TOP > イククルコラム > 《おばあちゃんの恋袋 第十話》せつない片思い 〜お願い気づいて〜

《おばあちゃんの恋袋 第十話》せつない片思い 〜お願い気づいて〜

  • 2014年01月07日  吉井 綾乃  



    あらたまの年を迎えて、今年も恙なく幸せな一年でありますようにと心から思う。

    幾歳(いくとしつきを重ね 門松をくぐった回数も忘れてしまいそうな昨今は「めでさもちう位なりおらが春」と一茶の心境が良くわかる様な心もちがしている。

    が、それでもお正月は特別なもの。ありがたいもの。

    新しい真っ白な気持ちで、素直に世の中の人達の幸せを願っている自分に気づきやっぱりお正月は特別なのだと、妙に合点がいく。

    それもこれも今 平和な日本で暮らしているからこそ、(ひとえ)に先人たちに感謝あるのみ。

     

    初春、春は命の息吹の時ね。年を重ねることで始めて気づく事も多いのだけど 若さこそ命の息吹なのだと知ったのも年を重ねてからだわね。

    だから思うのよ。 営々と次の世代へと受け継がれていく若い命こそはいつでもどんな時でも輝いていて欲しいものだって。

     

    今のおばあちゃんは、恋するおの子や今どき女子が思い思われて 幸せではち切れそうな笑顔を見せてくれたりすると ほっこりと幸せな気持ちになれるわ。幸せのお裾分けと言うところね。

    おばあちゃんとしては若い彼と彼女の恋話をいっぱい聞いてみたいものだと思うわ。間違いなくとっても幸せな気持ちになれるはずですもの。

     

    これから 若い恋人たちの恋話には到底敵わないけれど、思い出補正がたっぷりとかかったおばあちゃんの片思いの一席を披露するつもり。

    だから暫くお付き合いくださいな。

     

    皆より長く生きている分かしら、きっと片思いの数も皆よりだいぶ多いわね。 星の数ほどあるもの。

    だからって若かりし頃のおばあちゃんの気が多かった訳でも 飽きっぽい訳でもないのよ。

    只、好きな殿方が出来ると その時その時「彼がいなくなった世界なんか考えられない」くらいの勢いで夢中になるの。 実際その時その時は真剣で一途なのよ。

    今どき女子の皆にもそんな経験があるでしょう?

     

    さてさて 今は昔、安芸の国に男ありき。

    おばあちゃんの思い人は安芸の国の人。 広島県出身の慶応ボーイ。 今も慶応ボーイは人気者かしら? 慶応ボーイはおばあちゃんが大学生だった頃も大変な人気者だったわ。 ただしおばあちゃんは慶応ボーイだから好きになったわけじゃないわよ。

     

    彼を知ったのは、おばあちゃんのアルバイト先のスナック。昔々はスナックと喫茶店が大流行り。 で、其のお店は今で言うところのガールズバーに近いけれどスタンドの中の女の子にはバーテンダーとしての役割は少なくて単にお客様のお話相手と言う感じかしら。

    スタンドの中は4人も入れば満杯の小さなお店だったけれどママの方針で若くて魅力的なアルバイトを何人も雇っていたの。 その中の一人がおばあちゃんと言いたいところだけどおばあちゃんは容貌で採用された訳じゃないわね。 採用理由は強いて挙げれば元気と機転かしら。

     

    おばあちゃんの愛しい人は広島時代からの親友と二人で(今思えば学生の分際で不埒なことね)よく飲みに来ていたお客様。 今でも彼の優しいちょっとはにかんだ笑顔を思いだすと胸がキュンとなってしまいそう。

    アイ・ジョージさんという歌手を知っている今どき女子はいないでしょうねぇ。面差しが彼ととても似ているのよ。 アスコットタイと口髭まで同じなの。 よその人の目にはどんな風に映っていたのかは知らないけれど おばあちゃんにとっては、細いダブルの裾・アスコットタイに口髭 ぜ〜んぶキュートでお洒落。大好きだったわ。

     

    学生同士だったこともあり、お店以外でも何人かの女の子たちも加わって一緒に遊んだりもしていたの。 恋する思いを誰にも知られることなく 顔を見るだけで幸せ全開の日々が過ぎ、ある日彼の親友から相談を持ちかけられたのよ。 「彼の恋を成就させてやりたい」 絶句。いったい彼の思い人は誰なの? それは美貌を誇るアルバイト軍団の中でも1・2を争う美人さん。女優志望の静子ちゃん。 名前までしっかり覚えているのは悔しかったからではなく容姿と名前がよくマッチしているうえに女優の三田良子さんにそっくりのとても綺麗な人だったからよ。

    ちょっと小柄だけれどおチビさんの彼には似合っているのかも・・。 と、思おうとしたけれどダメ。 恋敵だから(戦う前に負けているから正しくは恋敵じゃないわね)悪く云うと思われるのは心外だから、イイ子だって言いたいけれど彼女は容姿と心根がまるで正反対でおばあちゃんの苦手なタイプ・イヤな感じの女性だったの。

     

    でも彼の幸せのためにと、健気にも自分の思いを押し殺して彼女にそれとなく伝え 彼女の気持ちを確かめたわ。 彼女曰く「全然タイプじゃない。貧相でチビでむしろ嫌い」ほんとにイヤな女。

    「彼はとってもお洒落なのにいつも垢抜けないセンスの悪い服ばかり着ている彼女には彼の素敵さが理解できないのよ。美人さんてセンスを磨く必要がないから概ねセンスが悪いものね」と心の中で悪態をついて少しばかり溜飲を下げて彼には「お友達でいましょう」と彼女の言葉として報告したのよ。

     

    哀しいとても哀しい。彼の心の痛みがおばあちゃんの心の切なさに重なり合って一層切なくて大声で叫びたかったわ。 「私はあなたが大好きよ」

     

    でも気持ちを伝えることも気づかれることもなくおばあちゃんの片思いは終わったの。

    今も昔も片思いは切ないものよね。