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《おばあちゃんの恋袋 第百話》独り相撲〜押してもだめなら〜

  • 2015年09月29日  吉井 綾乃  



    シルバーウィークが終わり、曼珠沙華が散り、9月も終わる。

    赤い曼珠沙華は毎年咲くが、シルバーウィークに5連休という長い休みは、11年後までないとのこと。しかし、暦の上でお休みが何日続こうと暦に関係ない仕事の人も多いはず。

    日々をどう過ごし何を楽しむかは人それぞれだ。

    が、何事も独りだけでする行為はいと、をかしく、一人でする恋もまた、をかし。

     

    暑さ寒さも彼岸までというわ。でも、近年の高速エレベーターのような寒暖の差は体に良くないわよね。さて、お若い方々はいかがお過ごしかしらん。

     

    さてもさても、月日の経つのは早いものだわよねぇ。

    昔々、おばあちゃんが秘かに思いを寄せていた男性、彼の訃報を人づてに聞いたのは先々月のことだったわ。不思議よね、彼岸花をみたからかしら。そのことを思い出してしまったわ。まだ、老衰といえるほどの年ではなかったけれど嫌でも月日の流れを感じてしまう知らせだったわね。

    でも、勘違いしないでね。涙に暮れているわけではないのよ。少しおセンチにはなったけれど、片想いの思い出と彼に恋したもう一人の女性や彼を射止めた女性のことが思い出されて、かえって懐かしく微笑ましい気分だわ。

     

    和正さん。これが、今から40年以上も前のおばあちゃんの片想いの彼の名前よ。

    若かったおばあちゃんは同い年の男性やロマンスグレーと呼ばれる年代の男性に心惹かれることがほとんどなかったの。大体が3歳〜5歳ぐらい年上、おばあちゃんが二十歳前後だから23・4歳〜28・9歳までがターゲットね。でも、和正さんは例外なのよ。おばあちゃんの記憶が正しければ33歳だったはず。当時のおばあちゃんに言わせれば立派な『おっさん』。ガン無視の対象年齢よ。いったいどこに惹かれたのだったかしら…。

     

    でも、最初から片想い確定の恋だったのはたしかね。だって、おばあちゃんが和正さんと出会ったときには和正さんには既にステディな関係の彼女がいたのですもの。

    おばあちゃんの頭をポンと軽くたたきながら、笑いかけた時の目じりの皺としろい歯…。相好を崩すってこう言うことね、と思わせる優しい笑顔。おばあちゃんが60数年生きてきた中でも最高級に胸キュンの笑顔だと思うのは片想いだったせいもあるのかしら、ね。

    とにかく、当時は和正さんに笑いかけてもらいたいといつも思っていた気がするわ。恋というより子犬や子猫が人間を慕う感情に近いかもしれないわね。

    でも、切ない思いも感じていたのよ。それはね、和正さんが恭子さん(和正さんの恋人の名前)に同じ笑顔を向けたとき、そんな時よ。本当に胸って痛くなるものなのだって初めて知ったのもその時かしらね。恭子さん?もちろん、美人さん。残念だけどもね。おばあちゃんから見たらしっとりとした大人の女性よね。だから、二人はお似合いの大人同士。

     

    社内恋愛がご法度の社内で、二人の仲は周知の事実。上司に報告済みなのか、はたまた仕事のできる和正さんへの会社のさじ加減かは知らないけれどお咎めなしの暗黙の了解よね。新人のおばあちゃんですら、すぐ知ったのだから知らない人はいないはずなのに、ここで登場するアキノちゃん。おばあちゃんより2歳年上だからアキノちゃん呼ばわりはまずいのだけど名前というよりあだ名感覚でみんなからアキノちゃんと呼ばれていた彼女はコケテッシュで可愛い人。そのアキノちゃんが猛然とアタックしていたのが和正さんなのよねぇ。

     

    「○○さん(和正さんの苗字)、お願いがあるんですけど〜」
    「○○さん、これやっておきました。間違ってないと思うんですけど〜」
    「これで良かったですか、○○さんの言っていたのと同じだと思うんですけど〜」

    やたらと○○さんを連発するは、語尾は伸ばすは、事あるごとの和正さんにまとわりつくのよね。『仕事中だぜ、仕事せんかい。可愛い子ぶるな!』と内心おばあちゃんは怒り心頭よ。でも、おばあちゃんがやりたくてもできないことをしているから妬んで言っているわけではないのよ。ん…、少しはあるかしらん。

    とは言っても場外乱闘よね。和正さんにとったら、与り知らないところで与り知らない女どもが戦っても気付くわけがないものね。

    おばあちゃんとしても戦う意思はなかったわよ。それに、アキノちゃんだって当の和正さんだっておばあちゃんの気持ちは知らなかったはずですもの。

     

    ショートカットが良く似合う、そう、ちょっと木村カエラさんに似たアキノちゃんは悔しいけれど、本当に可愛らしい人だったわ。だから、男性陣の人気も高かったはずよ。

    恭子さんという決まったお相手がいるのに、果敢に和正さんにアタックするアキノちゃんを見て、周りの人たちがどんな風に思っているのかとても気になったのだけれど、これが不思議なの。誰も何も感じていないかのようなのよね。

    アキノちゃんの会社内でのキャラクターのせいなのか、おばあちゃんの思い過ごしなのか…。いいえ、間違いなくアキノちゃんは和正さんに恋していたはずよ。同じ想いを持つ者同士、わかるのよね。だって、もう一人、恭子さんも気づいていたはずだわ。恭子さんがアキノちゃんに言ったのよ。

    「ねぇ、アキノちゃん。人のものを欲しがるのは子供のすることよ」

    って。そう、ハッキリ思い出したわ。どんな場面で恭子さんがこのセリフを言ったかは覚えていないけれど間違いなく恭子さんもアキノちゃんの気持ちに気付いていたのよ。

     

    そのセリフの前か後か、はっきりしないけれどアキノちゃんは別の男性と付き合うような素振りを見せたことがあるの。あれはきっと、押してもだめなら引いてみなだったのかもしれないわねぇ。でもね、おばあちゃんが知る限り和正さんがアキノちゃんの気持ちに応えることはなかったはずよ。

     

    押してもだめ、引いてもだめなら諦めが肝心かもしれないわね。

    だって次の恋が始まる準備が必要でしょう。片想いでも恋は恋。いとをかしいものよ。