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《おばあちゃんの恋袋 第八十話》恋の布石〜為せば成る…かも?〜

  • 2015年05月11日  吉井 綾乃  



    春の一大イベント、ゴールデンウイークも過ぎ…。
    一気に夏になったかのような日が多くなり、春の風情をゆっくり楽しむ暇がない、そう感じて何故か焦る。老いの身には何事もゆっくりゆっくり、が好ましい。しかし、若き身にスローな時間は耐え難かろう。
    而して、はやる心と活きの良さは若き身の恋心。だが、若き日なれば、じっくりと囲碁の如くの恋の布石も楽しかろうに、と思う。
     
    さてさて今日は、おばあちゃんのとってもユニークな後輩、アキ子ちゃんのお話。
    今、ここでは彼女を『アキ子ちゃん』と可愛らしく呼んではいるものの、当時のアキ子ちゃんは可愛らしさとは無縁の女の子だったのよ。だから、当時はチャン、なんて付けて呼んだことは一度もないわ。『アキ子』と呼び捨てね。おばあちゃんが先輩だと言うこともあるけれど、同級生の親しい女の子たちも『アキ』でもなし『アコ』でもなく『アキ子』と呼び捨てだったわ。何故かといえば…、困ったわ。説明が難しいわねぇ。彼女は『アキ』や『アコ』ではなく『アキ子』そのものなのよ。
     
    もちもちとした柔らかな真っ白な肌を持ち、少々下膨れではあるけれど、うりざね顔で切れ長な一重瞼に長い睫とおちょぼ口。そんなアキ子は見様によってはとても可愛らしい女の子のはずなのだけれど、如何せん、仕草が男子。言動がどうしてなのか、男の子なのよ。
     
    「ぐふふふ、せんぱぁい。聞いてくださいよ。また、ズボンに穴開いちゃったんすよ。ぐふ。やっぱ、僕太り過ぎなんすかねぇ」
    「ぐふふ、じゃないよ。アキ子。だいたいね、股ずれなんてあんたから聞くまで知らなかったし、女の子が恥ずかしげもなく言うことじゃないと思うけどなぁ…」
    「えっ、そうなんすか?ぐふ、でも、ズボンが直ぐに駄目になるからホント困るんす」
    「じゃぁ、スカートにしたら?」
    「ダメ、だめすよ。知らないんすか先輩。歩くと擦れて痛いんすよ。汗かくと余計やばいんす。だから僕スカート苦手なんす」
     
    本人は先輩にため口はまずいと思っていて、丁寧な言葉使いをしているつもりなのよね。だけど、『〜です』の『で』をほとんど発音しないから『す』だけが聞こえるの。それと、自分のことを『私』ではなく『僕』と言うことが、アキ子独特の節回しと会話のリズムになっていたのよ。あと、仕草ね、少し首をすくめるというか肩を持ち上げるのよ。そして、上目づかいで最初に『ぐふふ』と含み笑いをするの。おばあちゃんはアキ子がとてもシャイな女の子だと知っていたから理解できたけれど、男の子から見たら不敵いいえ、不敵を通り越して不気味にだってとられかねない様相だったわ。
    それと、股ずれが原因の大胆すぎるがに股も女子力ゼロと判断されるでしょうし…。
    だって、アキ子は太っていたけれど顔はちんまりとまとまった小顔なので、そんなにおデブさんには見えなかったのよ。だからがに股と股ずれを結び付けて考える人もいなかったはずなのに本人が事も無げに周りの人(女性だけ)に暴露してしまうのですもの…。
     
    「ぐふ。陸上部の○○さんかっこ良いすよね。○○さんて彼女いるんすかね」
    「ぐふ。生徒会の○○さん、良いすよね。文芸部の××さんと付き合っているってホントすか」
     
    いつも顔を蒸気させながら男の子の話に夢中なのもアキ子ならでは、よ。他の女子より数倍自分に正直で男の子が大好きだったの。毎回、お気に入りの男子は変わるけれど、遠くでコッソリ、などはアキ子の辞書にはなかったわねぇ。シャイなのにチャッカリお気に入りの男子のすぐ側まで行くのもアキ子流なのよね。人一倍白い顔が、頬紅をさしたようにピンク色に染まるのはそんな時よ。
    「〇〇さんに、おまえ面白い奴だな。女なのに信用できる、って言われたんす」
    と照れながら報告する時も、そうね。
     
    ウジウジしたところがなくある意味、ストレートに自分の思いを表現できる彼女は、別の一面で女の子たちには人気があったの。それは、彼女の特技の占い。しかも、その玄人はだしの占いが良く当たると評判になり、特に女性陣の恋愛相談が人気の秘密よ。
    ユニークな彼女が高校を卒業後、東京のテレビ局に勤めたと風の噂で聞いたときは『昭子も都会人の仲間入りかぁ、もまれて垢抜けた女の子になっちゃうのかな』と、少し羨ましくも思ったりしたわ。
    そんな噂を聞いた何年後だったかしら、田舎に帰省中にばったりアキ子と出会ったのは…。
    驚くまいことか、彼女は高校時代と何も変わってはいない姿で可愛い2歳ぐらいの男の子の手を引いていたのよ。そして、傍らには旦那様と思しき優しげな男性が立っていたわ。
     
    「先輩。嬉しいす。今、少しいいすか。お茶行きましょう」
    と、おばあちゃんの返事も待たずに、
    「ねぇ、後藤君。(旦那様をそう呼ぶらしい)けん坊連れて先に戻っていてくれる?」
    さすがに、高校時代の様に『僕』とは言わなかったけれど口調は高校生の時に半分ほど戻っていたわ。
    「アキ子、あんた、全然変わってないんだねぇ~!あんな素敵な旦那さんと可愛い子供までいるんだぁ…。ビックリだよ」
    「あはは、そうなんすよ」
    あれ、『ぐふふ』は直っているのだ、と思いつつ当たり前よね。普段はこんな話し方しているはずがないのですもの。再会のタイムスリップのせいで戻ってしまったのね。
    「聞いてほしかったんすよ。やっぱ、僕の占い最強す。後藤君と一緒になれたのは占いのおかげなんすよね」
     
    そう言って彼女が教えてくれたことは、占いのことがチンプンカンプンなためにほとんど忘れてしまっているわ。でもね、その時つくづく思ったの。占いに従い囲碁の布石の様にじわりじわりと相手の陣地に攻め入り敵を籠絡できれば、どんな恋の難敵でも落とせるのかもしれない、為せば成るかもってね。
     
    女子力が皆無だと思っていたアキ子。実は恋の布石を知る恋の名手だったのかもしれないわね。