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《おばあちゃんの恋袋 第五十七話》職場恋愛 〜先生だって人間〜

  • 2014年12月01日  吉井 綾乃  



    はや12月。なんと、月日の経つのは早いものだろうか。新玉の挨拶を交わしてからそんなに時間が経っているなんてとても思えないと言うのに…。

    季節はいつも、そっと巡りくる。そして、人の心も移り行く季節と同じように移ろいやすいものなのだろうと思う。だが、変わらぬ心を誓い合う恋人たちにとって移り行く季節は、二人の愛の証しになるのだろう。

     

    今も昔も、恋する男女の心に大きな変化はないと、おばあちゃんは思っているのだけれど、どうかしら?ただ、出合いの場所はそうとう大きく変わったかもしれないわね。でも一つ、昔も今も変わらない出会いの場としては、働く場所が同じと言うのがあるわ。所謂、職場恋愛と呼ばれているものね。そうなの今日は、おばあちゃんがまだ中学生だった頃・昔々の、ある職場恋愛のお話よ。

     

    今や、携帯電話という夢のようなアイテムの出現でデートや待合せの約束事は、どんな突発的な障害が起きようとも何の支障もないわよね。だから、携帯電話のなかった時代にデートや待ち合わせ場所や時間が何らかの理由で変更しなければいけなくなった場合の連絡方法。これって、今どきのお若い人たちにはちょっと想像もつかないかもしれないわねぇ。

     

    おばあちゃんの故郷は今でも一番近くの繁華街というか都市に出るのには、バスを乗り継ぐか最寄りの駅から電車に乗って行かなければいけないの。とっても辺鄙なところなのよね。

    ところで、昔は、故郷の最寄りの駅にも終点の地方都市の駅にも伝言板なるものが設置されていたものだったけれど、今でも伝言板って駅に置いてあるのかしら?

    近頃、電車を利用していないので確かめようがないけれど、昔はそれぞれの駅で大きさの違いがあったにしても、伝言板は公衆電話と同じぐらい駅にはつきものだったのよ。だって、昔はデートや待合せの突発的な計画変更を相手に伝えたり仲間への連絡手段として、この伝言板はとっても大事な役割を持っていたのですもの。

     

    おばあちゃんが、その恋に気付いたのもその伝言板に書かれていた文字からだったわ。

    中学2年生の終わりごろだったかしら、友達と参考書を買いに行くのに街まで一緒に出かける約束をしたのよ。ところが、約束の時間のバスに彼女は乗っていなかったわ。バスの本数も汽車(昔は蒸気機関車)の本数も限られていたから最寄り駅の伝言板に『先に行ってます。綾』と書き残して終点の駅へ。『もしかしたら、一本前の汽車で着いているのかもしれないわ。それに、待ってる場所も知らせないと…。』そう思って伝言板を確かめると、アレっ、見覚えのある文字がある。『ピカデリー(映画館)pm2時、少々遅れるかもしれません。真壁』。あの特徴のある右肩上がりの金釘流の文字はまさしく担任のカベヤンの字に相違ない。間違いない!真壁だ、カベヤンだ。『これって、もしかしたらデートってことかも?嘘!あのカベヤンがデートはない、ないよ。でも、もしかしたら…。あるかも』と大興奮よ。早く友達の彼女にこの事実を知らせなくては、と次の汽車を首を長くして改札口で待っていたのに彼女は次の汽車にも乗っていなかったわ。でも、彼女の代わりかのようにおばあちゃんの知っている女性が汽車から降りてきたの。それは、おばあちゃんの所属するバレー部の顧問・新藤先生よ。その時は、約束した友達が現れないことに気を取られて、すぐにカベヤンと新藤先生を結び付けて考えたりはしなかったのよ。新藤先生に待ちぼうけの愚痴を言いつつ挨拶を交わして、公衆電話で友達の家に電話を入れると結局、友達に約束をすっかり忘れられていたのよ。とてもガッカリしてしまっていたから、なおさらね。

     

    そんなことがあって、月曜日の全校朝礼。クラスの委員長は最前列なので先生方の顔がはっきりと良く見えるよ。不肖、おばあちゃんも委員長なのでカベヤンの顔も新藤先生の顔もよく見えるの。

    生活指導の先生でもあり、柔道部の顧問でもあるカベヤンは確かに怒ると怖いけれど、気は優しくて力持ちタイプで人気もあったわ。ただし、おチビさんで顔は愛嬌のあるブルドック。はっきり言ってしまうと不細工なの。片や、赴任2年目の新藤先生はスラーッっと長身で美人の体育教師。いつも上下ジャージ姿だけれどスタイルの良さは際立っていたわ。

    生活指導の立場でカベヤンが壇上に登ると、あろうことか新藤先生の目がハートマーク。えっ?えっ?え〜!最初は我が目を疑ったわ。でも、自分のことの様に誇らしげに愛しそうにカベヤンを見つめる目は恋する乙女の目そのものに見えたのよ。それからというものは、いつも注意深く新藤先生のカベヤンに対する態度や仕草を観察し続けたわ。そして、おばあちゃんの推測は確信に変わっていったのよ。

    でも、そのことはおばあちゃんは誰にも告げなかったわ。まだ幼稚な中学生のおばあちゃんから見ると先生同士の恋愛が、とても不謹慎なことの様に感じていたの。だから、そんなことをみんなが知れば2人の先生たちが父兄や生徒から悪く思われてしまう、そう考えたのね。幼い浅知恵で庇っているつもりだったのかもしれないわ。

     

    次の春、赴任3年目の異例の速さで新藤先生は隣村に転任。そして、我が校の校長先生が仲人となりカベヤンと新藤先生は華燭の典を上げたの。おばあちゃんの勘は正しかったのよ。

    そうよねぇ、先生だって恋はするわ。当たり前ね。昔、むか〜しの幼いころのお話よ。