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《ヒモノ図書館員の恋愛強化書》『白河夜船』が描く恋と女の友情

  • 2015年06月23日  猫元 わかば  



    恋愛をしていると不安や不満がたまることもあるはず。
    年齢、職業など様々な理由からスレ違いがうまれるのは仕方のないことかもしれません。大切な相手だからこそ言えない!でも弱音やグチを吐きたい!そんな時、やっぱり同性の友人は心強い味方です。
     
     
    今回は吉本ばななさんの『白河夜船』。「しらかわよふね」と読みます。
    何もわからない、気づかないぐらいぐっすり眠っているという意味があるそうです。
    5月25日より公開された映画は吉本ばななさんも大絶賛されています。
    私が手に取ったのは新潮文庫版。本のタイトルにもなっている『白河夜船』にくわえ『夜と夜の旅人』『ある体験』を収録しています。
     
    この3作は「眠り3部作」とも呼ばれ、しっとりとした雰囲気の、ちょっと不思議なお話。
    描かれるのは友人や恋人の死によって生が停滞してしまった女性たち。
    恋愛を根底に置きつつ女の友情や生き方に光が当てられています。
    今回は恋愛に絡んだ女の友情が印象的だった『白河夜船』と『ある体験』をご紹介したいと思います。
     
     
    『白河夜船』
     
    <あらすじ>
    深く、果てのない眠りに身を任せ続ける寺子。親友・しおりの死と共に、彼女の眠りはどんどん深くなっていくばかり。
    どんなに深く眠っていても恋人からの電話のベルは気付く。それが唯一残ったより所でした。しかし、ついに恋人からの電話にも目覚めることなく半日以上眠るようになってしまいます。
    際限のない凶悪な眠気におびえながらも寺子は眠りから抜け出せません。
     
     
    寺子の恋人は6歳年上の男性。彼と会う時間を取れなくなるのがイヤで仕事をやめてしまうほど、好きな相手です。でも同じぐらい淋しさを感じている。
    「夜の果てを見てしまう」「ずっとわかっていることは、この恋がさみしさに支えられているということだけ」「あの人と寝ているといつも真冬っぽい」
    寺子の独白やセリフはもの悲しさであふれています。
    彼女に付きまとう淋しさの原因は、自分の恋人にはずっと眠った状態――植物人間になってしまった妻がいることでしょう。
     
     
    ・寂しさを抱える寺子のより所は親友だった
     
    そんな彼女を支えていたのが、今は亡き親友のしおり。
    とびきりの美人ではないけれど、おっとりしていて女らしい女性で「わんわん泣いて、なんでもかんでも洗いざらいしゃべりたくなる」そんな母親のようなタイプでした。
     
    しおりの仕事は眠れない人たちに「添い寝」をしてあげること。肉体的な接触は一切ナシ。本当にただ添い寝をするだけ。
    深夜に目を覚ましてしまうお客さんに、安心できるように微笑んであげる。
    ちょっと変わった、でもしおりにぴったりの仕事をしていました。
     
    作中に、寺子がしおりの家を夜遅く訪ねた過去を思い出すシーンがあります。
    しおりから「彼のことで悩んでるの?」と質問され、思わず「待ちくたびれただけ」と本音がこぼれそうになる寺子。
    何よりびっくりしたのは寺子自身。自分でも気づかない、気づかないふりをしていた、見ないようにしていた本音をふいに引っ張り出されたような感覚だったはず。
    帰りしな「元気でた?」とたずねられ、ようやく寺子は「なぜか、なったわ」と少しだけ本音をこぼします。
     
    物理的な「添い寝」こそなかったけれど、しおりと一緒にいることで寺子は「添い寝」効果をもらっていたのでしょうね。
    眠ったままとはいえ、恋人は妻のいる男性。ハタから見れば「不倫」という関係で弱音も吐きづらい…終わりも先も見えない関係に疲れた寺子をしおりは癒していたのかも。
     
    とあるキッカケにより寺子は凶悪な眠りから覚め、彼との生き生きとした恋を取り戻したい思うように。希望を胸に恋人の隣に立つ寺子の姿には勇気をもらえるはずです。
     
     
    『ある体験』
     
    <あらすじ>
    主人公の「文」は毎晩お酒を飲むようになり、増えつづける酒量に少しばかり罪悪感を覚えていました。
    ぐでんぐでんに酩酊した状態でベッドに入るとどこからともなく聞こえてくる心地の良いメロディ。
    文はその音色をかつて好きな男を取り合った女性「春」によるものではないかと考えるようになります。
    すでに春が亡くなっていたことを知った文は、恋人の水男に勧められ、死んだ人と会わせてくれる力を持つ男に会いに行きます。
     
     
    ・キャットファイトから生まれた奇妙な友情
     
    文と春は好きになった男を取り合ったライバル関係でした。
    同じ時期に同じ男を好きになり、男の部屋で何度もはち合わせ。
    春は文の料理の腕を。文は春のファッションを。お互いにののしり合いながら三角関係を続けるうちに、2人の間には奇妙な友情のようなものがうまれていきます。
     
    もうこの恋も終わろうかという頃。
    帰ってこない男を、男の部屋で2人きりで待ちながら、文と春は今までがウソのように友人のような言葉をかわします。
    外はざあざあ雨が降り、雷が鳴る悪天候。「無事に帰ってこられるだろうか」と男の身を案じながら、春が雷嫌いであることを知ります。
    2人がお互いを本気で嫌っていなかったと分かる印象的なシーンでした。
    男のことがなければ出会えなかったけれど、男がいなかったら仲の良い友人になれたのかな…。
    そして春には文が、文には春がいたからこそ続いた男への恋だったんじゃないかな。なんとも微妙なバランスの関係。
     
    文がお酒を毎日飲んでいたのも、きっと春の声を聴きたかったから。そうと気付かないうちから、きっと春の呼びかけだと分かっていたんでしょうね。
    みごと春との「再会」を果たしたあとの文は、恋人の水男に「お酒の量が減るかもしれない」と打ち明けています。
    出会い方は最悪ですが、なんだかちょっと憧れてしまう。不思議な友情でした。
     
     
    ハッピーエンド!ではないけれど、前向きになれる
     
    今回取り上げなかった『夜と夜の旅人』は亡き兄の恋人だった女性2人の人生を、妹の視点から描いています。
    3作品とも、パっと目の前が明るく開けるというよりは、暗くもやがかって先の見えない道路にぼんやりと浮かぶ街灯を見つけたような、淡い期待を抱かせるお話です。
    これから、彼女たちはしっかり前を見て歩き出せるんだろうな。
    そう思うと読んでいる私まで元気をもらえました。
     
    雨の日や夜など静かな音の少ない場所で読みたくなる小説です。
    短編集なのでページ数も多すぎず、読みやすいのも魅力。そしてとても重量感があります。
    しんみりした気分にひたりたいとき、ちょっと元気をもらいたいとき、手に取ってみてくださいね。