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《おばあちゃんの恋袋 第六十三話》出会いの時@〜愛は育つ〜

  • 2015年01月12日  吉井 綾乃  



    世間様は、そろそろお屠蘇気分も抜け、新年会も終わったころだろうか?

    年が明けて、半月余り経つと言うのに、とんと一年の計も浮かばず初夢も見ずじまいなのは、門松を多くくぐり過ぎたせいだろうか。

    心静かなお正月も良いものだと、半ば負け惜しみを込めて思う。ただ、年賀状の数が毎年減るのは寂しい限りだが、これも詮無きこと。

    これから出会える愛も人々もあることを祈念して一年の計としましょうか。

     

    さてさて、今年は未年。眠れぬ夜に数えるのも羊だけれど、あのモコモコの羊を頭に描いていたら連想ゲームのごとく幼馴染の順子ちゃんの顔が浮かんできたわ。順子ちゃんはおばあちゃんの同級生よ。町内には学校が一校しかないので、当然、小・中学校と一緒。その順子ちゃんがクリクリ巻き毛の女の子だったわけ。巻き毛というと可愛らしい感じだけれど、順子ちゃんのそれは完全なる天然パーマなの。だから、形状はくるくると渦を巻いて仏陀の頭のようなのね。だけど、髪の量が半端じゃなく多くて頭全体がモコモコで、一匹の羊の様に見えてしまうのよ。で、なかなか寝付けぬ昨日の夜に今年の干支の羊を数えつつ順子ちゃんを思い出したと言うことなのよね。

     

    今日の主役、順子ちゃんの家は大変な素封家で呉服屋さん。そして、町長の孫。だから、ちょっとお金持ちを鼻にかけたようなところもあったかな…。

    そんなことより、食いしん坊のおばあちゃんが良く覚えているのは運動会や遠足の時の彼女のお弁当の豪華さよ。羨ましかったわよぉ。

    三人姉妹の長女だった彼女は跡取り娘。彼女のお母さんも跡取り娘でよその町からお婿さんが来たということだから親子2代の女系家族というところかしら。

    地元の短大に進んだ彼女とは高校も違っていたので、帰省した際に挨拶を交わすぐらいの間柄だったのよ。けれども、『縁は異なもの味なもの』とはよく言ったものよね。彼女のお婿さん候補がおばあちゃんの高校時代の同級生、しかも同じクラブの大の仲良し、と言うより大親友のテルこと昭興君だったのよ。テルとおばあちゃんは女友達以上の友情と絆で結ばれていたと信じているのだけれど、その点は長くなるので割愛させてね。

     

    テルは高校時代からニヒルでシニカルなへそまがり。面立ちは鼻が高く、よく知られている芥川龍之介の写真にとても良く似ていたわ。足が短く少々猫背という欠点はあるけれど長身でどこか哀しげな匂いがする彼はおばあちゃんから見るとイイ男に分類されるのだけれど…。残念ながら女性からモテたかと問われれば、答えはノーね。

    彼は東京の有名な私立大学に進学したのだけれど2年もたたないうちに大学を止めて田舎に戻ってしまったの。その事実を知った時は、東京の生活が彼の神経を蝕んでしまったのだろうと秘かに心痛めていたものよ。

    それから6・7年後だったかしら?帰省していて、たまたま何かの用事があり汽車で移動中のこと。高校のあった駅からテルが乗り込んで来たのよ。お互い、その偶然に驚きながらも再会を喜び合ったわ。女友達とのそれと同じように時空を越えて、二人とも高校時代にタイムスリップしたような感じね。

    なんのてらいも迷いもなく今までもズーットそうしてきたかのように、テルが尋ねてきたの。

    「俺、今結婚話で迷っている。綾乃、おまえの町の○○呉服店って知っているか?」
    「○○呉服店?知っている、知っている。そこの長女同級生だもの」
    「そうか!実はそこから婿養子の話が来ている」
    「えっ、じゃぁ、順子ちゃんとってこと?で、テル、彼女ともう会ったの?」

    ほんとに二度びっくりよ。実際は、昔の鈍行列車だから終点の街に着くまでは小一時間近くかかるのよ。でも、婿養子のいきさつやテルの気持ちを聞きながらあっという間の時間だったわね。

     

    その時のテルの話を要約すれば、

    大学を止めて田舎に戻ってからはしばらく実家で農作業の手伝いなどして過ごし、今やっと近くに勤め口を得て糊口を凌いでいること、実家の兄も結婚し子供も産まれる。狭く裕福とは言いがたい実家で同居しているのは辛い。か、と言って一人暮らしするだけの経済的余裕がない。(昔々の故郷の賃金はひどいものだったのよ。働き口もなかったしね)そんな状況での婿養子の話だが自分としては乗り気じゃない。その乗り気じゃない理由は、婿養子の立場的なものも勿論あるけれど、どうも一番の原因は順子ちゃんにあるらしい。

    一言でいえば、『彼女を愛せる自信がない、それに彼女に好かれている実感もない』と言うことだったのかしらね。

     

    それから暫くしてテルと順子ちゃんの結婚話はめでたくまとまり、夫婦となりテルはおばあちゃんの生まれ故郷の住人となったの。だから、帰省するたびに合う機会も増えて、ますます親交は深まり今でも大の仲良しよ。

    二人が結婚して間もなくのことだったかしらねぇ。ズーット気になっていたことをテルにそっと尋ねてみたことがあるの。

    「ね、テル。順子ちゃんのこと、もしかしたら嫌い?」
    「おい、ずいぶん突っ込んで来るね、綾乃らしいな…。ご明察と言いたいけれど、違うよ。最初は確かに嫌いなタイプだと思っていたけど、ま、今でも愛しているとまでは言えないかなぁ。けれど大事に思っているし、可愛いところもたぶん…ある」

    との答え。

    皮肉屋だけど正直で優しいテルのこと。順子ちゃんは実に良いお婿さんを貰ったものよ。

     

    ここで一つ、とても切ないことがあるのよ。それはね、おばあちゃんが順子ちゃんから疎まれていることなの。テルとおばあちゃんが大の仲良しなのが原因なのでしょうけれど、それは、順子ちゃんがテルを愛しているからこそ、と思えば我慢もできるけれどもね。