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《ヒモノ図書館員の恋愛強化書》主夫な旦那が欲しくなる?『ギリギリ』

  • 2015年12月25日  猫元 わかば  



    仕事から帰ってきたとき「おかえり」と迎えてくれる男性がいたら…。しかもテーブルには美味しそうな夕食。部屋はぴかぴか。マッサージまでしてくれる。今回ご紹介する小説はそんな男性と再婚した女性が登場します。
     
     
    今回は原田ひ香さんの『ギリギリ』をご紹介します。
    2015年の9月に発売された、割とできたてホヤホヤな本作。
    メインとなる登場人物は現状「無職」なシナリオライターの卵、仕事にはげむバリバリのキャリアウーマン、息子と夫を亡くした年配の女性の3人。
    再婚した夫婦と、亡くなった元旦那の母親が登場すると聞いて、「どれだけ複雑な関係なんだ!ドロドロの愛憎劇か!?」とワクワクしながら手に取ってみました。
    意外や意外、わたしの予想は良い意味で裏切られました。
     
    作中にはキーとなる2人の男性が登場します。
    安定した収入はないけれど家事能力が高く生活のサポートをしてくれるシナリオライター志望の「健ちゃん」と、人当たりもよく有名企業につとめていたが過労死でなくなった一朗太。
    正反対の男性2人の間で揺れ動く女性の想いが描かれています。
     
     
    ■『ギリギリ』あらすじ
     
    シナリオライターを志す健児は同窓会で再会した瞳と結婚し、彼女が元夫と買ったマンションに住んでいます。
    瞳は元夫を過労で亡くしており、何かと瞳のもとへ電話をしてくる義理の母親・静江とは距離を置きたいと思っていました。
    ところが健児は静江と仲が良く、瞳は複雑な心境。
    なかなかシナリオライターとして芽が出なかった健児は家事を引き受け、瞳のサポートをしていましたが、静江から聞いた戦時中の話を元にした脚本が成功をおさめ、生活は一転。
    脚本家として多忙な生活を送るようになった健児と元から仕事の忙しい瞳はすれ違うことが多くなり、2人の距離はどんどん開き始めていきます。
     
     
    ■かゆいところに手が届くスーパー主夫「健ちゃん」
     
    この物語には重要なキャラクターとして2人の男性が登場します。
    1人目は瞳の再婚相手の健児こと「健ちゃん」。
    学生時代に同級生だった2人は同窓会での再会をきっかけに同居生活を始めます。
     
    健ちゃんは最初シナリオライターになるべく上京した、ただの居候でした。
    健児自身もその意識が強く、なるべく「男女」を意識しないよう生活を送っていました。
    さきに健ちゃんを手放せなくなったのは瞳の方です。
    なぜなら健ちゃんはビックリするぐらい家事能力が高い!
    くたくたになって帰った家には電気がついて部屋中ぴかぴかでごはんも出てくる。ちゃんと干された布団は毎日ふかふか。脱ぎ捨てた服も洗濯してくれる。
    温かい飲み物や夜食もつくってくれる。なんという主夫っぷりでしょうか。
    そりゃ夜遅くまで働くキャリアウーマンの瞳は手放したくもなります。
    それ以上に、旦那を亡くしたばかりの瞳にとって、「家に帰ると誰かがいる」「独りではない」という現実は、何より救いだったんじゃないかなあ。
     
    ところが引け目を感じている健ちゃんは、そうそうに同居先を見つけてきます。
    何とかアラを探して引き留めようとしますが、男性クリエイターがルームシェアをしているという物件を持ってきたとき、これは完敗だとついに白旗。
    なぜなら健ちゃんの大好きな猫がいるというのです。
    猫アレルギーの瞳は猫を飼えない。
    どうしよう…と考えた瞳は、はじめて自分が「女」であることを利用しました。
    それが余計に彼女の寂しさを浮き彫りにするようで、読んでいて悲しくなりました。
     
     
    ■元旦那は就職先よし!人当たりよし!のハイスペック男子
     
    もう1人は瞳の元夫、一朗太。瞳が「健ちゃんと一朗太と正反対だ」と称するぐらい、真逆の立ち位置にいる男性です。
    両親が健在で(健ちゃんの両親は離婚している)、友達がたくさんいて、有名な大学を卒業して有名企業に就職して…。
    主夫業にはげんでいる健児とはまるで別世界の人間。
     
    瞳と一朗太の出会いは合コンでした。
    大手商社の男性がそろう合コンに、女性陣は大盛り上がり。
    しかしフタを開けてみれば男性は仕事で遅れて3人、女性は5人。しかも男性陣は合コン慣れしていて、とてもに恋愛に発展しないという予感のある奇妙な合コンだったと瞳は回想しています。(そんな気配を感じ取れるのか…!)
    そこに遅れて現れたのが、一朗太。
    「野郎より美人が多い。こんな恵まれた合コン、久しぶり」「うちの会社じゃないけど、独身のやつ呼んでいい?」なんて、ささっと足りない人数を埋めてしまう。
    おかげで今までの合コンがウソだったように盛り上がったのだとか。
     
    そんな彼に「この人についていけば絶対に不安な気持ちにならない」と瞳は安心感を覚え、結婚。
    ところが一朗太の死後に、浮気が発覚します。
    そのせいもあるのか瞳が一朗太といて幸せそうな描写は少ない。
    出張帰りの彼のためにとおにぎりとおかずを作って出したら「面倒なの。食べるのが」と怒られたりね。
    でも何かと「健ちゃんは一朗太と違う」「反対だ」と比べてしまう瞳は、やっぱり一朗太のことが大好きなんだろうなあ…。
     
    私はダンゼン健ちゃん派ですけれども。猫好きだし。料理のできる男の人好きだし。
    一緒に料理するのとか、ちょっとあこがれますよね。
     
     
    ■複雑な人物像を味わえる小説
     
    この小説が面白いのは、健児・瞳・静江それぞれが主役となって語られる話があることです。
    そのキャラクターの独白を読んだ時と、他の人間視点から見た時とで、ずいぶん印象が違う。
    例えば、瞳から見ると健児は静江に「嬉々として」関わっている優しい男性のようにみえるけれど、健児自身は「僕が静江さんに優しくできるのは、彼女になんの責任もないからだ」と意外にドライ。
    読み比べると認識に意外なズレがあったりして人物像がガラっと変わります。
    瞳視点で見るとにこにこ穏やかで草食系っぽい健児ですが、実際は意外と計算高そう。
     
    結局、いつまでも一朗太のことを引きずっていると気づいた瞳は健児に別れを切り出します。
    1人できちんと考え直したい。そのためにいったんリセットされる関係。
    でもあまり悲壮な感じがしないのは、作者のサジ加減が絶妙だからかもしれません。
    それぞれが一歩踏み出すための「別れ」を描いた、切ないけれど前向きになれるスッキリ読めるお話でした。