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《ヒモノ図書館員の恋愛強化書》元カレは殺し屋!?『眠りなき狙撃者』

  • 2016年02月12日  猫元 わかば  



    キケンなにおいのする男性は魅力的なもの。ミステリアスで近付きがたい彼とハラハラドキドキの大恋愛を夢見た女子もいるはず。今回紹介する小説の主人公はそんな女子にピッタリ。う〜ん、でも恋人にするにはキケンすぎ…? 
     
     
    今回ご紹介するのはジャン=パトリック・マンシェット著、中条省平訳の『眠りなき狙撃者』です。
    こちらは2016年2月6日より公開がスタートした映画『ザ・ガンマン』の原作本になります。
    私はスパイものとかハードボイルドとか大好きなので、この映画も公開が楽しみで仕方ありませんでした。(主人公もナイスミドルのおじさまですし)
    せっかくなので公開前に原作も読んでみよう!と思ったのが本著を手に取ったきっかけです。
    ハードボイルドやスパイものは、男性が主軸。
    銃と裏切りと金が幅をきかせる「女はいらん!」と言わんばかりの世界です。
    しかーし!なんだかんだ言いつつも女性の存在は欠かせないのです。
    想いを寄せる女性や恋人を人質に取られたり、ターゲットの恋人にうっかり惚れちゃったり、偶然出会った女性を巻き込んでしまったり…さりげなく男女の出会いやラブストーリーが織り込まれています。
    『眠りなき狙撃者』にも主人公が長年想いを募らせていた女性が登場し、主人公の原動力になっています。
     
     
    ■『眠りなき狙撃者』あらすじ
     
    マルタン・テリエは「クリスチャン」という名で殺しを請け負いながら生計を立てていました。
    30歳を前に引退を決意。組織にその旨を告げますが、それからというものマルタンの身の回りで不振なことが起こり始めます。
    部屋を荒らされ、飼っていた猫は盗まれ、故郷の町へ戻る道中には尾行される。
    マルタンが尾行していた男を締め上げると、男は「ロッシという男がやったと言えと言われた」と白状しました。
    ロッシはマルタンが駆け出しの頃に手をかけた男の名前。
    これを皮切りに、組織やかつてマルタンが手をかけた者の仲間、仇敵…さまざまな魔の手がマルタンに迫ります。
     
     
    ■意外と一途!?な殺し屋
     
    マルタンは殺し屋稼業の引退を決意すると、現在付き合っている恋人・アレックスに別れを切り出します。
    「やっぱり引退しても恨みとかあるし、巻き込みたくないのかな?」と思っていたのですがそうではなく、昔恋人関係にあった女性を迎えに行くためだったのです。
    女性の名前はアンヌ・フルー。ちなみに現在は既婚者(マルタンも分かっている)。夫も友人で、町に帰ってきたと電話をすると食事に誘われます。
    そしてマルタンは、食事の席で「ここに来たのはアンヌを連れて行くためだ」と宣言するのです。
     
    夫の前で略奪宣言するほどマルタンが愛していたアンヌ。
    2人の出会いは高校生のころまでさかのぼります。
    ブルジョアな生徒であふれる校内でマドンナ的存在だった彼女にマルタンもぞっこん。
    貧しい家庭に生まれたマルタンには高根の花です。
    しかし高校に通いながら仕事をし、通信教育でボディビルをはじめたのがよかったのか「あなたは他の男の子と違うわ」(確かに)というお決まりの展開で、見事アンヌのハートを射止めます。
     
    でもやっぱり身分の違いは大きな壁。
    アンヌの家に招かれたとき「お前みたいな低所得者層に娘をやれるか!」とさっそく父親に嫌われてしまうのです。
    マルタンが18歳のとき、なにくそ精神で軍隊に入ることを決め「10年我慢してくれ」とアンヌと約束し町を出ます。
    つまり10年越しの約束を果たしに来たわけですね。アンヌが結婚していることを知ったうえで。
    結婚した時点で約束やぶられてるじゃん、とツッコミたくて仕方がないのですがマルタンにとってはどこふく風なのでしょうか。
     
    仕事で世界中を飛び回りながらアンヌに絵葉書を送っていたようで、それもしっかり夫にバレていました。
    一途ですけど、高校→軍隊→殺し屋という特殊な環境に居たせいで、ちょっとズレているというか、こじらせ男子になってしまったのかも。
     
     
    ■もしかして女運がない!?殺し屋
     
    作中アンヌは抗争に巻き込まれ、夫を亡くしてしまいます。
    マルタンに「警察に駆け込んで助けを求めろ」と言われるも首を縦に振らず、一緒に逃げることを決意します。
    その後も追手から逃げたり、身を隠していた「隠れ家」を突き止められ組織に拉致されたり散々な目にあいますが、晴れてマルタンと共に自由の身に。
    新しい名前や身分をもらって、マルタンと2人ようやく幸せな生活を送るのか〜ハッピーエンドだな〜!と思った私は甘かった。
    アンヌ、マルタンの元から姿を消します。
     
    追われ、身を隠す波乱の生活から一転した生活に飽きてしまったのだとか。
    刺激的すぎる生活からふつうの生活に戻ってよろこぶどころか物足りなさを感じてしまう…わかるような、わからないような。
    まあ、マルタン絡みで夫を亡くしたのに、マルタンについて行くことを選んだぐらいですから、もともと刺激を求めるタイプなのでしょう。
    今ごろ新しい出会いと冒険を求めて世界のどこかを旅しているかもしれません。
     
    アレックスはアレックスで別れ話を切り出されて包丁を持ち出すし。
    マルタンは銃の扱いや仕事での機転はきくけれども、女性関係は見る目も扱いもからっきしみたいです。
    でも、もしかしたら殺し屋を続けていたらアンヌとの関係は現在進行形だったのかしら。なんとも皮肉な話です…。
     
     
    ■<男のロマン>がぎゅっと詰まった1冊!?
     
    淡々として、ぶっきらぼうにすら思える文章が男臭く、ストーリーとすごくマッチしていました。
    シビアな世界の中で女性関係は不得手そうだったり、猫に「スーダン」と名前をつけて可愛がっていたりするマルタンの意外な一面が目を引きます。
    猫には優しい声で語りかけるマルタン。猫好きというだけで私の中ではポイント高い。
     
    「マンシェットの最高傑作」といわれるだけあって、オチも含めて私はとても楽しめました。恋愛小説のような甘い展開はなく、人を選ぶ内容ではありますが手に取って損のない1冊のはず。
    車や銃、お酒など男性がときめきそうな要素が凝縮されているので、いわゆる「男のロマン」を知る手がかりの1つとして読んでみるのもアリかもしれませんよ。