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《おばあちゃんの恋袋 第百四話》男の顔〜同窓会の夜〜

  • 2015年10月27日  吉井 綾乃  



    10月31日はハロウィン。

    10月の声を聞いた頃から街中には、ジャック・オー・ランタンを模した飾り物やハロウィングッツが至る所に置かれ、年々仮装を楽しむ若い人たちが増えすっかり若者に定着した感のあるハロウィンだが、もともとハロウィンは他国のお祭り。

    日々を楽しむ術は他所の国が一枚上手なのであろう。しかしながら、恋心は万国共通。

    なれば、祭りも恋も大いに楽しむが良し。

     

    近頃、かぼちゃのお化けや魔女の扮装をした店員さんを良く見かけるわ。本人が楽しそうだと、見ているほうも気持ちが良いものよ。でも、中には嫌々やっている人もいるのでしょうね。顔が、『イヤだ、イヤだ』と言っているのですもの。バレバレよ。

    目は口ほどにものを言い、と言うけれど、これはほんとね。目だけでも饒舌なのですもの顔全部だったらもっとお喋りだわ。

     

    さてさて、今日はそんなお喋りな顔…、というか美醜を超えた『いい顔』の男性に恋心を抱いたことのある瑤子さん(現在、おばあちゃんのお友達)の思い出話。

     

    瑤子さんは今から40数年前から、小田急線、新宿から小一時間ほどのところの相模大野に住んでいたとのこと。故郷の長野の高校を卒業して上京…上京というか、大学は東京にあったもののアパートは相模大野、神奈川県よ。だから、正確には上京とは言わないかしらね。

    瑤子さんのご母堂の叔父さんが相模大野在住だったことでアパートは相模大野に決まったらしいわ。親御さんも誰も知らないところでの娘の独り暮らしは心配なものよ。お目付け役が叔父さんなら安心ですものね。

    大学を卒業して就職先も都内に決まったものの住めば都。瑤子さんは一度も相模大野から居を移すことがなかったわ。もっとも、化粧品会社の研究室勤めの瑤子さんは真面目で優秀な人材だったのでしょうね。それなりの地位も収入も得て相模大野にマンションも購入していたのだから転居する必要もなかったのでしょうけれど。

     

    スラーと背が高く理知的で意志の強さを表す、女の人としては強すぎるほどの眼光を持つ瑤子さん。おばあちゃんが思うには、それって、目が大きく頬骨がちょっと高過ぎるせいもあるのよね。確かに、瑤子さんはしっかりした芯の強い人だけれど、だからと言って気が強いわけではなく、むしろ心優しい女性よ。

    本人曰く

    「とんと、男の人や遊びに興味がなくてねぇ。研究所と自宅の往復、毎日が単調な繰り返しよ。ほら、よく男の人が言うでしょう。まるで伝書鳩のように、って。まさにそれね」

    と屈託なく笑いながら

    「まぁ、そのおかげで自分の家も持てたし老後の蓄えも少しは残せたわけだから、これで良し、としましょうかしらね」

    なるほど、遊び好きで男好き(?)、蓄えもないおばあちゃんには耳の痛いお話だわ、と聞いていると、

    「でもね、好きになった人がいなかったわけじゃないのよ。こう見えても、けっこうモテたし、若いころはちぎっては投げちぎっては投げ、よ」

    と、ジェスチャー交じりにいたずらっぽく笑うと、思い出のエピソードを話してくれたのよ。

     

    18歳で故郷を後にして、故郷の生活より東京(相模大野)での生活が長くなった頃。

    そう、瑤子さんは三十路を超え四十路に手が届くという頃よね。当時、まだ独身で、親も周りも結婚話をすることを諦めたころかしらね。瑤子さんのもとに高校の同窓会のお知らせが届いたのよ。

    それまでも、何度か同級会や同窓会の知らせは届いていたそうよ。で、その手のお知らせは一瞥しただけでゴミ箱行きがいつものパターン。だからその時も即ゴミ箱、のはずだったのだけれど,赤プリ(今は無き赤坂プリンスホテル)という文字が見えて心が動き、捨てる手を止めたのだそうよ。

    全員一緒に厄払いをするというので25歳の厄年に同級会を兼ねた集まりに一度、故郷で出席したことがあるだけでそれからは、その手の集まりには一度も出席したことがないのになぜかその時は赤プリなら行ってみてもいいかな、と思ったらしいわ。

     

    その日、立食パーティの会場ではそれぞれ名刺を交わしたりしながら、ところどころに談笑の輪が出来ていて、同窓会は結構な盛会ぶりを見せていたそうよ。でも、瑤子さんは直ぐに来たことを後悔したみたい。なぜって、高校時代の同級生とは連絡をとっていなかったので疎遠となり、殆ど高校の情報がゼロ。加えて、ド近視の瑤子さん。(頬骨が高く笑うたびに頬骨にあたる眼鏡が嫌で、当時はまだ高価で不具合な点も多いため一般に普及していなかったコンタクトレンズを既に使用していた)

    その日も瑤子さんはコンタクトを着用して赤プリに出向いたらしいのだけれど、会場に着く頃には目が痛くて涙が止まらず慌ててコンタクトをはずす羽目に…。おかげで周りにどんな人がいるかも、わからない有り様。だからまるで楽しくはないわよね。

     

    諦めて、バックから予備の眼鏡を取り出して掛けたとたん

    「あれ、やっぱり瑤子君だ。E組の瑤子君だよね。僕、いや俺C組の成瀬だよ」

    と、髪の毛が薄くなりかけ、少し貫禄の出た中年の紳士が話しかけてきたそうよ。

    眼鏡をかけてみても全然誰か思い出せずに、曖昧に微笑んでいると

    「若いねぇ。全然、歳とってないねぇ。あんまりにも美しすぎて、眼鏡かけるまで瑤子君だとわからなかったよ。いやいや勿論、昔も高校時代も綺麗だったけど、だよ」

    と、成瀬なる男性が瑤子さんを気持ち良くさせながら、一緒にいる男性を紹介してくれたのが彼の野球部の2年先輩だという刑部さん。

     

    瑤子さん曰く、それから先は夢幻。

    この刑部さんを見たとたん、瑤子さん魔法にでもかかったように刑部さんから目が離せなくなってしまったのだとか…。

    そんなに素敵な人だったのかと尋ねると、刑部さんという男性、確かに後輩だという成瀬さんより髪も薄くなってはいないし遥かに若々しく身のこなしも軽やかだったそうよ。

    でも、一番違っていたのは顔付き。顔の美醜でいえば、成瀬なる同級生のほうがハンサムさんとのこと。でも、刑部さんはハンサムではなく男の顔をしていたのだそうよ。何も言わないのに何もかもが瑤子さんに語り掛けてくるのですって…。同窓生とは言え初めて会ったも同然なのに、刑部さんのすべてが瑤子さんには理解できたらしいわ。

     

    当時、仕事の都合で金沢市在住だった刑部さんはその日、赤プリに宿泊の予約をしていたらしく、同窓会が終わりその後は『綾乃ちゃんの想像通り、忘れられない一夜をすごしたのよ』と、教えてくれたけれど、おばあちゃんの想像の域をはるかに超えた出来事だわよ。

     

    まったく、恋心は摩訶不思議よね。