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《おばあちゃんの恋袋 第八十九話》哀しいサヨナラ〜まゆゆの恋〜

  • 2015年07月13日  吉井 綾乃  



    ここ暫らく、お天道様の顔を見ていない。

    今日などはまさに梅雨寒。梅雨とはいえ、連日の雨にいささか気持ちも湿りがち…。

    こんな鬱陶しい梅雨空の毎日を連覇を期待していた、なでしこジャパンの嬉しい話題で吹き飛ばしたいところだったが、惜しくも準優勝という結果…。

    勝負の世界の勝敗も人間の運命のように神の御業。そこには、抗えない力が存在しているということであろうか。

     

    さてさて、今日は奇しくも某アイドルグループの女の子と同じ〈まゆゆ〉と呼ばれていた女の子の昔々のお話よ。

    某アイドルグループの〈まゆゆさん〉の本名はやっぱりマユミさんなのかしら?これからお話する彼女の名前は真弓・まゆみ。本当に偶然よね。周りのみんなが〈まゆゆ〉と呼んでいた日々から40年以上もたってまた、〈まゆゆ〉という名前を耳にするなんてね。テレビで〈まゆゆ〉という名前が流れた時、おばあちゃんの知っている真弓ちゃんの病院でのパジャマ姿が思い出されてちょっと泣けてしまったわ。

     

    真弓ちゃんは、おばあちゃんの幼馴染みというか遠縁の女の子。歳はおばあちゃんの妹の一学年上だから、お祖母ちゃんより2歳、年下よ。おばあちゃんの生まれ育った町からバスと汽車で1時間ほどかかる同じ郡内で生まれた真弓ちゃんは男の子二人のお姉さん、三人兄弟の長女ね。〈まゆゆ〉という名前は弟君達が真弓ちゃんをそう呼んだのが最初だったはず。ご両親も弟君達と同じように〈まゆゆ〉と呼んでいたわ。

    〈まゆゆ〉こと真弓ちゃんは幼いころから弟二人の面倒を見ているせいかとてもしっかり者。おばあちゃんの方が年上なのに、なぜかいつも面倒を見てもらっていたような軽くあしらわれていたような記憶がちらほら…。

    見かけは小柄で可愛らしく幼い印象が強いのに、思い返せば早熟だったのでしょうね。大人になるのが早かったのだと思うわ、きっと。

    手先もとっても器用な女の子で、編み物でも裁縫でもとっても上手だったわ。

    『真弓ちゃんは学校の家庭科の提出物で悩んだことなんかないだろうな。自分の思った通りの物が作れる真弓ちゃん、あんなふうに上手に編み物や裁縫が出来たら楽しいだろうなぁ。良いなぁ。羨ましい』と、言うのが中学生ぐらいまでのおばあちゃんの気持ちよ。それに、なんといっても巻き毛をカールさせた可愛らしいルックスが女の子らしさ全開で女子力の高さをアピール…。

    おばあちゃんとは真逆なしっかり者の真弓ちゃんを年下とは思えず、少々苦手意識とコンプレックスもあり、おばあちゃんは〈まゆゆ〉とは呼べず真弓ちゃん、と呼んでいたのだけれどもね。

     

    弟君達にも慕われる優しく可愛いお姉さんだった真弓ちゃんが変わってしまったのは高校生になってからのことよ。高校が違うこともあり真弓ちゃんが高校生になってからの様子はまるで知らなかったのよ。でも、風の便りと言うか、おばあちゃんの親からの情報によれば、おばあちゃんが上京する頃にはすでに真弓ちゃんは高校には殆ど通学しておらず、髪を染めタバコを吸い良からぬ仲間とつるんでいるらしかったわ。それで、ご両親も真弓ちゃんの変貌ぶりにひどく心を痛めていて、どうにか以前の真弓ちゃんに戻ってほしいと心底願っていて同じ親として見るに忍びない、というようなことをおばあちゃんの両親は話していたのよね。

    なぜそんな風に真弓ちゃんが変わってしまったのか、おばあちゃんには皆目見当もつかないけれど、高校卒業後の上京前に最寄りの市内に一軒だけあったゴーゴークラブ(死語?)で一度真弓ちゃんをみかけたことがあるわ。髪を茶髪に染め年上と思しき男性が三人と真弓ちゃんと同年代と思われる女の子たちが三人…。タバコをくゆらせお酒も飲んでいるようだったわねぇ。

     

    あの時は、店内は薄暗く真弓ちゃんがおばあちゃんに気付いていた様子もなかったから挨拶もしないでお店を後にしてしまったけれど、それから2・3年経って、帰省した際に聞かされたのは真弓ちゃんが『お母さん』になったという事実。

    2年生の半ばで高校を退学になった後、家を飛び出しトラックの運転手をしている男性と一緒に暮らし始めた真弓ちゃん。その男性も真弓ちゃんを〈まゆゆ〉と呼んで、とても大事にしていたそうよ。元々家事一般が上手で得意な真弓ちゃん。結婚という形こそとっていなかったけれど、彼のために毎日お弁当を作る健気さは立派に愛し愛されたご夫婦そのものだったのだと思うわよ。

    でも、やっぱり神様はいじわるなのかもしれないわねぇ…。長距離の運転手だった彼が事故で亡くなったのは真弓ちゃんがまだ19歳の誕生日を迎える前のことだったらしいわ。そして、その時にはすでに真弓ちゃんのお腹には新しい命が宿っていたのよね。

    まだ年若い真弓さんの将来を思い、真弓ちゃんのご両親は

    「まゆゆ、あなたはきっと厭だと言うだろうしママも辛い。でも、今回は赤ちゃんを諦めて頂戴。まゆゆは、まだ若いのだからどうか人生を遣り直すつもりで諦めて!」

    できるなら、赤ちゃんを諦めてほしいと懇願。でも、真弓ちゃんは頑として聞き入れなかったのよ。

    「お父さん、お母さん。今までのことごめんなさい。でも、人生を遣り直すならこの子と一緒にやり直したい」

    と、赤ちゃんのいるお腹を撫でながら答えたそうよ。『そうまで言われたら親として応援しないわけにはいかないわ』と真弓ちゃんのお母さんは言っていたわ。

     

    無事にかわいい男の子が生まれると、真弓ちゃんは生まれた敬一君を親元に預け、八面六臂の奮闘ぶり。勿論、ご両親のいろいろなバックアップがなければできないことだったでしょうけれど、将来のためにと働きながら高卒の資格を取り栄養士になるために短大に入学したのよ。偉いわよねぇ。とてもおばあちゃんには真似できないことだわ。

     

    でもね、…。そんな真弓ちゃんの命をいとも簡単に奪い去って行ったのは癌・子宮頸癌だったわ。あれは、短大に入学して間もない、真弓ちゃんがまだ21歳の時だったわ。

    これも、神の御業なのだとしたらあまりにも酷な仕打ちよね。抗がん剤でクルクル巻き毛はすっかり抜け落ち、ターバンで隠した頭とパジャマ姿の真弓ちゃんが思い出されて切ないことだわ。

     

    梅雨空に負けて湿っぽいお話になってしまったけれど、真弓ちゃんの忘れ形見敬一君は今では二児の父親。長女ノアちゃんは真弓ちゃんの幼いころに瓜二つ。とても幸せな家庭を築いているのは嬉しいことだわ。