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《ヒモノ図書館員の恋愛強化書》ワガママさも魅力?『蜜のあはれ』

  • 2015年09月25日  猫元 わかば  



    「男性に甘えたい!」という女性は多いはず。もちろんやり過ぎは厳禁ですが、ちょっとぐらいワガママなほうが男性には受けるのかも!?今回は作者の理想をつめこんだ女性キャラクターが登場する作品をご紹介します。
     
     
    今回ご紹介するのは室生犀星の『蜜のあはれ』です。
    室生犀星は大正時代に活躍した詩人・小説家。
    いままで取り上げてきた小説はどちらかというと大衆小説などのライトな感じだったのですが、今回は雰囲気がガラッと変わって<THE 文学>な作家の作品になります。
     
    なんとこの作品の映画化が決定し、2016年に公開予定とのこと。
    ニュースを読んだとき「これは私が好きなタイプの作品にちがいない!」とビビビっと来てしまいました。
    もともと興味のある作家さんでしたので、これはいい機会と喜び勇んで本を探しにでかけた次第です。
     
     
    ●蜜のあはれ あらすじ
     
    老作家・上山はうまれて3年目になる真っ赤な金魚と暮らしています。
    金魚の名前は赤井赤子。
    赤子は金魚でありながら、人の姿に変化することができる不思議な金魚です。
    水から上がると17歳ぐらいの美しい少女の姿となって、上山と1日をともに過ごします。
    上山を「おじさま、おじさま」と呼び慕い、寄り添い続ける赤子。
    自由奔放な美しい金魚にふりまわされる老作家。
    そんな2人のちょっと不思議な2人のお話です。
     
     
     
    ●ヒロインはお金にガメつい金魚!?
     
    赤子は口癖のように上山に「お金、お金」とねだります。
    上山が使っている金歯を「おじさまがお亡くなりになったら、それで耳輪と指環とをこさえるの」といってみたり、他の女性に甘い顔を見せた上山センセイに嫉妬してサイフを取り上げてしまったり。
    センセイに恋人になるように迫ったかと思えば「毎月小遣いどれぐらいもらえるの。少なくとも5万円はいただかなきゃ」といったり(この当時の5万は相当な額だと思うのですよ!)
    赤子はまったく悪びれず「もらってあたりまえ」な態度。
    読んでいてあまり気分のいいものではないのですが、上山はいわれるままホイホイお金をあげてしまいます。
     
    “デートは男がおごって当たり前でしょ?”な女子が男子からうとまれる現代の感覚では、ちょっとびっくりですが、上山センセイはオジイチャンといってもいい年齢。
    孫相手におこづかいをあげている気分なのでしょうかね。
     
    上山が「無理だ」というと引いてみせるところを見ると、お金をむしり取りたいわけではないもよう。
    2人にとって「お金」のやりとりは、口遊びのようなものなのかもしれません。
    どこまでワガママ言っても許されるのか、どんなワガママを言ってくるのかお互いに楽しんでいるような気さえします。
     
     
    ●ちょっとぐらいワガママな方が受ける!?
     
    金魚の赤子は<犀星の理想の女性像の結晶>といわれているようです。
    赤子は憎たらしく、生意気でワガママなところが多いのですが、同じくらい健気でかわいげがある。
    上山センセイに何かしてもらったり、買ってもらった時は「うれしい」「ありがとう」と思いっきりハシャぐんですよね。
    「調子がいいやつだなあ」と思いつつ、読みながら私も「かわいいやつめ」と気づけば赤子にデレデレしていました。
     
    やっぱり男性は、ちょっと強引でわがままなところがある女性が好きなのでしょうか。
    くるくる変わる表情も、この手の小説に登場する女性の特徴として描かれることが多い。
    拗ねてみせたかと思えば、次の瞬間にはキゲンがよくなっていたりね。
    気分の浮き沈みが激しい女性は敬遠されがちですが、程度を誤らなければ“女性の魅力”として認識されるのかも。
     
    あとは、ある程度自分に自信があることも男性から見たイイ女の条件といえそう。
    自信はなくても、自分の容姿や魅力をちゃんと理解していることはキーポイントのようです。
    「金魚を見て怒る人も憎む人もいないわ、金魚は愛されているだけなのよ」
    という赤子のセリフにもその辺りが表れている気がします。
    しかし、こんなセリフはなかなか言えるもんじゃないです。
    若くてかわいい女子には似合いますが、「愛されているだけなのよ」なんて私が言ったらただの勘違いしたイタイ女ですからね!
     
     
    ●セリフのみで伝える挑戦的な作品
     
    この小説、セリフのみで構成されています。
    犀星自身によるあとがき『炎の金魚』には「会話とか対話で物語を終始したことは(中略)今回が初めての試み」
    「たとえ失敗に終わっても生涯に一度くらい失敗したってよいという度胸を決めてしまったのである」
    と書かれてあり、犀星にとっても挑戦的な作品だったようです。
    セリフのみでも表情やしぐさがありありと思い浮かぶのは、さすが!の一言。
     
    また古い時代の作品に登場する女性のしゃべりかたが良いんですよね。
    「何をしておいでなの?」とか「お判りになる?」とか。
    品もあって色気もあって、どこかいじらしくて本当にステキ。
    子供っぽく拗ねたときの破壊力は絶大です。
     
    谷崎潤一郎の『痴人の愛』が好きな人はハマるのではないでしょうか。
    耽美な雰囲気をたのしみたい人におすすめしたい小説です。