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《おばあちゃんの恋袋 第四十二話》〜彼女の恋が実らない理由〜

  • 2014年08月18日  吉井 綾乃  



    日本の夏の風物詩。お盆時の帰省ラッシュも一段落。猛暑の中、家事に仕事へと皆が日常へと戻って行く。

    暦の上ではすでに秋だが一年の中で一番暑いのは、この時期ではないだろうか?

    気ままな暮らしが身についてしまい、暑さを避けて日がな一日グダグダと過ごす。そのせいか、この暑さの中、頑張っている方々を見ると申し訳ない気持ちが働いて、思わず『毎日、御苦労さまです。暑さに負けないで下さい』とエールの一つも送りたくなる。

     

    昔々、恋多き女ありき。

    さて今日は、とっても一途で一生懸命恋をするのに、なぜかお相手に気持ちが届かない、受けとめてもらえない少し可哀想な女の子のお話よ。

     

    世の中には自分でも気がつかないうちに何故か周りから浮いてしまう人っているわよね。

    振り返ってみると、もしかするとおばあちゃんもそんな人種の仲間かもしれないと思い至る出来ごとが幾つもあるの。だから、ほんとうは偉そうなことは云えないのだけれどもね。

     

    今から30数年ぐらい前になるかしらねぇ。

    その当時、おばあちゃんは知人の経営するラブホテルで、彼らの代わりに支配人役を勤めていたのよ。

    チエミちゃんはその時の従業員。彼女はまさに浮いちゃう人種だったわ。

    彼女は履歴書によれば二十歳なのだけれど、どう見ても見かけは30前後のオールドミス。確かに一緒に談笑でもしていれば笑顔や仕草からまだ若い女の子とわかるけれど、黙っていたらその当時のおばあちゃんと同じ年頃に見えたわ。なぜかしらねぇ。

    口角が下がっていて、何時も何かに怒っている様な顔のせいかもしれないわ。愛くるしいとかファニーフェースとかなら歳相応にみえたのでしょうけれど、あいにくチエミちゃんは顔だちが整った美人顔。それがかえってマイナスに働いたのね。

     

    従業員はほとんどがパートかアルバイトの人達よ。専業で従事してくれたのはリーダー格のモテギ君という若者と近所のパートのおばさんぐらいかしら。その他のメンバーはそれぞれ色々な事情を抱え、掛け持ちで働く人が多かったわね。ちえみちゃんも掛け持ちで働いていた一人よ。

    彼女の本業はスーパーのレジ係。履歴書によれば、彼女の志望動機は美容師の専門学校に行く学費を貯めたいだったかしら。

     

    惚れっぽくて目がすぐにハートマークに変わるチエミちゃん。働き始めてすぐに彼女はモテギ君に恋したの。土・日曜日や休日は殺人的な忙しさになる人気店だったので、お客様が退出すると同時に2〜3人がチームを組んで、電光石火の早業で部屋の清掃に入るのよ。そんなときチエミちゃんはモテギ君とばかり組みたがり、金魚のフンのごとくついて回る。チーム割はその日その日に出勤してくるメンバーが違うのでほとんど働く人たちに任せていたのよ。そんな状況下、あまりにも露骨な振る舞いだから一緒に働く人たちにあっと云う間に知れ渡り、それでも悪びれることなく一直線に自分の好意をモテギ君にぶつけるので、周りからちょっと浮いてしまったのよ。

     

    おばあちゃんの立場としては、本当は同じ職場での恋愛は奨励できないわ。けれど、二人とも少々変わったところはあるけれど、とても真面目な子たちだからカップル誕生でも良いかなと思っていたの。モテギ青年に決まったお相手はいなかったようだしね。

    ところが、暫くするとモテギ君が彼女とチームを組むことがなくなったのよ。先輩でリーダー格のモテギ君がチーム割の指導権を持っているのですものチエミちゃんを避け始めたのは明らかね。彼女ははた目から見てもしょんぼりとしおれた花のよう・・。自分の感情を隠そうともしないので一緒に働く人たちにはちょっと迷惑よね。

     

    次ぎに、チエミちゃんが好きになったのは彼女と同い年の笠原君。サラサラヘアーの優男。チエミちゃんより後から入ったアルバイトの専門学校の学生よ。彼女が仕事を教える立場になり、すかさず目がハートになってしまったわ。でも1週間もしないうちに彼は自分の彼女をアルバイトに誘い入れ一緒に働き始めたの。だから、彼女の恋はあっけなく終わりを迎えたのよ。

    でも、その時は結果オーライだったわ。笠原という男の子は大変な食わせ物だったのですもの。愛想はすこぶる良いのだけれど働きぶりの陰日向が激しいので、最初から要注意人物だと思ってはいたのよ。案の定、彼女や若いアルバイトの子達を先導して、リネン庫や冷凍庫から備品を盗み出していたの。即刻、辞めてもらったわ。

     

    そして、次なる彼女のターゲットは夜勤専門のフロント係、岩さん。彼はバツ一の離婚経験者で別れた子供の養育費のためにアルバイトをする好男子。

    婚約者ありだから、チエミちゃんの恋は最初から成立しないのだけれど、そんなことは知る由もなく、第一、フロント業務の岩さんと清掃係りでは接点はほとんど持てないのに、例のごとく一直線に自分の気持ちをぶつけまくる。

    そのために、何かと理由をつけては1階のフロントに現れるようになったのよ。そして、ラブホの絶対禁止項目、『お客様との鉢合わせ』を何度か繰り返して岩さんとおばあちゃんから厳重注意を受けることになるの。

     

    周りがまるで見えていないのね。一途な気持ちというよりは独りよがりな恋かしら。

    一生懸命人を好きになるのは良いことだけれど、自分の気持ちばかりに目を向けずに相手の事を思いやる気持ちがないと恋は始まらないようね。