う感情はおきなかったのよ。 その代わり反省したわ。 おばあちゃんが彼女と言う定位置に胡坐をかいてノホホンとしすぎていたこと。安心しきっていて彼に対して怠け者、そう真摯さがなかったこと。そして彼にまるで目を向けていなかったこと。だから彼が以前と違っていることにも気づけなかったのだわって。

    おばあちゃんとお付き合いを始めた頃には使っていてそしていつの間にか使わなくなっていた口臭スプレーの小瓶を近頃また持ち歩いていたことや、真新しい靴が二足増えていることもその時に初めて気づいたのですもの。

     

    おばあちゃんはその朝電話をかけてきた女性のことは、その日もその日の後もいっさい彼に尋ねたりしなかったわ。 でもだいぶ時間が経ってから彼女が同じ会社の女の子だったことを問わず語りに話してくれたわ。 それからは一度も他の女性の影を感じさせるような出来事は起きなかったの。 勿論、「彼女でござると」胡坐をかくのは止めて彼のことをちゃんと見つめていたから、彼も見つめ返してくれたのだと今でも信じているわ。

    浮気をしてもされても一番肝心なのは、お相手の彼や彼女を大事に思い好きで居続けられるか、そう相手に恋する気持ちが大切なのよ。

    心変わりは詮無いことだけれど、浮気心は問い詰めると危険よ。取扱には十分注意してね。