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《おばあちゃんの恋袋 第二十四話》優しい男の悲劇 〜許しません!〜

  • 2014年04月14日  吉井 綾乃  



    もう桜の季節も終わる。 長閑(のどか)な春の光を浴びながら短い命を終える桜。 ものの憐れと同時に潔さを感じた人も多いはず。桜のひと時の夢の様な儚さは、まるで淡い恋心の様でもある。 

    淡い恋。 密かに想いを寄せているうちはそれだけで済むがいざ心を通い合わせた後、見事に添い遂げることは至難の業、成就する恋は少ない。 長いにしろ短いにしろ終わりを迎えるものが大半だろう・・。 そしてなかなか恋の終わりは潔くとはいかないものだ。

    桜の散り際の見事さはその儚い風情とは相反しているからこそ、それが一層見るものの目を楽しませもするのだろう。若い男女の恋も然もありなん、と思う。

     

    さて、皆さんも「天網恢恢疎にして漏らさず」こんなフレーズを耳にしたことはあるでしょう?  今日は本当にその通りなのね、納得というお話。  

     

    昔々、今の様に地下鉄や大きなステーションビルなど影も形もない頃の東京は錦糸町での物語。 墨田区の小さな駅。コジンマリとした駅ビルと駅前にはR会館と言う製菓会社の大きなビルがありましたとさ。 もっともおばあちゃんの記憶の中には駅ビルとそのR会館、それとマンモスキャバレーがあったことぐらいしか残っていないのだけれどもね。

     

    墨田区内の小さな会社に勤める仲良し3人組み。 平均年齢21歳。成人式を迎えたばかりの留美ちゃん20歳と、同学年の陽子ちゃんと玲子ちゃん21歳。 留美ちゃんと陽子ちゃんは会社が社宅として借り上げてくれた1DKのアパートで共同生活。で玲子ちゃんは自宅通勤者。 

    社長の自宅が自社ビル内みたいな、中小企業を絵に描いたような会社のOLだった3人は年が近いせいもあってとても仲良しだったのよ。

    お昼時になると会社のすぐそばにある留美ちゃんと陽子ちゃんが住むアパートに3人で戻り一緒に食事するのが日課になっていたわね。 近所のお肉屋さんから買ってきた揚げたてのコロッケやお惣菜でランチタイム。 こうして毎日お昼の休憩時間は、会社の同僚やお局さまの他愛もない噂話や恋話で盛り上がったり、転寝したりと愉しいひと時を過ごしていたの。 

    そして就業時間が終わった後はというと、若さを持てあましている様な留美ちゃんと玲子ちゃんの合言葉は「飲みに行こうか」。 おとなしい陽子ちゃんは大概の場合、微笑んでいるだけだったのだけれどいつも二人に押し切られる様な形で連れ出されていたわね。 

    連れ出された陽子ちゃんには決まったお相手はいなかったけれど、留美ちゃんと玲子ちゃんにはお付き合いしているお相手はいたのよ。 だから二人の建て前としては奥手の陽子ちゃんのお相手探しと言うことね。

     

    そんなこんなで3人が良く通っていたのがR会館の地下にあったクラブ。 おばあちゃんの記憶では、今で言うお若い方々のナンパスポットみたいな処だったかしらねぇ。

    照明を落とした薄暗くて広いワンフロワーには何ヵ所にもカウンターテーブルがあり、3人仲良くスタンド椅子でグラスを傾けているとたいていの場合、バーテンダーから「あちらのお客様からです」と言って飲み物が運ばれてくるのよ。気に入った女の子に飲み物をご馳走するのはおの子たちの常套手段、挨拶代わりよ。

    若い彼女たちは売り手市場。 おの子たちを良〜く吟味して、その場で盛りあがったり、場所をかえたり個人プレーに走ったりと若さにまかせてやりたい放題。 はち切れそうな若さを満喫していたわね。 独り身の陽子ちゃんは別として・・。

     

    二人がお付き合いしている彼達と途中で合流したり、個人プレーに走ったりとお楽しみに夢中な時、奥手な陽子ちゃんはいつも一人で部屋に帰るのが常だったわね。 でもそんな陽子ちゃんにも遅い春がやって来たわ。 出会いはやっぱりR会館だったけれどね。 

    陽子ちゃんのお相手、進一君はお友達の結婚式から2次会の流れでお仲間に連れてこられたらしいわ。 似た者同士の二人。 進一君の一目惚れ状態から交際スタート。 目の肥えた(?)留美ちゃんと玲子ちゃんの首実験も無事に突破して、順調にお付き合いが進んでいると思えた頃のこと。 

     

    或る日、留美ちゃんが軽井沢にお泊りデートに出かけることになりましたとさ。 留美ちゃんの彼は社長の甥っ子。28〜29歳になるのに二十歳になったばかりの留美ちゃんにしっかり手綱を握られて彼女の為すがまま。 社長の運転手でもある彼と、社用車のクラウンで、土曜日の半ドンと日曜日を利用してのお泊り旅行。 仕事が終わった後アパートの前で陽子ちゃんも「いってらっしゃい」とお見送り。  

    軽井沢に一泊して軽銀でお土産でも見るつもりで立ち寄ったお店の駐車場で、今まさに群馬ナンバーの車に乗り込もうとしているおの子は進一君。しかも運転手は妙齢の女性。 これは一大事とそのまま彼に車の尾行を命じて、確かに進一君の故郷は群馬だったはずと思いながら車のナンバーを書きとめた留美ちゃん。

    次ぎに停まったレストランで進一君に間違いがないことを確認。声はかけずにそのままは東京に戻り、今度は玲子ちゃんの出番。 

    玲子ちゃんの彼は妻子持ちで、どこかの役所のお偉いさん。 陸運局で車の持ち主の住所・氏名・電話番号まで調べたみたいよ。(怖いわねぇ。) 陽子ちゃんには何も知らせず、事は進んで行ったわ。 

     

    憐れな進一君は二人に呼び出され尋問をうけ、一緒にいた彼女は同郷で大学時代の彼女であり、就職の為上京した進一君とは已むなく遠距離恋愛の形をとったが、今では心は陽子ちゃんのもの。 陽子ちゃんとの交際を続けて行きたい、と答えたらしいけれど二人は聞き入れず接近禁止を言い渡し、進一君に二度と陽子ちゃんに近づかないと約束させたの。

    留美ちゃん曰く『悪意も意思もないのが一番厄介。傷つけている事に気づかず、又同じ過ちをくり返す』

    一見優しそうな優柔不断な男は恋に奥手な陽子ちゃんを傷つけるだけと断じたのね。