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《おばあちゃんの恋袋 第百五話》特別な日〜乙女の心と遊園地〜

  • 2015年11月03日  吉井 綾乃  



    月が変わり霜月となった。

    文字通り霜の降りる頃となったわけだ。そして、今日は東京では晴れの特異日と言われている文化の日。

    秋晴れの空の下、文化祭や発表会などの催し物が多い一日である。それに、スポーツや紅葉狩りなどアクティブなお楽しみもご同様だ。

    そんな時、日常を忘れられない一日へと変えてくれるのは出会いがあればこそ、だろう。

    而して、乙女心はいとおかしいものなればなり。

     

    ところで、唐突にごめんなさいね。おばあちゃんが思うに、デートコースって今も昔もあまり違いがないような気もするのだけれど、今どきのお若い方々、デートスポットの定番と言えばどんなところなのかしらん?

    ま、とにかく恋人同士のデートですもの一緒にいるだけで楽しくて幸せなのはあたりまえだわよねぇ。だから、場所はあまり関係ないのかもしれないわね。

    でも、映画館や遊園地は定番じゃないかしらん。

    もちろん、昔はディズニーランド、ディズニーシーやユニバーサルスタジオなどの巨大なテーマパークがあったわけではないわよ。けれど、遊園地は人気があったと思うわ。絶叫マシ−ンや観覧車は恋人同士には持って来い、メリーゴーランドもお化け屋敷も何でも恋する二人には楽しいアトラクションですものね。

     

    「ミチ〜、ご免ごめーんね。待った?」

    と、『ごめん』という割にはニコニコ笑顔のリッちゃんが待ち合わせ場所の小田急の向ヶ丘遊園駅に現れたのは約束の時間を大幅に過ぎたころ。連絡の取りようもなく待ちくたびれて怒り心頭だったミチことミチ子さんは

    「おせーよ!リッ!」

    と、冗談半分本気半分で一発ドツイテやるつもりで拳のグーポーズをつくると

    「ホントご免。ごめんなさい。あっ紹介するね。こちら、能勢君。能勢○○君。で、お隣が岩井、岩井××さんよ」

    と、両手を合わせた合掌ポーズで平謝りしながらリッちゃんが紹介したのは二人の男性。

    一瞬、ぽかんとしたものの瞬時に状況を理解したミチ子さん。そのとたん、ドスを利かせせた男言葉で『おせーよ』と言ったことと拳でグーポーズをしたことを悔やみましたと、さ。きっと、顔も真赤になっていたのかもしれないわね。

     

    男の子たちは同郷の大学生。こちらも仲良し二人組。

    実は、その日はミチ子さんがアルバイト先で頂いた向ヶ丘遊園(現在は閉園)の招待券というかタダ券2枚を有効に使うべく、大の仲良しのリッちゃんと待ち合せていたのよね。

     

    「いったいどういうことよ」

    と、男の子たちが遊園の(当時300円ぐらいだったかしら)入園券を買いに行っている間にミチ子さんが問い質すと

    「ミチ〜、怒らないでよ〜。岩井さんが来るのを待っていて遅れちゃったんだからさ。岩井さんは能勢君の友達。ダブルデートだよ。岩井さんってすご〜く優しいんだってさ。ミチのタイプじゃん、ミチにピッタリだよ」
    「はぁ?何それ!!勝手なことしないでよ!で?能勢君ってあんたのなんなのさ」

    もともと、男勝りで姉御肌のミチさんとおっとりタイプのリッちゃん。だからこそ馬の合う仲良しコンビなのよね。ところが今回ばかりは、いつもリーダシップを発揮してリッちゃんの手を引っ張っているつもりだったミチさんが先手を取られていささか狼狽気味よ。

    「実はさ、能勢君と私つきあっているんだ。今日はね、ミチに紹介しようと思って連れてきたのよ。」
    「え〜っ!いつどこでなんで??えっ!いつの間に?」

    思いがけない告白にまたまた頭がパニックのミチさん。そういえば能勢さんは能勢クンで岩井さんは岩井サンって紹介していたわよね。

     

    男の子たちが戻り4人そろって遊園地の中に入ると素敵なお花の階段が目の前に広がり、暫し感嘆。

    「実は、僕たちここへ来たの初めてじゃないんだ。ここって、サークルの資金集めで1年生の夏休みに僕たちがアルバイトしていたから所なんだよ。だから、案内は任しておいて」

    と、能勢君。

    「四人より二人ずつのほうが行動しやすいから、というか、一杯まわれるから取りあえず分かれて行動しようか。今から一時間後水上コースターの前に集合、で、それからお昼でちょうどじゃない?」

    まるで、男性版のミキさんタイプの能勢さんが半ば強引にスケジュールを発表すると、リッちゃんも

    「そうだね。○○(能勢さんの名前)の案に賛成」

    と二人で前もって決めてあったようなやり取りのセリフ。

    それを聞いていたミキさんも『そうか、○○かぁ。呼び捨てなんだ。そうよね、二人は付き合っているのだもの』と、妙なところに感心しながらも、おじゃま虫にはなりたくないと岩井さんと行動を共にすることを決心せざるを得なかったというわけよね。

     

    優しくエスコートしながらミキさんを一生懸命楽しませようと心を砕く岩井さん。

    会った瞬間からドキッと心が揺れたのも確かなら、岩井さんはリッちゃんの見立て通り優しくてしかも、もろミキさんの好みのタイプ。『ああ、こんなことならもっとお洒落してくればよかったわ。あのモスグリーンの薄手のカーデガンのほうが可愛らしかったのに…』

    と後悔しきり。

    リッちゃんたちカップルと水上コースターに乗ったときなど『きゃぁ』と、らしからぬ甘え声を発したミキさん。本人もなぜあんな声が出たのか不思議なのだそうだけれど、あと後までリッちゃんにからかわれる材料になったそうよ。

    それだけじゃなく、その日はミキさんにとって特別な一日。食事時は、おにぎりを持つ手が片手から両手に変わり、女の子らしく小指を優しくカーブさせながら頬張るのではなくゆっくり少しずつ食べて胸がいっぱい。観覧車に乗ったときは、正面に岩井さんの優しい顔があるというだけで直視出来ずほぼ、うつむき加減で

    「大丈夫?気持ち悪いの?酔ったのかなぁ」

    と、心配される有り様よ。

    色々なアトラクションで偶然に岩井さんの手がミキさんに触れようものならもう大変。ミキさんの鼓動は早鐘の様に打ち鳴らされ、そのことが岩井さんに知られてしまうかもしれないという恥ずかしさでまた、頭に血が上り言葉を失ってしまうという風だったらしいわ。

    だから、岩井さんはてっきり自分は嫌われたものだと思っていたそうよ。

     

    それから、月日は流れ岩井さんとミキさんはめでたく夫婦となり今も仲良しの老夫婦。

    ミキさんはおばあちゃん親友のお姉さんで、お互い今はおばあちゃん。でも、乙女心は昔も今もかわらないものじゃないかしらん。たぶん、ね。