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《おばあちゃんの恋袋 第二十九話》オオカミ少女の恋 〜罪と罰〜

  • 2014年05月19日  吉井 綾乃  



    春は良い。次から次へと色とりどりの花たちが目を楽しませてくれる。

    今、ハナミズキや藤の見頃は終わりだけれど、まさに五月に咲く皐月(サツキ)やアヤメ・ショウブ・カキツバタなどが見頃だ。 

    美しい女性への称賛の言葉として『いずれアヤメかカキツバタ』と言う言い回しをすることがある。 これは良く似ていて甲乙が付けにくい・区別が付けにくいと言う意味合いからだ。 アヤメ・ショウブ・カキツバタ、本当に良く似ていて区別がつかない。 似ていると言えばサツキとツツジも一見しただけでは見分けにくい。

    見分けられないのが美しい花なら、無粋なことと笑ってすますことも出来るが恋しい人の嘘と真が見分けられないのは悲劇なのか喜劇なのかと、思う。

     

    イソップ物語の中の「オオカミと少年」と言う嘘つきな少年のお話は皆も良く知っているでしょう? さてさて、今日は嘘つきな少年ではなくて嘘つき少女の恋のお話よ。

    彼女と出会ったのは、今から30年ぐらい前ね。彼女はおばあちゃんが勤めていたお茶屋さんにパートさんでやってきたのよ。

    一番初めはグラマラスな姿態にオッ。後々エッ?えっ???不思議な子だったわ。

     

    世の中には虚言癖のある人はけっこういるらしいわね。彼女もそのうちの一人だったのかしらねぇ・・。彼女は成人式も済ませた立派な大人。165cmと背が高くFカップの豊満な胸の持ち主。さらにキュッとしまったウエストは確か・・自称58cm、そしてバーンと張った見事なお尻。間違いなく世の中の男性諸君の目を釘付けにするに違いないボンキュッボンの垂涎ものの究極ボディを持つ彼女。

    同じ女でも見とれてしまうほどの魅力的な体つきの彼女を少女と呼ぶのには、それだけの理由があるのよ。 先ず、第一には身体とはまるでアンバランスな仕草や声。

    幼く可愛らしい声は姿を見ていないと小学生と間違うほどだし、仕草は何所かぎごちなく大きな胸と大きなお尻を持てあましている様に見えて、はにかんだりするちょっとした仕草がいじらしく小さな女の子の様だったの。それと第二は顔ね。ツルンとした卵型の顔にちまちまと付いている目鼻、たれ気味の小さな目と少し肉付きの良い丸い鼻、そしてエクボと八重歯。愛嬌があってとっても愛らしいの。口紅さえつけていないファンデーションだけのお化粧っけのない顔、とても大人の女性とは見えなかったのよ。でも、だからと言ってお洒落じゃないわけじゃないのよ。行きつけの美容院があり、センスのいい明るい色に染めた髪はいつも肩のちょっと手前で綺麗に整えられていたし、様服も自分に似合うものを良く知っていたわ。

     

    そんな不思議な魅力を持つ彼女が好きになったのは同じ会社の営業マンで単身赴任の42歳の妻帯者のおじさん。 好きになっただけならそんなに問題もないことなのだけれど、いけないことには彼女はそのおじさんの部屋の通い妻に。そして問題をいっそうややこしくしているのは彼女が新婚ほやほやの人妻であるという事実。

    『ダブル不倫なのね』ですまされないのはご当人たちの連れあいだけど、彼女の夫に関して言えば彼女が不倫しているなんて露ほども疑っていなかったわ。

    山梨に残してきた奥さんと都営団地の愛の巣で新妻の帰りを待つ夫。こんな場合、虚言癖がなくとも嘘をつく必要がでてくることは明白だけれど彼女の場合は必要に迫られて付く嘘ではなかったのよ。本人が嘘を言っているつもりがまるでないのですもの。だからいつ出会っても彼女と彼女の夫は幸せそうにみえている夫婦ではなく本当に愛し合っている幸せなご夫婦。そしておじさんと一緒にいる時も同じように、仲睦まじい二人、おじさんを愛して健気に尽くす可愛い恋人。

    仮に、おじさんには独身と嘘を言っているとしてそれはちょっとおいといて、旦那様をあれだけ見事に騙せるなんて不思議でたまらなかったので彼女に冗談交じりに「コツは何」と尋ねると一瞬怪訝そうな顔をして「二人とも相手の存在を知っているし、それを承知で愛してくれているのよ」そんな馬鹿な・・。

     

    そういえば確かに思い当たることが一杯あったわ。「東大を受験して受かったんだけど色々考えて入学するのは止めたの」「私には母親が2人いるのよ」「私が赤ちゃんの時母親が男の人と駆け落ちしたから本当の母親の顔を知らないの」「高校までバレーの強化選手だったんだけど膝を痛めて止めたの」エトセトラ、エトセトラ。全部が嘘とは言わないまでも運動神経は悪かったわ。少なくてもスポーツを続けていた人の動きじゃなかったわね。だってテニスでダブルスを組んだ時、一緒に組んだ事を心から悔やんだもの。でも、人を貶める様な嘘ではないし、サラッと言ってのけるからお話を聞いている方もそれが嘘とか本当とか考えたり意識したりしていないのよ。

     

    そんな状態が何カ月か続いたある日、「赤ちゃんが出来たの。私はAB型だけど、彼ら二人は同じA型だから産んでも大丈夫だと思うの」程なくして涙ながらに「流産してしまったわ」。それまでは先輩のおばあちゃんを頼りにしているんだわ、そう思いながら真剣に助言もしていたのだけれど、さすがにここまで来ると真剣な助言も虚しいだけよねぇ。

     

    更におじさんの妻が上京。(これは事実)「私にはもう要りません。貴女に熨斗を付けて(おじさんを)さしあげますから好きにして下さい」。虚々実々。

    其の後の彼女たちの関係がどうなったのかは、其の頃、前後して会社を辞めて東京を後にしたおばあちゃんには知る由もないのだけれども・・。

    本当にお花も色々、女も色々だわね。