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《おばあちゃんの恋袋 第十三話》いとこ同士 〜昔々の恋の物語〜

  • 2014年01月27日  吉井 綾乃  



    大寒といふ壁に突き当たりたる(久保田万太郎)
     
    厳しい寒さが続いている。 一人寝の布団はなかなか温まらないもの。 今は昔、愛しい人との同衾をふっと思い出す。 どんなに時代が移り変わろうとも、そしてどんなに寒い夜だろうと どんなに薄い夜具だろうと愛しい人と二人一緒なら、ぬくぬくと幸せに違いない、と思う。
     
    今は平成の代(よ)。本当に昭和は遠くなりにけりだわねぇ。 つい最近、又おばあちゃんの大好きな昭和を代表するような女優さんが亡くなってしまったわ。ふとした仕草がとっても格好が良くて、少しも美人じゃないのにとってもキレイでウツクシイ女優さんだったの。80歳だから決して早死にじゃないけれど、それでも悲しいわ。それに寂しい。
    こんな気持ちって若い人達にはまだまだ縁のない感情だわね。 近しい人や大好きだった人達がどんどんと鬼籍に入って行く、それを見送る悲しみと寂しさかしら・・。
    おばあちゃんになった証拠みたいなものね。
     
    あらあら話がちょっと辛気臭くなってしまったわね。 閑話休題。と言ってもこれからお話する恋話はおばあちゃんがまだ小学校にも入学していない頃のお話だから当然 登場人物が皆鬼籍に入ってしまっているの。それもあってそろそろ解禁しても良いかしら、って思えたのかもしれないわ。
     
    今から遡ること半世紀以上も前の昭和の14・5年頃のこと。 おばあちゃんでさえこの世に影も形もない頃のことですもの 当然今の若いおの子や女子には雲をつかむ様なもの、きっと想像もつかないでしょうね。
    その頃おばあちゃんの実家の分家筋にあたる(分家も説明が必要かしら?要約すると親戚の家) その家に二人の兄弟が引き取られて来たの。引き取られた経緯(いきさつ)はおばあちゃんも詳しくはないのだけれど、きっとその兄弟の両親に何か不幸が有ったのでしょうね。小学生と中学生の時に東京からやって来たらしいわ。
    引き取った其の家には4人の子ども 同年代の女の子が年子で二人、とその上と下に年の離れた兄と弟がいて、その兄弟とは血の繋がったいとこ同士ですもの6人兄弟みたいなものよね。昔はそのぐらいの子だくさんの家は普通にあったのですもの。
     
    其の2年後にはあの不幸な太平洋戦争が勃発。其の引き取った兄弟の兄は学徒出陣で送りだされた南方でマラリアに罹患。家に戻った後三日三晩高熱にうなされて苦しみぬき、どうにか一命はとりとめたけれど後遺症が残ってしまったらしいわ。 おばあちゃんが物心ついた時には彼、昭ちゃん(おばあちゃんの田舎では女性達が他の人を呼ぶ時は、年齢・男女を問わずちゃん付けで呼ぶのが当たり前だった)は言語の障害が出ていて何を話しているかまるで聞き取ることが出来なかったもの。彼ら兄弟は田舎のいとこ達とは似ても似つかない 背がスラーと高く鼻筋の通った鄙には稀な大変な美男子だったのに・・・。不幸なことね。
     
    おばあちゃんが幼い頃はなぜか其の一家のアイドル的存在なっていて、たぶん周りに小さい女の子がいなかったせいだったのだろうけれど 特に姉と妹がペットの奪い合いの様に可愛がってくれていたの。 花嫁修業で姉が洋裁、妹が編み物を習っていたから二人が競い合うように洋服を作ってくれていたのを思い出すわ。それとお泊りした後のおめざ。彼女たちの家にお泊りした朝は必ず(お目覚めの略なのかしら)甘いおめざこれも定番。 二人のうちのどちらから受け取ろうか幼心を悩ませたものよ。
     
    ペット代わりにおばあちゃんを取り合ってくれる分には何の問題もなかったのだけれど 兄弟のようにして育ったいとこ同士。ここで生まれた恋心はかなり問題を含むわよね。 普通なら同じ屋根の下で年頃の男女が暮していれば恋心が芽生えるのは何の不思議もないことなのに、最初 周りは誰も気が付いていなかったらしいわ。 当人同士がひた隠しに隠していたのかもしれないけれど、今となっては当人たちに確かめることも叶わないわねぇ。
     
    鄙には稀なイイ男だし公務員だしと好条件の揃った弟の邦(くん)ちゃんには星の降るほど縁談が有ったみたいなのね。ところがいくら良いお話がきても首を縦に振らない。「これは誰か好きな人がいるに違いない」でも尋ねられると「兄を差し置いて自分だけが結婚するわけにはいかない]と答えていたらしいわ。 障害を持ってしまったお兄さんに対する気持ちに嘘は無かったのでしょうけれど、それで一生結婚をしないつもりでは困ると言うので本家のおばあちゃんの父親の出番となったわけ。 最初はやっぱり「好きな人はいない。兄を捨て置けない」の一点張りだったみたいだけれどとうとう父に打ち明けたの。「好きな人がいる。それは敏子です」これを聞いた時父もすぐには言葉が出なかったみたい。 敏子ねえちゃん、姉妹の姉の方よ。
    血が濃すぎると周りからずいぶん反対されたのだけれどおばあちゃんの父親が乗りかかった船だと、仲人を引き受けて奔走。そして二人は無事結婚式を挙げたの。
     
    目出度し目出度し。 でも父でさえ気が付いていたのですものじっと心のの痛みを隠している千恵ねえちゃんのことは、幸せな二人もきっと気が付いていたはずよね。 それから程なくしてよ。千恵ねえちゃんがお見合いをして遠くの街に嫁いで行ったのは・・・。
     
    でも今ではみんな天国の住人。楽しく昔話をしているかしら。