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《おばあちゃんの恋袋 第六十五話》恋のリピート〜覆水盆に返る〜

  • 2015年01月26日  吉井 綾乃  



    インフルエンザの患者数がすでに昨年のピーク時のそれを超えているらしい。

    これから2月に向かってますます猛威をふるいそうだとのこと、クワバラクワバラ。

    何十年かぶりにインフルエンザに罹患した一年前の悪夢が甦る。

    恋の病の夢うつつならいざしらず、高熱が繰り返されての夢うつつはただただ苦しいだけ。ご勘弁願いたいものだ。これが、男女の仲なら繰り返しも良いだろうが…。

     

    空気がとても乾燥しているようね。皆さん、風邪など召されてはいませんかしら?

    風邪を引いていたりどこか体調が悪い時の、独りぼっちはつらいものよね。

     

    さてさて、今日も昔々のこと。おばあちゃんのアルバイト先にいた真知子さんという先輩女性のお話よ。そうなの。思い出したのよ。彼女の恋の駆け引きの大事なアイテムが、風邪だったということをね。

     

    真知子さんは人呼んで『年下キラー』と呼ばれるほど年下の男性に人気(?)のある女性だったのよ。女性陣からは少しの羨望と多くの嫉妬の目にさらされていたけれど、そんなこと彼女にとっては蚊に刺されたよりも小さなこと、まるで気にならないようだったわ。

    職場の女性たちが彼女を『年下キラー』と呼ぶ時は、少なからず、悪意と意地悪な気持ちが見え隠れしていたものよ。

    でも、真知子さんは我が道を行くタイプなのでしょうね。まるでそんなこと意に介していなかったわねぇ。他の女子社員とは一味ちがっていたもの。

    おばあちゃんは気が小さいから、周りの女性社員の手前、面と向かって真知子さんを擁護することはできなかったけれど、おばあちゃんは真知子さんに好意的な気持を抱いていたのよ。なぜって、真知子さんはすごくはっきりしていて正直な人だったのですもの。

     

    残業は絶対しない。5時の終業時間がくれば『お先に失礼します』と帰ってしまうので、陰で別名5時ポン女とも呼ばれていたわね。

    それはなぜかと言うと、3代目(噂によれば)の年下の彼との夕食の買い出しに、いそいそと家路を急ぐか、もしくは彼とのデート・待合せ、とにかく、アフターファイブは毎日が彼のための時間と決めていたかららしいわ。

     

    3代目の彼、正幸君は真知子さんより3歳年下。で、2代目の彼も正幸君とほぼ同じ年だったらしいわ。1・2代目3代目と全員年下だけど、あと1つの共通点が彼らとのお付き合いのきっかけよ。口さがない同僚たちの噂話から推測すると、これも全部同じ、らしい。

     

    真知子さんはけして美人ではないけれど、色白でぽっちゃりとして男好きのするタイプよ。おばあちゃんが真知子さんを知った頃は、3代目の彼、正幸君と同棲中だったわね。

    正幸君は当時、二十歳前後のおばあちゃんからするとおばあちゃんよりも年上の大人の男性よ。そんな彼を同級生の様に呼んでいるのは会社の女性陣がみんな正幸君と呼んでいたからなのだけれど、要するに真知子さんは自分の恋をまるで隠そうとしない人だったのよね。結果、周りのみんなが彼女の恋を知っているわけ。でも、決して自分から言いふらしたりする人じゃないのよ。

    たまたま、真知子さんの恋のお相手が同じ会社(1代目)の人だったり取引先(2代目・3代目)だったりと同僚たちの監視下にいた人物だったことが原因ね。

     

    正幸君は超がつくほどのイケメンだったから、真知子さんとステディな関係になる以前は女性たちの人気は相当高かったろうと思うのよ。現に、その当時でも『正幸君は真知子さんには勿体ない』と公言しているお局様もいたことだしね。

    同僚たちが嫉妬するほど恋多き女の恋のアイテムが風邪ということだから…。

    今までのお相手が一人暮らしだということもあって風邪で寝込んで弱っているお相手に付け入り、看病することで恋を成就させるなんて姑息な手段だと揶揄する人も当然、いたわよ。その時に真知子さんが作る『セロリとベーコンのスープ』に、惚れ薬を入れている、とまことしやかに言う人もいたぐらいですものね。

     

    嫉妬されるほどの二人の仲がどうもダメになったらしいという話が女性陣の中で囁かれ始めた頃。会社の林さんという方が風邪をこじらせて会社を何日間か休んだことがあったのよ。林さんも地方出身の独身男性だから、当然独り暮らしね。その彼が病み上がりで出社してくると真知子さんとの仲が急接近。社内恋愛は禁止されているから表だってどうこうということではないけれど、二人の仲が以前と違うことは一目瞭然だったわね。鬼の首を取ったように周りが色めきだして『4代目』の誕生だと噂したものよ。

    実際、その頃は真知子さんと正幸君の同棲は解消されていたらしく、一度は恋にピリオドが打たれていたということね。

     

    4代目の林さんはおばあちゃんの記憶では真知子さんより年下ではなかったと思うのよ。だから、それが原因で長続きしなかったかはたまた、始まってさえいなかったのか、定かなことは分らないけれど、そのあとの結末はちょっとでき過ぎだったわねぇ。

    だって、周りのみんなが真知子さんと正幸君の恋は過去のこと、『覆水盆に返らず』と思っていたのに大方の希望を裏切って二人の仲が修復したのですもの。事実は小説より奇なりよね。しかも、よりを戻すきっかけは真知子さんの病気。病気といっても盲腸だったのだけれど、急性の虫垂炎だから、救急車で病院に運ばれてしまったのよね。これを伝い聞いた正幸さん、一目散に病院に駆けつけて、二人はお互いの気持ちを再確認したのでしょうね。だって、この後、二人は結婚を決めたのですもの。コングラチュレーション!

     

    おばあちゃんが思うに、真知子さんは本当に優しい人だったのよ。だから、風邪を引いて独りぼっちで寝込んでいる人たちを黙って見ていられなかっただけなのだわ。