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《おばあちゃんの恋袋 第五十一話》恋愛トーク 〜祝・結婚〜

  • 2014年10月20日  吉井 綾乃  



    天高く馬肥ゆる秋。まさに食欲の秋である。梨に柿、クリにブドウに秋刀魚に松茸。

    秋の澄んだ空気のせいなのか、何を食べても美味しいくてついつい、食べ過ぎる。これはいけない、いけない。

    若い時の摂生は美のためだったり恋のためだったりと、どこか楽しい幸せな時間だったが、今は健康のためだけに、おおせいな食欲をグッとこらえる。恋する乙女心の我慢はかわいいものだが…。

     

    今も昔も、乙女心、女心に変わりはないのかしら?年寄りの口癖だと、今どきの若いものはうんぬんかんぬん。

    とても不思議よね。自分たちには一度も若い時がなかったかのような口振りだわ。

    それとは別におばあちゃんも、今どきの乙女や女子に尋ねてみたいのよ。女心に昔と今と違いがあるものなのかしらってね。

     

    あれは40数年前のちょうど今頃の時期だったかしら。アルバイト先に親友のアヤから電話があったのよ。

    「あのさぁ、わたし塚と結婚することにした…」

    「えっ!なに???ちょっちょっと待って」

    青天の霹靂とはこのことよ。アヤが塚さんこと飯塚さんとお付き合いしているのは知っていたけれど結婚の『けの字』も聞いたことがなかったのに…。しかも、あのアヤに限って結婚はない、はずよ。仲間内では一番の恋多き女で、次から次とお相手は変わるし、フタマタ・浮気は朝飯前という強者なのに。

    アルバイト先の電話口で問いただすことでもないし、長話もできないので「今夜アパートに行く」とだけ伝えて電話を切ったわ。それから急いで京ちゃんとカヅに連絡を入れ招集をかけたの。

     

    東京の戸越銀座に在ったアヤのアパートは、ベットとテーブル代わりの炬燵(こたつ)が置いてあり、それだけで、いっぱいいっぱいの一間に狭い台所とトイレが付いていたけど、お風呂は無し。あの頃はお風呂付のアパートのほうが珍しく、おばあちゃんやお友達もお風呂は近所の銭湯が常識だったのよ。だから、仮に恋人ないしは男性がお泊まりすると二人仲良く銭湯へ、ということになるわけよ。昔は、銭湯の数も半端じゃなく多かったしねぇ。『お風呂無しで不便だ』と思うかもしれないけれど、それはそれで楽しい思い出だわね。

     

    京ちゃんとカズとおばあちゃんが押し掛けると狭いアパートはすし詰め状態。牢名主のごとくアヤのベットに胡坐(あぐら)をかいて、おばあちゃんが会話の口火をきったわ。

    「どうなってるの?どう言うこと?なんで結婚?もしかして本気で好きだったわけ?でも、あっちはどうするの?」

    あっちとはもう一人の彼アツシ君。

    「別にアツシは平気よ。塚のこと知らないし、私の結婚とアツシは全然関係ないもの」

    と、ベットに腰を掛け足をぶらぶらさせながらアヤが答える。

    「プロポーズされたってことでしょう。アヤちゃん、決めちゃったのね」

    さすが、いつも冷静沈着な京ちゃん。

    「うわぁ〜。なんてなんてなんて言われたの?すご〜」

    これは、カヅ。このカヅの反応がその時22・3歳だったおばあちゃんたちの年相応の反応かしらね。

    「うん…。指輪を差し出して結婚してほしいって言われた」

    「うわぁ〜。すごい。プロポーズか〜。ね、ね、アヤ指輪見せてみせて」

    ミーハー、カズ面目躍如。

    「うん」

    そう言ってベットサイドの小物入れから指輪を取り出して見せてくれたアヤ。

    「ヒァ〜。ダイヤだ。たっかそう」

    と、カズ。

    「一応、お給料の3倍だって」

    とアヤ。

    「塚さんてしっかりしているのね。当たり前か、社会人だものね。でも、長男だからいずれ田舎に戻るって言ってなかったっけ?それって、大変なんじゃない?」

    冷静な質問は京ちゃん。

    「そうだよ。駄目だよ。夜だってほとんどイッタふりだって言ったじゃん。アツシ君のほうが良いって言ってなかったか〜?」

    不躾な質問はカズ。

    「言ったかも…。アツシには最初からそこは違うとか、あぁしてこうしてって言えたからかなぁ。今、塚、ほとんどここに入りびたりなんだ。今朝もここから会社、行った。あの時、そりゃぁ毎回イケルわけじゃないけど、今は塚にも、どうしてほしいって言えるから、それは平気」

    と、アヤが律儀に答えて続けたわ。

    「実はね、塚のおとうさんが病気なんだって。それで、おかあさんから実家に戻ってほしいって言われてるらしいんだ。ベタだけど…。それに、最初から大学出たら故郷に就職する約束だったらしい、長男だから。それを3年間待ってもらってたみたい」

    「塚さん、田舎、長野だったっけ?アヤさん一緒に行くの?」

    これは、京ちゃん。

    「うん…。長野に行きたいわけじゃないんだ。ホントは行きたくない…」

    アヤ。

    「だよね。だって、アヤ言っていたじゃん。長野って味噌汁をガンガン沸かすって、あり得ないって。舅・姑それに、小姑もいるって言ってなかったっけ?」

    カズ登場。

    「うん、そうなんだ」

    と、アヤ。

    「アヤ、塚さんのこと好きなの?」

    と、いまさらの質問はおばあちゃん。だって、アヤの高校時代からの華麗なる男性遍歴を知っているおばあちゃんにはどうしても、アヤが本気で結婚を決めたなんて信じられなかったのよ。

    「アハハハ、いまさらだね。あのね…。塚が田舎に長野に戻るって聞いたら、もう会えなくなるって思ったらそれが、すごく嫌だったんだ。だからかな指輪、受け取ったのは」

    アヤがそう答えるのを聞いてう〜ん。分ったような分らないような…。今でもよく分らないのだけれど、塚さんとアヤは今でも仲睦ましく長野で暮らしているわよ。

     

    もちろん、激しい熱情で結ばれるカップルもうらやましいかぎりだけれど、二人を見ている限り人生の一大決心って、実は勢いとものの弾みでも大丈夫なのかもしれない、と思ったりするのよ。

    昔々の恋愛トーク、今どきとはだいぶ違うかしら?