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《おばあちゃんの恋袋 第八十五話》女の友情〜昨日の友は?〜

  • 2015年06月15日  吉井 綾乃  



    そろそろ夏至。

    日が落ちるまではだいぶ間があると高をくくってのんべんだらりと過ごす。結果、慌てて夕餉の準備をする仕儀となる。悲しいかな、幾つになっても一向に時間との付き合い方が上手にならぬ。

    往々にして、時間と上手に付き合える人は、人との関わり方も上手なように見える。而して、若い女性のピアな友情は人との関わり、付き合いの極意を秘めているようにも見えるが、いかがなものか?

     

    とうとう梅雨入りだわね。どんよりとした梅雨空が続くと晴れの日はとても貴重なものよ。

    さてさて今日は、そんな梅雨の晴れ間のようにピアで大事なもの、若き日の友情物語の一節をお話しようかしらね。

     

    昔々、とある田舎町の県立高校に通う二人の女子校生が居りました、とさ。

    彼女たちの名前は康子さんに友子さん。康子さんは高校の所在地で生まれ育って、その町の中学校を卒業。でも、友子さんは地元ではいわゆる進学校と呼ばれるその高校に通うために生まれ育ったまちを離れ、一人で下宿していたわ。友子さんの卒業した中学はその町から2時間ばかり離れた町にあり、親元から通うのは困難だったのよね。交通の便が良くなった今でも1時間以上はかかるほど遠いところですもの、50年近く昔々では、とうてい通学は無理な話よね。

    友子さんのほかにも何人か下宿や独り暮らしをしている同級生はいたけれど友子さんと同じ中学からその高校に進んだ人は誰もいなかったわ。だから、友子さんは大袈裟ではなく本当に独りぼっちだったのよね。そんな時、初めて声を掛けてくれたのが康子さんなの。だから。友子さんは康子さんのことをとても大事な人、だと思っていたわ。康子さんにしても、自分と同じ匂いがする友子さんを見つけて思わず声を掛けたのでしょうから、最初から二人は親友になるべくしてなったのだと思うわよ。

     

    進学コースに進んだ二人は、傍から見ると容姿も性格もよく似ていたわ。似た者同士ね。

    大変シビアな表現をすれば、二人の風貌は残念の一言…。

    50年前の女子高生にも校則違反を承知で制服のスカートを短くしたりソックスや髪型をアレンジしたりと、お洒落に敏感なグループもいたし、夜な夜なゴーゴークラブ(古い!お若い方々、分るかしら?)に出かけるようなグループもいたのよ。当然、交際中のカップルもいたわよ。でも、二人はそんなグループの子たちとはまるで相容れないタイプだったわ。普通の高校生らしい高校生と言ってしまえばその通りなのよ。でも、グループに分けると、所謂いけてないグループ…かしらねぇ。その反動もあってか二人の結束は強く、自ら『女組(めぐみ)』と称して男性との交際に関してや、そのほか細かい決め事を作っていたの。二人しかいないのに『組』はおかしいし、細かい決め事も今考えれば滑稽なものばかりよ。でも、若いということはそれだけで楽しいことなのよね。その時はまるで気がついていなかったとしても、よ。

    決め事はこんな風だったわ。

    『朝のわが友への挨拶は必ず大きな声でするべし』
    『わが友にはいかなる秘密も持たないことを誓うべし』
    『テスト期間中の情報交換と協力体制の強化を図るべし』

    その中でも傑作なのが

    『わが友の許諾なく、いかなる異性との交際を禁ずる』

    という文言ね。

    その決め事を守り抜いたからではなく、一切、男性とのお付き合いなどの心躍る経験もないまま、高校を無事卒業した二人は東京の大学へと進学したわ。そして、進んだ大学は違っていたのに、今度はキリスト教の一派の宗教サークル活動で共に活動することになったのよ。離れてからも、一緒のものを見つけてしまうのだから本当に似た者同士なのね。

     

    それから、大学を卒業して社会人となり何年かが過ぎ去り、それでも高校時代の『わが友の許諾なく、いかなる異性との交際を禁ずる』の文言を守り抜いているかのごとく、二人に恋の訪れはないままだったわ。

    でも、一人の男性の登場によって長い〃冬の時代は終わりを迎え、遅い春の訪れの兆しが見えたのよ。それも、二人ほぼ同時にね。

    それは、宗教のサークル活動の一環に日曜日の礼拝や布教活動のほかにバザーのお手伝いもあって、ある日曜日に二人がお手伝いを引き受けていた新大久保の教会に出向いた時のことだったわ。

    そこで出会った彼こそが春の訪れ、恋の使者よ。その彼はその教会の新任の神父様。落ち着いた物腰と優しい眼差しが実際の年齢よりずっと年上にみせていたけれど、まだ27・8歳の好青年だったわ。その頃、康子さんと友子さんは三十路に手が届く、女性の曲がり角。彼よりは年上よ。でも、そんなことは一切関係なく二人はその新任の神父様に強く心惹かれたの。そして、そんな出会いがあってからしばらくの後、

    「康子。ちょっと話があるんだけれど…」

    と、友子さんが言えば

    「あら、そうなの?実は、わたしもそうなんだ。ねぇ、久しぶりに家(うち)来る?明日、家(うち)から会社行けば。あっそうだ。田舎から美味しいねぎとお米届いているから今晩すき焼きにでもするよ。友子、好きでしょう?美味しい到来物の地酒もあるしね」

    と、酒豪の康子さん。

    「うん。そうしようかなぁ。ゆっくり聞いてもらいたいかも…。でも、康子呑みすぎないでよね」

    と友子さん。

     

    その日、恋する乙女(?)たちの打ち明け話は夜明け前まで続き、友情以上の絆を再確認したそうなの。同じ人に思いを寄せている、恋敵同士のはずなのに不思議よね。なぜなのかしら?

    お互いが同じ人に思いを寄せていることの驚き以上に、お互いの深い繋がりを嫌でも思い知らされた一夜だったのかもしれないわね。

    それ以降も、二人の若い神父様への思慕は彼まで届くことはなく、また、二人の春はちょっと遠のいてしまったけれど、心配無用よ。それから、ほどなくして良縁に恵まれた康子さんと友子さん。今では優しいお子さんと孫のいる好々ばぁ様ですもの。