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《おばあちゃんの恋袋 第五十二話》別れ時 〜あなたがそれ言うの?!〜

  • 2014年10月27日  吉井 綾乃  



    朝晩、めっきりと気温が下がる。

    夏には涼しい木陰をつくってくれた庭の木々たちが、今は部屋への光を遮り秋の日のぬくもりを遮断している。そのせいで外の秋晴れの恩恵にあずかることが少ない部屋は一段と気温が低い。暑い夏の日、あんなに有り難いと感じていた庭の木々たちが今は、うらめしい。

    男と女の関係も、庭の木々たちと同じ運命をたどることはよくある話…。

     

    会うは別れの始めとて…か。そうよね、今も昔も会うは別れの始めだわね。仏典にも「会者定離」という言葉が載っているぐらいですもの。だからと言って、別れ話渦中のご本人たちにしてみれば、のほほんと「会うが別れの定めなのだ」と納得するわけがないわよね。でも、納得しようがしまいが別れの時は必ずやってくるのは事実ね。

    さてさて、今日は昔々の別れ時のお話。

     

    ミスなんたらの栄冠も手にしたことがあるというアキヨさん。確かに美人さん、しかもグラマラス。これじゃぁ男性がほっとけるわけがないわね、と同性も認めざるを得ない魅力的な人。当然の様にアキヨさんはモテモテ熟女だったわ。ただ、おばあちゃんの若いころは今の様に熟女がもてはやされる(?)とか、世の中に認知される(?)というようなことはなく、熟女と称される女性のハードルは高かったのよ。つまり…、ただ単にお年を召した女性には使われていない言葉だったの。だからアキヨさんは、その高いハードルを超えるほど魅力的な人ということよ。

     

    おばあちゃんがアキヨさんを知った頃アキヨさんは多分35・6歳ぐらいだったのかしら。

    若さは怖いもの知らず。一回りも年上の女性のことはおばさんとしか認識できない愚か者だったおばあちゃん。

    だけど、アキヨさんには始めて会った時から、馬が合うというかなんというか(アキヨさんがおばあちゃんをどんなふうに思っていたかは別にして)おばあちゃんは彼女のことが大好きになってしまったの。で、懐いてしまったのよね。懐かれて嫌がる人いないでしょう。それに、アキヨさんの性格もあって、歳こそ離れているけれど大の仲良しになれたわけよ。だから、熟女アキヨさんの恋模様はすべて知っているの。

     

    おばあちゃんがアキヨさんと出会う3・4年前、アキヨさんには長くお付き合いしていた人がいたらしいわ。同い年のその彼とはミスなんたらの頃からのお付き合いだから長〜い春よね。世間的には結婚適齢期も逃し、ご両親や周囲から急かされながらも、じっと我慢の子で彼がプロポーズしてくれるのを待っていたということよ。

    外見から受ける印象とは裏腹に、アキヨさんには、積極性というものが欠落しているのよね。よく言えばおっとりしていて欲がない、だけれど悪く言えば優柔不断で押しに弱く決断力ゼロ。

    若いころから、いいえ、小さい時から三十歳をすぎたその時までだわね。彼女は男性に告白されたり口説かれたりは日常茶飯事。だから、どんなに言い寄られてもビクともしないのよ。確かに、好意を寄せられることになれ過ぎていることもあるけれど、ビクともしないというより、優柔不断な性格が功を奏して次から次といい寄ってくる男性を軽く往なすイイ女風(にみえる)、というのが正解かしらね。おばあちゃんは「名付けてアキヨマジック」と呼んでいたわ。

    優柔不断のアキヨさんだから長〜い春の彼と付き合うことになったのも、ただただ、その彼が根気強く何度も彼女に告白し続けたからみたいなのよ。言うなれば、単に粘り勝ちのその男性はどんな仕事についても長続きしない生活力の乏しい人だったみたいだけれど、気の長い彼女はそのうち何とかなると思っていたみたい。彼女もまだ若かったせいもあるんでしょうね。

     

    そんな長い春に幕を下ろすべく現れたのが現在の彼、晴臣さん。(おばあちゃんと彼女が出会った当時に同棲していた男性)この晴臣さんが、すこぶるつきのイイ男。アキヨさんより5歳も若い晴臣さんは彼女に彼がいるのを承知で猛アタック。容姿の点でも(元カレは写真確認だけだけれど)完全に晴臣さんの圧勝だし、社会人としてもエリートコースまっしぐらの有望株の晴臣さん、文句なしでアキヨさんの愛を勝ち取ったのかと思いきや…。

    アキヨさんが、首を縦に振ることはなかったみたい。

    「僕が嫌いですか、嫌ならはっきりと言って欲しい」

    と、晴臣さんが問い詰めると、

    「嫌いになれればいいのに…」

    と、さめざめとアキヨさんは泣き出してしまったそうよ。(晴臣談)

    いくら待っても埒が明かないと悟った晴臣さん、アキヨさんの元カレに直談判。

    「アキヨさんと別れてください」

    と頭を下げた、のね。痩せぎすの元カレと比べると腕っぷしも強そうなスポーツマンタイプの晴臣さん。元カレは体力勝負で逃げ出したわけではないでしょうが、自分より晴臣さんのほうがアキヨさんを幸せにできるという判断はできたのだと思うわ。元カレが身を引くことで一件落着よ。

     

    傍から見れば、劇的な結ばれ方をした二人。一緒に暮らし始めて3年。

    「結婚式や子供のことも二人で話し合っているのよ」

    と彼女から聞かされていたのに…。ある日、突然二人の暮らしは終わりを告げることになるの。晴臣さんの

    「ごめん。別れてくれ」

    の一言でよ。あまりにも酷い仕打ちよね。アキヨさんならずとも

    「あなたがそれを言うの?!」

    と言いたくなるわ。アキヨさんにかける言葉は見つからなかったけれど、若かったおばあちゃんは、別れる時は自分で決めれる女になろうと心に決めたのよ。