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《おばあちゃんの恋袋 第十四話》恋はイイ男の製造機 〜一途なハート〜

  • 2014年02月03日  吉井 綾乃  



    昔々の御伽草子から、現代の漫画に至るまで恋の主役は美男美女と相場は決まっている。 昔も今も恋する男女の瞳には☆(星)が煌めいている。

    これは夢を描く絵草子の恋の主役たちが醜いご面相では夢が壊れるという理由に他ならない、と思う。

     

    今どきのおの子や女子は、愛や出会いが描かれている所謂恋愛ものってどんなものを読んでいるのかしら?

    恋愛小説と言えば、おばあちゃんが20代後半の頃、その頃勤めていた会社のお局さまの愛読書が確かにハーレクイン社から出ていた「ハーレクイン‐ロマンス」シリーズの文庫本だったわ。

     

    なにげにお局さまと書いてしまったけれど、優しくて思いやりの深い女性だったから、世間一般のお局さまのイメージとはだいぶ違う女性だったのよ。 ただ確かに独身だったし年齢もだいぶ上だったから、心ない一部の輩がお局さまと呼んでいたのは事実だったけれど・・・。

    彼女の家を訪ねた時、部屋の本棚一杯に其のシリーズが並んでいたの。 何気なくちょっと手にとって見ていたら彼女が照れたように「読んでみる?これ結構面白いの。馬鹿にしたものじゃないのよ」 おばあちゃんとしては尊敬している先輩の薦めてくれる本を断る理由なんて何もなかったから、其の中から2・3冊選んで頂いて初めて読んでみたわ。

    う〜ん、なるほど・・・。主役の男性達はセクシーでクールで逞しくてetcと最高級の殿方ばかり。 だから読者は恋に恋する様に物語の中の魅力的な男性との()(くるめ)く様な恋を思い描いて夢中になるのね。 少し乙女チックで可愛らしい所のある先輩女史が愛読しているのも解るわ。と言うのが当時の感想。

     

    でも事実は小説より奇なりとよく言うでしょう。 本当にその通りだと思うのよ。 実社会にはどんなドラマチックな小説よりも素敵でドラマチックな恋の物語が存在するのですもの。 ただ小説と違うのは登場人物が美男美女ではないことよ。

    おばあちゃんが知っている恋物語の主人公たちも押し並べてごく普通の容姿だし、美男美女と言うと少ないものよ。 

    其の中の二つの物語を教えてあげたいわ。 物語としては二つとも駆け落ち、しかも旦那様のいる人妻を連れての逃避行。 これってドラマチックこの上ないでしょう。

    だけどこの二つの物語の登場人物は美男美女ではないのよ。もっとあり体に言えばこの物語の主人公の男性彼らはどこからみてもイイ男とは呼びがたいと言うことなの。 それなのに実は彼たちはどんなハンサムな殿方よりもカッコいい男だったとい云うお話よ。

     

    今日はこの二つのうちの一つの恋物語を披露するわね。

    恋する二人は関西からの逃亡者。関西の何処だったのか忘れてしまったのだけれど関西弁だったのは確かだわ。 おばあちゃんが彼と出会った時は、まさに彼は自分が働いていたお店の奥様を連れての逃避行中よ。

    この彼はペコちゃん人形と今は撤去されてしまった大阪の食いだおれ人形を足して二で割った様な感じの人だったの。 顔と体のバランスがペコちゃんに似ていて黒く太い眼鏡をかけた顔が食いだおれ人形似なのですもの。 いつもズボンにインしたシャツをくたびれたベルトで思いっきり締め上げているからズボンの裾が上に引っ張られてつんつるてん。 痩せているからなのかとても大きく見えるエラの張った顔。 

    その顔を押したらペコちゃんのように首をユラユラするかも・・、とそんな失礼な想像をしたこともあるぐらいよ。

     

    関西弁の柔らかいイントネイションとユーモラスな容姿からはとても人妻を攫って逃避行中の人だなんて思いもよらないから、其の事実を知ってとても驚いたわ。 でも驚きは其の事実を知った時よりも彼の真の姿を垣間見た時のほうが大きかったわねぇ。  

    彼女の旦那様は怖い筋の関係者だと言う噂や、いつでも逃げ出せるようにと部屋の片隅に置いてある唐草模様の風呂敷には長ドスが忍ばせてあると言う噂もあったのよ。 噂の真偽は解らないけれど風呂敷包みはほんと置いてあったわよ。

     

    或る日、焼鳥屋さんで彼と彼女がおばあちゃんのアルバイト先の早番や非番の仲間達とワイワイ楽しく盛り上がっていたら「追手が来た」(実際おってと呼んでいた)との知らせがまだ勤務中の仲間から届いたの。 それからの彼の豹変ぶりがすごかった。まるで別人のようにきりっと凛々しい顔。なんともカッコいい! 愛する人を守り抜こうと言う気持ちが彼の身体と行動を支配しているのかキビキビと力が漲って一回りも大きく見えたわ。

    彼女を一旦信頼している上司に預け、当然仕事仲間は彼らの味方だから彼女については緘口令が敷かれ、彼は一先ず一人でまさに其の場所から逐電。 何度もそんな修羅場を経験しているらしい二人が別れ際に交わしたのはアイコンタクトのみよ。 周りには仲間がいっぱいいたからドラマの様な熱い抱擁は無理だったけれど、見つめあって肯きあう二人は本当に綺麗でドラマの中の主人公たちよりずっ〜とイイ男とイイ女だったわ。

     

    やっぱり恋は素敵。 それに恋は美男美女の専売特許じゃないわ。 「ハーレクイン‐ロマンス」なんか蹴とばして、素敵な恋を見つけて頂戴。 きっと一途に恋する心がイイ男とイイ女を作ってくれるはず・・。