TOP > イククルコラム > 《ヒモノ図書館員の恋愛強化書》ニセモノ家族の絆『at Home』

《ヒモノ図書館員の恋愛強化書》ニセモノ家族の絆『at Home』

  • 2015年09月18日  猫元 わかば  



    今回ご紹介するのはつらい過去を背負いつつ、明るく楽しく前向きに生きる「家族」のお話。「家族」の条件とはいったい何でしょうか。血のつながり?いえいえ血はつながっていなくても、すてきな「家族」になれるんです!
     
     
    今回ご紹介するのは本多孝好さんの『at Home』です。
    竹野内豊さん、松雪泰子さんがキャスティングされた映画が2015年8月よりスタートしています。
    原作の小説は本のタイトルにもなっている「at Home」、ほかに「日曜日のヤドカリ」、「リバイバル」、「共犯者たち」4本の短編が収録されています。
    いずれもちょっと変わった家族の形をテーマにしたストーリー。
    その中から「at Home」と個人的にとても好みのお話だった「リバイバル」を取り上げたいと思います。
     
     
    ●「at Home」
     
    <あらすじ>
    両親と妹、弟に囲まれ、家族5人、楽しく暮らしている淳。
    淳は「妹」の明日香を高校へ進学させるため、まとまったお金が必要だと「父さん」に相談を持ち掛けます。
    ある日「母さん」は資金作りのため自分にほれ込んでいる男性を「事業に失敗して借金を背負ってしまった」と騙してお金を得ようと計画を立て、いそいそと出かけていきました。
    ところが深夜を過ぎても連絡がなく、家に帰ってきません。
    いつもは終電が終わる前に家に帰ってくる「母さん」の身を家族は案じはじめます。
     
    ・個性的なキャラクターが集まった家族
    何の知識もないまま読み始めて早々。頭が「?」でいっぱいになりました。
    「パチンコ屋のオーナーだとかいう家の和室にかかってた」という掛け軸を持って帰ってくる「父さん」。
    旦那の前でいま付き合っている男性の話をする「母さん」。
    それを気にする風でもなく、楽しそうに話に乗っかる子どもたち。
     
    混乱しつつページをめくりつづけ、ようやく納得。
    この家族、血のつながらないニセモノの家族なのです。
    しかも父・母は窃盗や詐欺に手を染めている、言ってしまえば犯罪者。
    主人公の淳も表向き印刷所につとめていますが、裏ではパスポートの偽造を手掛けています。
    虐待やDVなどそれぞれがつらく悲しい過去を背負っている5人。
    寄せ集めでできた「家族」ではありますが、5人で食卓を囲んでいるシーンは本当に楽しそうで、「いい家族」にしか見えません。
    会話の内容は物騒ですけれど。
     
    ・将来性がありすぎて怖い!小学6年生の弟
    家族が巻き込まれる事件も気になるのですが、≪恋愛強化書≫的に注目したいのは、淳の「弟」である隆史くんについて。
    この隆史くん、小学6年生ながらものすごいリア充っぷり。
    淳に「彼女がいるのか?」と尋ねられ、「うん、いるよー」とあっけらかんと答えます。
    ま、まあね、今どきの子はマセてるからね。彼女ぐらいいるよね…!
    と若干の動揺を覚えつつも読み進めると、どうやらチューも経験済み。
    しかも複数カノジョがいるもよう。
     
    隆史くんいわく「だって、彼女でしょ?チューくらいしてあげなきゃ、ほかの女の子と区別がつかないでしょ?」
    「好きだよって言っても納得しない。キスしてあげるとようやく安心するんだよね」
    「学校なんて週1ぐらいでいいと思うんだけど。会いたいってうるさいから、我慢して、週に3日は行くようにしている」
     
    どうですかみなさん。
    小学6年生にしてこのセリフですよ。
    やばいこの子 女たらしになる。しかもタチ悪いやつ。
    ていうかすでにタチ悪いわ。
     
    家でゲームばっかりやっている隆史くんですが、頭いいだろうし、きっとモテるんだろうなという雰囲気がセリフや行動ににじみ出ています。
    将来が楽しみなような、怖いような。すさまじいキャパシティを感じる男の子です。
    お姉ちゃん、キミのお姉ちゃんの2倍ぐらい生きてるけど、ちょっとときめいちゃったよ。
     
     
     
    ●「リバイバル」
     
    <あらすじ>
    息子の教育費を工面するため、闇金に手を出した主人公は、居酒屋のアルバイトをしながら借金の返済をして過ごす日々を送っていました。
    ある日、お金の回収をしにくる「やくざ」の矢島から借金返済の代わりにある女性と結婚してもらう、と言い渡されます。
    紹介されたのは日本語の分からない、妊娠している外国の女性。
    「うまれる子供を主人公の子供ということにしたい」「1年後には別れていい」
    突きつけられる条件に戸惑いながらも、主人公は会ったばかりの女性と結婚生活を始めることになります。
     
    ・言葉の通じない若い妻との生活は…?
    息子の死をきっかけに離婚し、長いこと一人暮らしをしていた主人公。齢にして53。私のストライクゾーン!(聞いてない)
    言葉が通じず、自分の家に他人がいる煩わしさにイライラしていた主人公ですが、次第に女性との距離が縮まっていきます。
    言葉は通じないのに、お互いのいうことが何となく伝わっている。
    身振り手振りでコミュニケーションを取ろうとする主人公は何だかかわいいオジサマです。
     
    最初のそっけない態度がウソのように、主人公はふくらむおなかに不安を感じる女性を慰めたり、女性を連れて行こうとする「やくざ」になりふり構わず立ち向かったりと思いやりを見せます。
    顔から血を流しながらも「子供がいるんだ」「乱暴にするな」と女性を守ろうとする主人公。
    別れ際に「私も子供も大丈夫だよ」とでも言うように女性が笑顔で主人公の手を自分のおなかに触れさせるシーンには思わず涙ぐんでしまいました。
     
    恋愛関係も肉体関係も結ばない、最後まで言葉が通じない、他人というスタンスを保っているのがまた良い。
    主人公と女性のやりとりがじんわりと胸にせまるできるお話です。
     
     
    ●家族っていいなあ!と思えるストーリー
     
    どのお話にもつらい過去を背負ったキャラクターが登場しますが、いずれもハッピーエンドや明るい未来を想像させる終わり方になっています。
    離婚とか浮気とか、そういうダウナ〜な感じの小説ばかり読んでいて「つかれた!」というときの清涼剤になるかも。
    ライトな文体にくわえて短編集ということもあり、とても読みやすい1冊でした。