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《おばあちゃんの恋袋 第百十三話》知らぬが花〜元カノと元カレと〜

  • 2015年12月29日  吉井 綾乃  



    とうとう、未は去り申がやってくる。
    もうすぐ、2015年も過ぎ去ろうとしているがどうにも実感がない。若かりし頃の、年の瀬だという高揚感に似た張りつめた気持ちがまるで湧いてこないのは、歳を重ね知り過ぎた功罪でもあろうか。
    何事も知っていたほうが便利ではあるが、こと、恋する男女にとっては知らないほうが幸せということが多いように思う。
     
     
    さてさて、恋人たちのメーンイベント、楽しいクリスマスも終わりましたわねぇ。
    皆さま、幸せなクリスマスでしたかしらん。ところで、残念ながら今年『クリぼっち』だった方…、『来年の事を言えば鬼が笑う』と、言うけれど来年は目前だから大丈夫。
    さぁ、来年に期待しましょうね! 
    だってね、これからお話する由美ちゃんと順次さんのカップルも前の年は『クリぼっち』の経験者同士だったのですからね。
     
    もう40年以上も前になるかしらねぇ。由美ちゃんはおばあちゃんの学友だった人よ。
    ただし訳あって、おばあちゃんは由美ちゃんや学友より2歳年上だったの。だから、周りから頼りにされることが多かったのだけれど、特に由美ちゃんはおばあちゃんを自分の姉の様に慕い頼りにしていてくれたのよ。これは、彼女が一人っ子の上に母親とは疎遠で、身近に色々なことが話せる人が少なかったせいもあったのだけど、実際におばあちゃんは年上だし、態度も体も大きかったから頼りがいはあったと思うわよ。
    「綾ちゃん、やっぱり彼とは別れるべきよ、ね。綾ちゃんだってそう思っているんでしょう。ホント、そうだよね…、絶対別れなきゃ。決めなきゃ、ね」
    と、由美ちゃん。
    「またかいな。はい、はい。分りました。今度こそ、今度は絶対って言うんでしょう。わかりましたよ。あたしゃ、今度とお化けにはお目にかかったことがないけれど、由美ちゃんの今度にもお目にかかるのは無理だろねぇ。これで何度目のお別れ宣言さ」
    と、おばあちゃんに揶揄されながらも、妻子ある男性との別れを決断してから二年目が経ち、新しい恋を見つけた由美ちゃん。
     
    前の年は紛れもなく『クリぼっち』同士で、おばあちゃんとおだを上げていた由美ちゃんなのにもう次の年には彼とクリスマスイブを過ごす相談が出来るなんて、おばあちゃんに言わせれば羨ましい限りよ。それでも、恋する乙女の悩みはつきないようで、
    「ねぇ、あのさ…、順二さんに聞いても良いと思う?ミヤさんが先週末、仕事の打ち合わせとかで、東京に出てきていたらしいんだけど」
    「へぇ、そうなんだ。でも、由美ちゃん、いったい順二さんに何を聞きたいわけ?甲府なんて近いもの、別に東京に出てきても何の不思議もないじゃん。山梨からわざわざ東京のデパートに買い物に来る女の人知ってるよ」
    由美ちゃんの『聞いてもいいかな』がまた、始まったと少々呆れながらおばあちゃんの見解を述べると、
    「だって、順二さんと先週の土曜日は会ってないしそれに、ミヤさんが東京に出てきていること順二さんも知っていたし…」
    オッと、説明不足だったわね。順次さんというのは由美ちゃんの新しい彼の名前そして、ミヤさんというのは順二さんの元カノの名前ということなのよ。
    順次さんと元カノ・ミヤさんのカップルも由美ちゃんが道ならぬ恋に終止符をうった頃、終わりを迎えミヤさんは故郷の甲府へ戻ったはずだったのだけれど…。
     
    恋人同士なら、過去にお付き合いしていたお相手がいるかどうか気になるのは当たり前だわ。それでも、気になるからといって恋人に問い質すのは勇気がいることだわよね。
    だから、わざわざ恋人に『過去にお付き合いした人のことを教えて』と、聞く人は少ないのではないかしら?でも、元カレや元カノの存在を知っているとなると話は別ね。
    由美ちゃんと順次さんの場合は、このパターンね。実は、由美ちゃんはミヤさんのことを良く知っていたのよね。だって、順次さんはじめ由美ちゃんの元カレまで同じ会社に勤める同僚だったのですもの。
    ただし、由美ちゃんの妻子ある元カレとの恋は幸いなことに、会社の誰にも気づかれることなく終わりを迎えたから、順次さんも由美ちゃんの秘密の恋は知らなかったはずよ。でも、順二さんにとっては由美ちゃんの元カレは同僚というより直属ではなかったようだけれど上司あたる人。当然、順二さんは由美ちゃんの元カレのことを良く知っているわ。
    そして、ミヤさんは由美ちゃんの二年先輩社員で、由美ちゃんが入社した時の教育係だったそうよ。だからこの二人も良く知った仲よね。でも、由美ちゃんもやっぱり、順二さんとミヤさんが付き合っていたことは知らなかったそうよ。初めて二人が付き合っていたことを知ったのは、ミヤさんが会社を辞め山梨に帰ることになった時、事情通の会社のお局様が二人(順二さんとミヤさん)の破局を教えてくれたからですって。
     
    「ミヤさんと会ったか、聞いても良いかな」
    から、はじまり
    「お店の雰囲気も、お料理も最高だったよぉ。でもね、あのお店のウエーター。私とミヤさんを間違っているような気がするのよ。順次さんに聞いてもいいと思う?この店ミヤさんとも来たのか、って」
    と、どうしても元カノのミヤさんのことが頭から離れないらしい由美ちゃんの煩悩は相当深かったわねぇ。
    「ねぇ、ミヤちゃん。ミヤちゃんの気持ち分らなくはないけれどさ。もしさ、ミヤちゃんの元カレのこと、順二さんがすごーく気にしていたらどう思う?勿論、順次さんはミヤちゃんが元カレと付き合っていたことも知らないわけだから、現実には起こらないことだけどさ」
    「えっ、…」
    「ミヤちゃんを責めているわけじゃないから、勘違いしないでよ。たださ、知らぬが仏、言わぬが花、って言うじゃないさ。残念なことにミヤちゃんは順二さんの元カノを知ってしまったから無理なのはわかるけど、元カノは元カノ、それ以上でもそれ以下でもないじゃん。考えるだけ無駄だよ。影法師と喧嘩するかい?」
     
    と、なだめたことが昨日のようだけれど、ミヤちゃんも今では3人の孫のいるおばあちゃん。おじいちゃんは順二さんではないけれどもね。