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《おばあちゃんの恋袋 第十六話》哀しい乙女 〜パワハラ男〜

  • 2014年02月17日  吉井 綾乃  



    今年も乙女たちの一大イベントが無事に終わった。 

    一説にはチョコレート業界の陰謀説も飛び出すほど見事に定着して、乙女たちに認知された2月14日、バレンタインデー。 本家の欧米でのバレンタインデーとはだいぶ様子の違う、もはや日本独自の文化(?)と言える。 いったいいつ頃から定着したのだったろう。定かには思い出せない。 昔は女性から愛を告げるなどと言うことが、それ自体大変珍しいことだった。

    だからもし昔の男性諸氏が現在の様に女性から思いの丈を告げられたりしたら、それだけで舞い上がり、その女性に夢中になりかねない。それはまさに由々しき事態だ、などと思う。

     

    皆は本命チョコを渡す事は出来たのかしら。 義理チョコだけのイベントじゃ寂しすぎるものね。 後はホワイトデーを待つのみかしら。 今どきの人気のおの子はどんな子なのかしらねぇ。知りたいわ。おばあちゃんから見ると今どきのおの子は良く言えば線が細くて繊細、悪く言うと・・、おとなし過ぎにみえるのよ。 キレイなおの子は増えたけど元気が足りない。 その分今どき女子は元気一杯ね。溌剌(はつらつ)としていて怖いもの知らず。 おの子たちよりとっても強そうだわ。 

     

    そんな今どき女子ならパワハラ、そうパワーハラスメントに遭遇した時どんな風に対処するのかしら。 今も昔も悪い奴・厭な奴はどこにでもいるわ。

    「憎まれっ子世に憚る・悪い奴ほどよく眠る」昔の人がよく言ったものだけれど、おばあちゃんの知る限り悪い奴ほどよく眠るし、どこにでも憚っているから当たっているわ。

    そんな悪い奴らを今どき女子ならガツンとヤッツケルことが出来るかしら。

     

    おばあちゃんが良く知っている厭な男・パワハラ男は、十話で登場したスナックのママの旦那様。様なんか付けたら勿体ないわね。あんな卑劣な男、以後様はなし、よ。

    おばあちゃんはパワハラを受けた当事者ではないけれど当時を思い出すたびに怒りがこみ上げるわ。 でも自分が被害を被っていたら、あいつをヤッツケルことが出来たかどうかと言えば・・、たぶん無理だったと思うの。だからなおさら悔しいわね。

     

    経緯はこうよ。 かれこれ40年以上も前のお話。

    十話で登場する女優の三田佳子さんに似た静子ちゃんや他に何人もの若い女の子をアルバイトで雇っているスナックでの出来事。 おばあちゃんがその店のアルバイトにも慣れた頃又一人アルバイトの女の子が増えたの。 人数的には女の子が足りていないと言うことは無かったのだけれど、そのころママが初めての赤ちゃんを妊娠中で、悪阻がひどく何時でも何処でも眠気に襲われて立っていられないような状態だったの。だからママの代わりに常勤してくれる人が欲しかったのかもしれないわ。

    だっておばあちゃんと他のアルバイトの女の子たちは今で言うフレックスタイムで、出勤したい時だけの約束だから常勤者はいなかったのよ。

     

    彼女はおばあちゃんより1歳年下で上京したばかり。 これが性悪な静子ちゃんと雰囲気がとても似ていて野暮ったいけど可愛い人。 静子ちゃん程の美人ではないけれど、性格は月とスッポン、正反対。容姿どおりのイイ人だったの。 だからおばあちゃんたちはすぐに仲良くなれたわ。 

    そんな彼女がどんな風にママやマスターに言いくるめられたものか、常勤者として目黒川沿い(お店が近い)の窓もない暗い一部屋を宛てがわれて、お店に通い始めたの。 それでも彼女は「いいのよ。どうせ寝に帰るだけだもの。それに家賃の節約にもなるし」と健気に言っていたわ。

    そんな素直で人を疑ったりしない彼女を、もしかしたら妻が妊娠中だからと言う、あってはならない理由で性のはけ口にしたのなら本当に許せない男、卑劣漢だわ。人間としても男としても最低のクズよ。

     

    彼女からその出来事を打ち明けられたのは彼女が勤め出し3カ月ぐらいたった時だったかしら。 彼女の住んでいる部屋は窓もなく昼でも光が入らないので煌々と電気を付けていたわ。 おばちゃんが訪ねたのは丁度お昼時だったのにね。 殺風景な部屋の片隅にはお蒲団がちょこんと畳まれてあったのを覚えているわ。 ポツリポツリと彼女が話し始めた内容は、いささか耳年増で物知り顔の生意気な女の子のおばあちゃんにとっても衝撃的な内容だったの。 話している彼女も事実を受け止めきれていないのが良く判ったわ。 他人事のように淡々と話す様子が羽をもがれた小鳥の様に傷ついて疲れ果てていたもの。

    あいつがママの代わりにマスターとして店に立つことが多くなり、最初はお店が終わった後、部屋まで送ると言う名目で部屋までついて来て突然豹変したらしいわ。 彼女はその時にはっきりと拒絶できなかった自分を責めていたけれど、彼女には何の落ち度もないわ。 だけどそれ以降何かと理由をつけて部屋に上がり込む様になったそうよ。 本当に今でも悔しいわ。 若かったとはいえ彼女の話を聞くだけで何の手助けも出来なかったことも、あいつをヤッツケル事が出来なかったことも、とても悔しい。 それは相手にしっかりと対峙する勇気がなかった事への後悔の念よ。

     

    だから若くても乙女でも厭のもの駄目なものをはっきり伝える勇気をお持ちなさい。

    元気な今どき乙女には要らぬ説法だったかしらね。