TOP > イククルコラム > 《おばあちゃんの恋袋 第八十四話》隣の芝生〜イイ男に見えた訳〜

《おばあちゃんの恋袋 第八十四話》隣の芝生〜イイ男に見えた訳〜

  • 2015年06月08日  吉井 綾乃  



    今週、6月4日から10日は歯と口の健康週間というらしい…。6月4日が虫歯予防デーだったことが関係しているのだろう。

    このように、世の中には安易にも語呂合わせで決めた行事や決め事がたくさん存在している。楽しく平和な行事や催し物を語呂合わせで決めるのは一向に構わない。が、語呂合わせの様にいとも簡単に恋心を抱くのは時として、大いにはた迷惑な場合もある。

     

    さてさて、今日は懇意にしていたママ友に、裏切られてしまったB子さんのお話。

    B子さんはおばあちゃんのアルバイト先のパートのおばさんだった人。ここで、おばさんと呼ぶのは憚ってしまうほどB子さんは可愛らしく若々しい人だったわ。当時、30歳前後だったはずよ。でも、結婚が早くすでに子どもさんが二人、小学生の可愛いわんぱく坊主たちがいたのよ。

    おばあちゃんより年上だったのはたしかだけれど、その当時も、他のパートのおばさんたちと同じだ、とはまったく思っていなかったわ。大の仲良しでお友達だったのよ。休みの日もよく家に招待され二人のわんぱく坊主ともよく遊んだし、とても良くしてもらった記憶があるわ。

     

    B子さんは秋田生まれの秋田美人。色が白く目がパッチリ、そうだわ。タレントの佐々木希さんもたしか、秋田美人よね。顔は彼女にそっくりかも…。それだけ美人さんだったのよ。ただし、身長は150cmなかったかしら、小柄な人だったわ。

    B子さんの旦那様は町の家電販売店の次男坊。ハンサムで優しそうな人だったわ。でも、B子さんにすればその優しさが歯がゆい、とことあるごとに言っていたような気もするわね。

    今の様に、家電量販店が力を持つ前の時代のこととはいえ、町の電気屋さんも競争相手

    はたくさんいて、その当時でも家族経営のお店の運営は何かと大変らしかったわ。それに、男兄弟二人の弟がB子さんの旦那さんだから何かと、割を食うことが多いらしく、B子さんの怒りの元はほとんどそのことが原因だったわね。

     

    B子さんは見かけの可愛らしさとは裏腹に、肝っ玉母さんを地で行くような根性の座ったしっかり者。家でもどこでもしっかりイニシアティブを取れる人よ。それでも、何かと頼りにして何でも相談のできる年上のママ友が一人いたわ。

    当時、B子さんが住んでいた都営団地の真下の住人C子さんがその人よ。C子さんは高校生の女の子と父親違いの小学生の男の子を持つシングルマザー。離婚歴2回の強者で見かけもガサツ(失礼)なのだけれど口も柄も悪くとうてい、B子さんとは相容れないかと思きや、B子さんは全福の信頼を寄せていたわ。B子さんの長男坊とC子さんの息子が同級生ということや、トイレや入浴時の生活音がまるわかりの住宅事情もより親密な関係をつくったのでしょうね。

    「昨日、うるさくなかった?ごめんよね」

    と、B子さんが言えば

    「世話ねぇよ。男の子二人じゃ喧嘩上等だよ。あんときの声でも聞かされたんじゃ、たまんねぇけどさ…。昨日もダンツク(旦那さん)遅かったろう。B子、いまに干上がっちゃうよなぁ」

    と、C子さん。秋田から『きりたんぽ』の材料を送ってきたというので、おばあちゃんはその日もチャッカリお料理上手なB子さんの家で楽しい食事の一時。始めて会ったC子さんに圧倒されながら二人の会話を傍受中よ。お店に出ているB子さんの旦那さんはその日もまだ帰宅前だったわ。

     

    C子さんのことは『気さくで明るく頼れる人』と大好きなB子さんから何度も聞かされていたおばあちゃん。だから精一杯敬意を払って好意的な気持ちでC子さんにはご挨拶もしたし、接していたつもりよ。でも、あまりおばあちゃんは歓迎されていなかったみたいね。おばあちゃんのことは、ほとんど無視に近い状態で、豪快に笑いながら分厚く肉感的な唇から、次々と下ネタジョークをくりだしていたわ。

    「C子、止めなよ。子どももいるのに」

    と、B子さんがたしなめると

    「平気だよ。早いうちから知っておいたほうがいいんだからさ。家(うち)なんか全然平気だよ。むしろ性教育さ。おしべとめしべの話よりやってるところ見せりゃ良いんだよ一発だろうが。アハハハ」

    と何とも過激。

     

    そうこうしているうちにB子さんの旦那様のご帰還よ。

    「今日も遅いね、若旦那。恋女房ほっとくと浮気されるよ」

    と、軽口をたたくC子さん。

    「パパお帰り」

    と、嬉しそうにパパの腕に絡みつく弟の聡君。すると突然、

    「じゃあ、おばちゃんも。若旦那、お帰り」

    と言って、いきなりB子さんの旦那に抱きついたのはC子さん。なんとビックリ。たわわな胸を思いっきりご主人に押し付けているけど…。そんなこと許されるの?

    B子さんの旦那様は中肉中背、決して小柄な体格ではないわ。でも、身長はそんなに高くはないけれどお笑いタレントの渡辺直美さんと体型が似ているC子さんに抱きつかれたご主人は巨大な蛇にからめとられたような様相を呈しているわ。しかも、C子さんのB子さんのご主人に対する情愛が身体からも視線からも溢れているのに、困ったように苦笑いをしながらされるがまま、なのよ。『何たること、けしからん。密着しすぎ、エロすぎ、やり過ぎよ。止めなよ』と思いつつB子さんに目を移すと視線を下に落し、見て見ぬふりを決め込んでいるみたいなの。どうもこんなことは一度や二度ではなく繰り返されていたみたいね。

     

    そんなことがあってから、そっとB子さんが教えてくれたわ。おばあちゃんには言っていなかったけれど、C子さんはもともと男癖が悪く子どものいる家に平気で何人もの男性を連れ帰り、快楽を楽しむ様な女性だということ。でも、信頼する友の悪口になってしまう恐れがあるから、そのことはおばあちゃんに伝えたくなかったらしいわ。B子さんは一つの性癖だと理解していたのね。

    それと、C子さんが自分の旦那様に恋心を抱いているのもだいぶ前から気付いていたそうよ。

    「隣の芝生は青く見えるものよ。旦那は迷惑がっているけれど良い男に見えちゃうんでしょうね。困ったもんだわよね」

    と、B子さん。

    『困ったもんだ、じゃすまぬ。いくら隣の芝生だって、そんな簡単なことで友だちの旦那様にチョッカイだすなんて最低な女』と思いつつ沈黙…、B子さんにとったらほんとうに些細なことにすぎないのだと気がついたの。だって、それって夫婦の絆がそれだけ強いという証ですものね。