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《おばあちゃんの恋袋 第五十五話》不倫という名の純愛 〜出会い〜

  • 2014年11月17日  吉井 綾乃  



    今年は去年より秋刀魚がだいぶ安い。嬉しいことだ。

    秋の味覚の代表と言えば、なんといっても庶民の味方・秋刀魚だろうと思っているが、今どきはどうなのだろうか?

    そう言えば、昔、あのほろ苦いはらわたが『一番美味で好物』と胸を張って言えた時、大人になった証しのような気持ちがしたのを思い出す。

    なるほど、大人の恋愛と秋刀魚のほろ苦さはどこか似ている、かもしれない。

     

    今は昔。武蔵の国に女ありけり。

    今から40年ほど前のことになるかしらねぇ。若さに任せて根無し草みたいな生活をしていた頃、その頃、とてもおばあちゃんをかわいがってくれたスナックのママがいたわ。今日は、そのママの秘密の恋のお話の第一話。彼女は47話に登場しているママと同一人物よ。

     

    当時、まだ五反田には三業地と呼ばれる場所が残っていたのよ。五反田駅の西口を右に折れ、しばらく行くと三業地のアーチ形の看板があったかしら…。看板をくぐると、山手線の土手沿いの一角に、昔は料亭や料亭旅館だったのだろうと思しき建物と何軒かのスナックや飲み屋が並んでいたわ。その街並みのちょうど中ごろにあった、そのの3坪ほどのスナックを彼女は一人で切り盛りしていたの。切り盛りしていたと言っても彼女は雇われママ、お店の持ち主は別にいたのよね。

    実は、47話ではシングルマザーとして登場したママ、ひでみママには、その当時、ご主人様もいたのよ。アラフォー一歩手前の熟女のママには、年下で超イケメン、かつお坊ちゃん育ちの旦那様がいたの。そして、小学生の子供2人のママでもあったのよね。

    スレンダーで背も高いママはモデル体型。中年女性特有の無駄な肉などどこにもついていないスタイルの良さはまるでモデルさんのよう。スカートが嫌いだからと、いつもパンツ姿だったけれど、ペッタンコの靴を履いているにもかかわらず、スラーッと長い脚は羨ましい限りだったわ。おばあちゃんが、その当時のひでみママと同じ年代になった時、いかにひでみママのスタイルが素晴らしかったかをまざまざと実感したものよ。だって、おばあちゃんの周りの同年代の女性にはひでみママのような体形の人は1人もいなかったのですもの。

    彫が深く、目も鼻もはっきりと大きく、鼻筋が通った顔は中近東の方々の顔立ちに良く似ていたわ。肌の色も浅黒かったので、なお中近東を思い出させたるのよ。ちょっと出っ歯ぎみなのは残念だけれど、厚くくっきりとした唇にはかえって良かったのかなとも思うわね。

    そんなひでみママは、エキゾチックではあるけれど肉感的な感じはまるでなかったの。だから、おばあちゃんの個人的見解では艶っぽさとか、色っぽさとは程遠く、水商売には向いていないのになぁ、と感じていたの。とても不思議な気がしてしていたのよね。

    それに、当時、旦那様は失業中…と言うよりおばあちゃんの記憶だと、良いところのお坊ちゃま育ちの旦那様は働いた経験がゼロ、だったはず。要するに働かなくても生活できるだけの経済力を持っているということよね。そんな彼女がなんでスナックの雇われママに?って思うでしょう。

     

    当時、彼女は、旦那様の実家のある鷺ノ宮でご母堂や長男家族と一緒に暮らしていたのよ。彼女の旦那様の父親は早くに亡くなったらしいけれど、遅く生まれた子で長男とは20歳近くも年の離れた末っ子なので、大変可愛がられて育ったらしいわ。もともと、家柄も良く財産もあり、父親代わりのような長男の方もひとかどの人物として地位も築いていたから経済的には、困っていたということはなかったと思うのよ。それに、同じ敷地内に2家族の家が建ててあるのだからそれだけでもお大尽さまだわ。それに、お客様がいる間は閉店する事がない形態のスナックですもの、終電なんて間に合わないでしょう。最初の頃は良くイケメンの旦那様が自家用車でお迎えに来ていたものよ。そうよ、ひでみママが恋に落ちる前まではほとんど、毎日の様にお迎えがあったような記憶があるわ。

     

    彼女がひでみママとしてデビュウーしたその頃、おばあちゃんは五反田の某有名な化粧品会社の本社ビルの近くでアルバイトしていたのよ。そこは三業地と目と鼻の距離。三業地の中のスナックや小料理屋さんは当時、お昼に食事を提供しているお店が多かったのよ。だから、食事が安くて美味しかったそのスナックはおばあちゃんがお昼を食べに毎日通っていた行き付けのお店だったというわけなの。

    料理上手で働き者のマスターが新宿に新しくお店を出すことになり、居抜きで、借り手を探したりもしていたようだけれど、結局のところ、苦労して持った初めてのお店を手放したくない気持ちもあって任せられる人物として雇われたのがひでみママよ。

    マスターによれば『将来的に自分でお店を持ちたいので、その修行のために経験を積みたい』という強い希望があったと言っていたわ。それに、人物というか氏・素性もしっかりしているしから文句無しで決まりよね。

    「料理も上手だから、綾ちゃんこれからもよろしく頼むね。慣れるまで、たまにはお店手伝ってあげてよ」

    と、マスターの社交辞令をまともに受け止め、時間の許す限り昼も夜もお店に顔をだし、すっかりひでみママと仲良しになったというわけなのよ。

     

    ママの立場なら、兄上やご母堂の援助で成り立っている生活に安穏としている年下の旦那様とそんな生活状態に、少なからず嫌気がさしていたというか拒否反応が生まれていてもおかしくないわよね。最初はそんな2人の生活を変えたい気持ちで飛び込んだ世界だったのだと思うわ。

    ところが、その新しい世界にはひでみママの心を熱くせつなく乱す男性との出会いが待っていたのよね。

    その男性の名は川口さん。彼はれっきとした独り者だけどひでみママには超イケメンの旦那様がいる…。

    さてさて、この恋模様いかが相成りますことやら。続きはまたこの次としましょうかしらね。