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《おばあちゃんの恋袋 第六十話》愛は紙一重〜怖い男心〜

  • 2014年12月22日  吉井 綾乃  



    寒波襲来。

    今年は暖冬との気象庁長期予報を信じていたのに、12月では初だという爆弾寒波まで到来したのでは老体にはちと厳しい。

    しかし、近年のLEDの活躍のおかげで、この厳しい寒さも悪いことばかりでもなさそうだ。

    一層簡単にトライできるようになったイルミネーションが雪景色のなかで幻想的な光景を繰り広げる。久々のホワイトクリスマスが実現するかもしれない、が、何事も過ぎたるはなんとやら…。

     

    さて、今日はコワ〜イ男心のお話を思い出してみましょうかしらね。

    昔からの諺には含蓄のある言葉が多いわ。(当たり前かしら?諺ですものね)

    先程の『過ぎたるは猶及ばざるが如』もそうよね。

     

    近頃はストーカー規制法などの法整備もされて(なかなか、十分に機能していないと言う恨みはあるけれども)、ストカーという言葉は広く認知されているわ。

    だからと言ってストカーという行為自体は今に始まったことではないのよね。昔々の昔から恋に狂った挙句の果て、あるいは何らかの執念のもとに人に付きまとうという行為、それ自体は繰返されて来たことだと思うのよ。

    そっと恋しい人の住む町まで出かけて、恋しい人が立ち寄りそうな場所に立ち寄り恋しい人の窓の下で、人知れず佇む、これは明らかに付きまとい行為よね。でも、まだストーカーとは呼ばれない範囲の行為だと思うのだけれど、どうかしらら?後、待ち伏せとか…。

    ちなみに、恥ずかしながらこれはおばあちゃんの実体験なの。その時はね、偶然を装っての待ち伏せ案も、ちらっと考えなくはなかったのよ。でも、生れついての臆病者なので待ち伏せは実行に移せなかったわ。だって、『あれ?今日はどうしたの?』なんて聞かれたらどう答えて良いか分からないでしょう?そんな心臓が口から飛び出しそうな緊張感にはとても耐えられないわ。図体は大きいけれど蚤の心臓しか持ち合わせてないのですもの。

    おっと、話が逸れてしまったわね。

     

    お話を戻すわ。要するに、せっかくのイルミネーションが見れないほどの大雪や恋しい人の気持ちが引いてしまうほどの付きまとい行為は『過ぎたるは猶及ばざるが如』だと言いたかったのよね。

    今から50数年前のことよ。実はね、過ぎたる怖い男心がおばあちゃんがまだ小学校に入学する前に起きた大火事を引き起こしたと言われているの。

    当時、おばあちゃんの生れた町は町内(まちうち)呼ばれる町の中心は狭い大通りを挟んで入口から町外れまで両側にほぼ真っ直ぐに伸びていたの。道幅が本当に狭く、反対側の家に用事があれば『オオ〜イ』と声をかければ『ナ〜ニ』と答えが返ってくるほどだったの。大袈裟じゃないのよ。

     

    今でも目に焼き付いているわ。ガラス窓が真っ赤に染まり半鐘が鳴り響き、町の様子を見に出ていて『全滅だ(町うちの親戚一同)。グランドに避難する』と言った時の父親の苦痛と悲しみ満ちた顔がね。おばあちゃんも当時おばあちゃんの家にいた爺やに背負われてグランドに避難したわ。

    町の入口に近いおばあちゃんの家の反対側、三軒先が火元でおりからの強風にあおられ町全体を嘗め尽くすような大火事だったのだけれど、風下だったおばあちゃんの家は延焼をまぬがれたの。不幸中の幸いね。

    救援物資を運んで来たヘリコプターが何台も空を飛び、焼け出された親戚の人たちで家がいっぱいになったことも良く覚えているわ。

    狭い道路のせいで、両側の家々が焼き尽くされてしまったわけよね。だから、現在の町の道幅の広い道路はその火事の教訓からつくられたものよ。

     

    そんな町中を変えてしまう様な大火事の原因がある一人の青年の恋心だったと知ったのはだいぶ大きくなってからだったわね。

    どこどこの誰それ、どこどこの娘(息子)といった会話だけで身元が全部わかってしまう狭い町のこと。町役場に勤めていた紀子さんはおばあちゃんよりだいぶ年上よ。逆算するとあの大火事の時、紀子さんは二十歳ぐらいだったのかしら?火事の火元はこの紀子さんの実家よ。おばあちゃんがまだ田舎で暮らしていた頃は、今でも不審火扱いのあの大火事の原因は町の公然の秘密として何かにつけ話題に上ることが多かったわ。さすがに、今ではあの大火事のことを知っている人がほとんどいなくなっているから口の端に上ることはないしょうけれど。

     

    その当時、紀子さんの先輩として役場で彼女の指導をしていたのがA雄さん。このA雄さんも紀子さんも町では良く知られた家の息子と娘よ。役場に勤めるのにはコネがないとダメだったような大昔のことだから当たり前といえば当たり前なのだけれど…。

    紀子さんにしてみればA雄さんは真面目で誠実な頼りになる先輩よ。実際、A雄さんは周りからの評判も良い好青年だったらしいわ。

    この後のお話は大人たちの会話や噂話から、おばあちゃんが推測したものよ。

     

    紀子さんはお付き合いしているつもりも特別な感情もA雄さんに抱いてははいなかったのに、A雄さんの恋心は一方的に大きくなり、彼女と自分は恋人同士との妄想に取りつかれ今で言うストーカー行為に及んでいたのだと思うわ。

    毎日、彼女の家にはA雄さんからの手紙が届けられ、彼女の愛犬や自転車が消えたという怪談めいた噂話もあったそうよ。毎日届けられたこの手紙が、紀子さんの拒絶の言葉とともに送り返されてから間もなくあの大火事は起こったわけね。だから、まことしやかにその送り返された手紙で紀子さんの家に火を放ったのだと囁かれていたの。本当に失火当時、A雄さんは紀子さんの家の近くにいたという証言もあったらしいわ。でも、何故かA雄さんが逮捕されたという話は聞かず、A雄さんの一家はひっそりと町を離れ、おばあちゃんが物心ついた頃には住んでいなかったわね。

     

    さてさて、真相は藪の中だけれど、ストーカーは昔々も存在していたのは確かなようね。