TOP > イククルコラム > 《おばあちゃんの恋袋 第六十八話》優しい男の恋事情〜無口編〜

《おばあちゃんの恋袋 第六十八話》優しい男の恋事情〜無口編〜

  • 2015年02月16日  吉井 綾乃  



    2月も半ば。そろそろ春の便りが待ち遠しい。

    スーパーで蕗の薹を見つけて思わず手に取ってはみたが、これはまだハウスものに違いない、そう思うと購入するのは憚られた。が、空腹での買い物中だったために、蕗の薹の天ぷらのほろ苦さと香りが脳裏を占めて思わず、生唾を飲み込んだ。

    何時の日からかこのほろ苦さが大好きになっているが、このほろ苦さこそ、まさに大人の味、恋の味…。

     

    さてさて、古今東西、老若男女。春の訪れと恋の訪れは大歓迎だわよね。

     

    昔々、とある町の一軒のラブホテルの駐車場内に設置してある防犯カメラに2台の自転車が映り出された、と思召せ。

    そこは、高速道路のインター側に建つラブホテルだったので、タクシーで訪れる人はたまにいたけれど、自転車で来店するお客様は皆無に等しかったの。(あっ、徒歩でのご来店が1回・2回あったわね)

    フロントのテレビに映し出される自転車をフロント係のベルさんと緊張しながらみていると…。スカートにポニーテール、あれ…?女性同士のカップルなの?と、思わずベルさんと顔を見合わせたわ。

     

    ま、種明かしをすれば、飛び込みのアルバイト志願の女の子たちだったのだけれど、ちょっと思わせぶりだったわね。

    今日はその時の女の子智美ちゃんと智美ちゃんの親友ミキちゃんが一目ぼれした剛史君の恋のお話。

     

    常時、従業員は募集しているものの電話連絡もなしに自転車で突撃してくるとは恐れ入ったけれど、それも若さのなせる業ね。

    高校を卒業して2年目の二人は今まで働いた経験もアルバイトの経験もなく、ミキちゃんは専門学校の2年生。智美ちゃんに至っては高校を卒業して短大に入学したものの直ぐに

    学校はやめてしまったらしく、家事見習い中だったわ。

    この二人、そのままステージにあげたくなるようなかわいらしさ。それに、とっても素直そうで、好感が持てたわ。雰囲気と容姿が良く似ている小柄な二人は、一人ではなく二人揃うことで魅力を発揮する感じかしら。でも、ラブホテルのお掃除要員にはまるで向いていない二人にみえたわ。だから、そこは丁重にお断りしたのよ。ところが、ミキちゃん食い下がるのよ。『1か月に2.3回でも良いのですけれど、だめですか?』

    この業界で働くメリットは他のアルバイトより賃金がちょっとだけ高めなことだけれど、さすがに1か月に2・3回ではお小遣いとしても物足りないだろうに…。

    こうなると、目的はお金以外のものね。持参した履歴書に目を落とすとミキちゃんの通っている〇〇という専門学校の名前に見覚えがあったわ。

    「〇〇って駅の北口にある〇〇?」

    と、尋ねると

    「はい。そうです」

    と、ちょっと照れたようにミキちゃんが答えたわ。

    「〇〇ということはもしかして、剛史君がお目当てなのかな?」

    と、おばあちゃんが尋ねると二人ともドギマギおろおろ。答えなくても図星だったのは明らかよ。

     

    剛史君とは、半年ほど前からアルバイトとして働いている苦学生。○○という専門学校に通っている彼のアルバイトの志望動機は、学費を自分で賄いたいと言うものだったわ。

    口数が少なく真面目に陰日向なく働く彼はおばあちゃんの秘かなお気に入り。

    けしてハンサムでもオシャレでもない彼に目をつけるなんてなかなか、目が高いと褒めてあげたかったわね。でもその時点では、智美ちゃんはただの付き添い人。

    ミキちゃんは専門学校の入学式で剛史くんに一目惚れ。ズ〜ト剛史くんに好意を寄せていたけれど、剛史くんは無口なうえにアルバイトが忙しい。だから、なかなか彼と接点が持てない。で、一大決心をして行動に移したわけね。でも、さすがにラブホテルに一人で突撃する勇気はなくて、親友の智美ちゃんを拝み倒してついて来てもらったというのが真相よ。

     

    結局、土日祭日専用要員として取り敢えず採用よ。剛史くんは時給の高い土日祭日は必ず出勤するので、ミキちゃんにすれば願ったり叶ったりだったのだけれど…。

    あれは2か月ぐらいたった祭日の日だったかしらね。駐車場の外にまで、部屋の空き待ちのカップルの車が列をなして(当時、地元では人気の高いホテルだったのよ)ホテルは一分一秒を争う戦場と化していたわ。おばあちゃんも猫の手よりはましな助人で活躍中よ。

    そこで、目撃したものは剛史くんとミキちゃんの恋ではなく、智美ちゃんと剛史君の恋。

    恋の女神は意地悪なのかもしれないわねぇ。

    いつの間にか恋の女神は智美ちゃんと剛史君に微笑んでしまっていたのよ。隠そうとしても隠し切れないのが若い恋なのね。お掃除中の智美ちゃんと剛史君、二人の手が触れると、思わず弾けるように飛びのいて恥じらう、テレビドラマや映画で見たことがある、そんな仕草が目の前に再現。戦場のような現場で、なんとも幸せそうな二人。

    でも、その時はまだお互いが気持ちを確かめ合っていたわけじゃなかったのよ。

     

    彼女たち二人はとても良く似ていて、素直でとても良い子だったけれど、性格はまるで反対だったの。ミキちゃんは明るく活発な子、智美ちゃんはお淑やかでいつもニコニコ。静と動ね。

    剛史君は静の智美ちゃんに恋したわけだけど、心優しく無口な彼は親友同士の彼女たち仲を裂くようなことはけしてしなかったわね。でも、おばあちゃんが気付いたぐらいだから、とうに親友のミキちゃんは二人の気持ちに気がついていたのよ。だって、何時まで経っても気持ちを確かめ合うことをしない二人のキューピット役は、業を煮やしたミキちゃんだったのですもの。

    その時の、ミキちゃんの乙女心を思うと愛おしく切ないけれど、ミキちゃんは本当に良い子だわよねぇ。

     

    最初から、働く動機が不純なものだったから、この可愛い女の子たちは、直ぐにアルバイトを辞めてしまったけれど、なんだか優しい気持ちになれる恋模様だったわね。