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《おばあちゃんの恋袋 第六十六話》嘘から出た実〜恋は味なもの〜

  • 2015年02月02日  吉井 綾乃  



    はや、2月。もう節分である。

    思えば、昨年は何かと厄介ごとの多い一年であった。なれば、今年はなんとしても節分の鬼退治をせねばなるまいか?

    というのは冗談だが、子供の頃に町中の家々の開け放った窓から響いた『福は内、鬼は外』の声が近年はとんと聞かれないのが、ちと寂しい。

    さて、鬼は邪気の象徴、いわば虚・嘘である。が、なかなかに、嘘は役にたつものでもある。

     

    昔々のこと、そうね、今から40年ほど前になるかしら?おばあちゃんが可愛がっていた後輩、というか親しくしていた男友達にとってもかわいい彼女ができた時のお話よ。

    『嘘も方便』『嘘から出た実』。いつもながら昔の人って上手いことを言うわよね。

    さて今日は、その時の嘘の活躍ぶりを少々思い出してみましょうかしらね。

     

    ユタこと祐太郎は剽軽者で優しいおの子だったけれど、生まれてからこの方(その時は二十歳だったかな)、ユタには『彼女』などという存在がいたためしがなかったの。

    ホントに気の良いナイスガイなのにまるで女の子には無縁な人生。

    別に硬派を気取っているわけじゃないし女の子のことは大好きだったと思うわよ。だけど、自分から女の子にグイグイ行くタイプのおの子じゃなかったのね。剽軽者は表の顔だけよ。シャイで奥手なの。

    ただし、アルバイト先の先輩で年上のおばあちゃんは『女の子』の範疇になかったようで、ガード下や大衆酒場で、一緒にオダを上げる時(今更だけど、ユタは未成年だったのねぇ。でも、今や時効ね)よくスクラム組んだり抱き合ったりしたものよ。でも、おばあちゃん以外の女性にはいつも紳士的にふるまうのよね。女性の身体に触れるのは失礼だと思っているのか、はたまた女性が怖いのか。おばあちゃん以外の女性に軽口を叩くようなこともなかったしね。いずれにせよとっても好青年なわけよ。

    しかしながら如何せん…。そうなのよ。ユタはおチビさんの上に、お世辞にもイイ男とは言えないご面相だったの。

     

    同郷人だという気安さと、おばあちゃんが世の女性の好みに反して小柄な男性に好意的というよりむしろ好きだというのが伝わったのか、最初に出会った時から意気投合。

    おばあちゃんには弟はいなかったので上から目線で、

    「弟分にしてやるよ」

    と、おばあちゃん。

    「ありがとうござんす。姉御」

    と、剽軽に答えたのがユタ。

    ある時、当時大学生だったユタが大学祭で寸劇の主役を務めることになったの。弟分のユタの一世一代の晴れ舞台を見逃すわけにはいかないわ。でも、ご本人はまるで乗り気じゃなかったのよ。いくらパロディ劇だからといって『ロミオとジュリエット』のロミオ役じゃ、ユタにはきつい冗談。でも、先輩は神様。いくら嫌でも断ることなどできないのよ。

    「拷問だ!何の因果かなぁ」

    と、毎日ぼやきながらも学園祭の幕開け当日。

    観ると、このパロディ劇のストーリーでのロミオは、シラノを合体させた様な人物に設定されていてユタにぴったり。なるほどこれならユタがはまり役かもと納得したわ。でも、ジュリエット役の女の子はジュリエットそのもの美少女なのよ。長い黒髪に大きな黒い瞳、息をのむほど綺麗な子…。

    当時、大人気だった女優の内藤洋子さんによく似ていたわ。

     

    ユタがその彼女を連れておばあちゃんの住むアパートに現れたのは、大学祭が終わって間もない頃よ。突然の訪問客でびっくりの上に、彼女『淑子ちゃんを今日泊めてやって欲しい』とお願いされて二度びっくり…。

    淑子ちゃんはユタの1学年下の大学一年生。

    やっぱり地方出身で独り暮らしを始めたばかりの淑子ちゃんは大変な美人さんでその上可憐。男性諸君が放っておくはずもなく交際を申し込んでくるおの子は後を絶たない。

    ところがまだ、東京にも大学生活にもあまり馴染んでいない淑子ちゃんは、誰かとお付き合いするなどというところまで気持ちが行きついてはいないわけよね。だから、全部お断り状態なのに一人だけどうしてもあきらめない問題児が現れたらしいの。何度断っても、『君は間違っている。君に相応しいのは僕しかいない』と宣人物。これが、やっかいなことにサークル仲間の先輩。ユタにとっても先輩なわけだけど、今では、彼女のアパートまで押しかけてきて、彼女に恐怖心を与える存在になっているらしいのよね。困っている彼女を見逃せなくて腕に少々自身のあるユタ(空手の有段者)が大学ではボデーガードを買って出ていたのだけれど、さすがに、相手は先輩だから手を出すわけにもいかないし、自分のアパートに泊めることもできないので姉御を頼ってきたと言うのが顛末よ。

     

    まだ若く、血気盛んだったおばあちゃんは一肌脱ぐことを決意。

    次の日、二人を連れ立って大学の学食へ。淑子ちゃんの行く先々に現れると聞いてはいたけど、案の定現れたわ。何ともまぁ!これがイイ男。確かに淑子ちゃんと並べば美男美女の組み合わせ・・・。と感心している場合じゃないわね。

    「初めまして、○○さん。二人がお世話になっています。淑子の従姉の吉井と言います。ユタは同郷で弟分なんです」

    訝しげにしている○○さんに畳みかけるように

    「実はこの二人恋人同士なんです。でも、淑子もユタも先輩に言い出せなくて悩んでいるので、おせっかいですがお報せにあがりました。温かく見守ってやって下さい」

    と頭を下げたの。

    ユタも淑子ちゃんもあまりのことにオロオロ。でもその様子が若い恋人同士の初々しさに見えて効果抜群。返す言葉もなく○○さんは撃沈よ。

     

    これが、『嘘も方便』よ。後一つ、『嘘から出た実』はユタと淑子ちゃん、二人が本当に恋する間柄になったことね。とっても仲睦まじい微笑ましい恋人同士にね。