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《おばあちゃんの恋袋 第四十八話》大事な人 〜切れない縁〜

  • 2014年09月29日  吉井 綾乃  



    秋は着々と訪れている。彼岸花も見ごろを過ぎ、はや10月に手が届く。

    10月は衣替えの時期。すでに朝晩は涼しさが増して長袖シャツや薄手の上着が恋しい。衣替えのために夏物をきれいに洗濯をして整理を始めた。来年の夏まで取っておくまでもない不要な衣服が何枚かみつかる。その中にはもう袖を通すこともないのになぜか毎年、棄てることができずにいるものが混じっているが・・。

    男女の仲も、棄てるに棄てれない縁なるものが存在する、と思う。

     

    今は昔。武蔵野の国にうるわし女ありき。

    今日は、おばあちゃんの若りしころの悪友、順子ちゃんのお話し。

    順子ちゃん、彼女は俗にいう遊び人。男の子からみれば悪女と指差される人種だったわね。裏を返せば順子ちゃんがとても魅力的な女性だったということよ。だって、殿方がほっておけないぐら魅力にあふれていたということですものね。

    今でも昔でも若いということは、それ自体がエネルギーの宝庫のようなもの。そのエネルギーを持て余す様に、遊び狂っていたころの仲間が順子ちゃん。お互いに悪友だと認め合う仲の順子ちゃんとおばあちゃんは、周りの大人の人たちから「遊び呆けているおバカさん」と白い目で見られていたに違いないわ。

    文字通り、寝る間も惜しんで遊ぶことに夢中だったわね。アルバイトもあるし学校もあるし(学校はほとんど自主休講)寝ていたら時間が足りないのよ。

     

    40数年前の新宿・歌舞伎町は朝までネオンが瞬き「眠らない街」と呼ばれていたの。(今でもそうかしらね)遊び疲れた若者たちが夜明けとともにぞろぞろと新宿駅に向かうのよ。そして始発電車に乗って安アパートに戻り、2・3時間の仮眠の後また活動し始めるの。順子ちゃんとおばあちゃんもそんな若者の一人だったわ。東京生まれの順子ちゃんは安アパートに帰るわけではないけれどね。

    まだ、歌舞伎町劇場街にはコマ劇場も健在で、その裏手にACB(アシベ)会館があったわ。その会館の中にあった、今では死語になりつつあるディスコの走り・ゴーゴークラブに二人連れだっては、足げく通っていたの。なんと言っても男性客の集客のために女性客は無料で入れる日があったのが足げく通えた理由かしらね。流行のエレキバンドが出す大音響の中で演奏にあわせて踊るのは、とても爽快で楽しいしいものだったわ。

    フロアーで踊る順子ちゃんは格好良くて魅力的。何時訪れても男性諸君の熱い視線を集めて、声をかけてくる男性諸君をクールに捌いていたものよ。お尻が見えてしまいそうなミニスカートに網タイツ。思い出すと赤面ものだけどそんなファッションが順子ちゃんをより一層魅力的に見せていたわ。なんていったって容姿がツイギーによく似ているのですもの、ミニスカートが似合わないわけがないのよ。

    大きな瞳に長い睫もツイギーによく似ていたわ。ちょっと目を伏せて次にじっと殿方を見つめる・・。と、その憂いを含んだ眼差しにほとんどの男性諸君はいちころだったわよ。本人も自分の魅力を十分承知していて日替わり定食のごとく相手を変えては愉しんでいたわね。

    おばあちゃんは彼女のことを女ドンファンと呼んでいたぐらいよ。でもそんな彼女には中学時代から特別な関係にある男性がいたの。特別な関係というと誤解を招きそうだけれども・・。

    彼は彼女の高校受験の時の家庭教師。お父上の知り合いのご子息らしいわ。家庭教師をしていたのは彼が大学生の時だから5・6歳年上ね。それに、その当時はすでに社会人よ。

    無事に志望高校に入学できた順子ちゃんは彼に恋心をいだき、「魔性の女の本領を発揮して自分のものにした」(本人談)一部始終を教えてくれたけれど今回はそこは割愛しておくわね。

    その時から高校時代を経て、遊び人時代(?)に至る長い年月の紆余曲折をくぐり抜けてなお、「ポイ捨て出来ないのよ。腐れ縁というのが、これよ」と彼女はのたまうの。若気の至りで悪ぶってうそぶくことは良くあることだけれど、どうも彼女は本気で腐れ縁だと思っているようだったわ。だから、残念ながら彼に対する思いやりとか配慮など微塵も感じられなかったわねぇ。それでいて彼女が彼に愛情を持っていないわけではないのよ。男性諸君が良く言う『釣った魚に餌はやらない』状態みたいなものかしら。

    「彼もいろいろな女の人と付き合ってみればいいのに。別にステディな関係というわけでもないんだしそれに、もてる男の人のほうが好きよ」

    と、これもそのころの順子ちゃんの口癖よ。彼が自分の所有物かのような発言でしょう。きっと自信の表れだったのね。でも、彼が女性からモテなかったとは思えないのよ。二人並ぶとモデルさんが雑誌から抜け出したように素敵で恰好よかったのですもの。

    それに、彼が順子ちゃんにたいする想いは本物だったわ。順子ちゃんの彼に対する態度はとても褒められたものではなかったけれどもね。

    「いつまでも順子のいい友達でいてね。あいつ少し浅はかで思慮のたりないところがあるけれど、見捨てないでやって」
    「はい、もちろんです。なんだか順子さんのお父さんみたいな台詞ですね」
    「あれ、そうかな?そんなつもりはないんだけれど、だから順子にオジサンって呼ばれるのかな」
    「あははは。オジサンですか」

    と、おばあちゃんは思わず笑ってしまったけれど彼は真顔で

    「大事にしてやりたいんだ。大切な奴なんだよ」

    これが、おばあちゃんと彼の交わした会話よ。

    羨ましいなぁ。順子ちゃんはなんて果報者なんでしょう。腐れ縁だなんて、罰が当たるわよね。おばあちゃんにもそんな人が現れてくれたらと切に願ったものよ。