TOP > イククルコラム > 《ヒモノ図書館員の恋愛強化書》太宰のエンタメ小説『命売ります』

《ヒモノ図書館員の恋愛強化書》太宰のエンタメ小説『命売ります』

  • 2015年10月30日  猫元 わかば  



    とっつきにくいイメージのある文学作品。ですが、中には今読んでも新しい、いや今だからこそかえって新しく感じられる作品もたくさんあるんです。今回は太宰治が手がけた<極上のエンタテイメント小説>をご紹介します。
     
     
    今回ご紹介するのは太宰治の『命売ります』です。
    なぜいまさら太宰治を?と思われるかもしれませんが、いまちまたではちょっとした話題の小説なんです。
    朝日新聞にも取り上げられ、さらに注目度が上がった小説ですが、実際に読み終えた人たちからも「新しい!」「現代っぽい!」と大変好評のよう。
    帯には<極上のエンタメ小説>という気になる文言が!
    「太宰治でエンタメ?」「“新しい”ってどういうことだ?」と思いながら私も手に取ってみました。
     
    物語は主人公が自殺に失敗したところから始まります。
    出会いあり、スリリングあり、ファンタジーっぽさもあり。
    出てくるエピソードが本当に今っぽく、主人公の考え方もイマドキの若者らしくて時勢ともぴったり。
    エンタメ小説でありながら、ちゃんと<文学>している。
    めまぐるしく展開するストーリーはまさに「極上のエンタメ小説」なのです。
     
     
    ●『命売ります』あらすじ
     
    広告会社に勤めていた羽仁男(はにお)は、ある日突然生きていることがバカらしくなり自殺を考えます。
    睡眠薬を大量に飲むも自殺は失敗。
    元の生活に戻る気も起きず仕事を辞め、新聞に「命売ります」という広告を出しました。
    妻への復讐、毒薬の実験体…次々と羽仁男の命を買いたいと申し出る者が現れ、羽仁男は様々な事件に巻き込まれていきます。
     
     
    ●魅力的な女性たちとの出会いと別れ
     
    「命売ります。お好きな目的にお使いください。当方、27歳男子」
    こんな新聞広告を打った羽仁男の元には、アヤシイ依頼が飛び込んできます。
    特に印象強かったのが自分の母親は吸血鬼だという高校生と、自分と一緒に死んでくれる男性を探しているアラサー女性です。
     
    まずは高校生男子の・薫くん。
    なんでも「未亡人の母親は吸血鬼で、男の人と恋仲になっても吸血をガマンできず最終的に逃げられてしまう。いま失恋して床についているから相手をしてほしい」とのこと。
    つまり「お母さん(吸血鬼)がおなかを空かせているからエサになって!」ってことですね。
     
    羽仁男は母親に見事に気に入られ、夫として暮らすようになります。
    とにかく母親が幸せそうで…貧血でフラフラの羽仁男をかいがいしく世話するし、
    薫くんも、母親が楽しそうに家事をするまでに回復したものだから「いい買い物しちゃった」なんて大満足の様子。
    血を吸い吸われるというアンダーグラウンドな関係なのに、同時に理想的な温かい家族団らんが目の前に広がっているちぐはぐな感じがたまりません!
    見どころは母親が羽仁男の血を吸うシーン。色気ダダ漏れっぷりをぜひご堪能ください。
     
    もう1人は30女の玲子。
    「自分は梅毒で、いつか気が狂ってしまう」と信じて奔放な生活を送っています。
    たまたま訪れた不動産屋で出会い、部屋を貸したい玲子と引っ越しを考えていた羽仁男の需要と供給が一致。
    さっそく玲子に連れられ、引っ越し先へと向かいます。
     
    羽仁男が借りた部屋に玲子も住みつくようになり、2人は次第に夫婦のように。
    実は玲子、自分が病気であることを大変気に病んでいて、自分の病気をうつしても問題ない、一緒に死んでくれる男性を探していたんですね。
    2人で映画へ行ったり散歩したり、羽仁男のおかげで玲子はずいぶん前向きになって「元気な男の子を産んで〜オモチャを買ってあげて〜犬を飼って〜」と結婚生活を空想するようになります。
    本当の自分らしさを取り戻した玲子を「愛や恋の力って偉大だわ〜」と微笑ましく思っていたのですが…羽仁男は玲子の想像するありきたりな結婚生活を送るつもりはサラサラなし!
    玲子の元から逃げようとしますが、彼女の純情のせいでトンでもない目に会うのでした…。
     
     
    ●イマドキの男子っぽさが魅力の羽仁男
     
    命を買うためにやってくる人は口をそろえて「本当に死ぬよ?いいの?」と念を押しますが羽仁男はどこ吹く風。
    1度は捨てた命ですから、どうなろうが知ったこっちゃないわけです。
     
    死と隣り合わせの危険な依頼の数々を、羽仁男は難なくこなします。
    そしてケッコーな金額を稼ぐと「命売ります業」もメンドーになってしまう。
    「結婚したくねー働きたくねー有り金を使いきって、どうしようもなくなったら自殺すればよくね?でも自殺も面倒だな…」と考えるように。
    命を絶とうとした原因も、失恋したからとか、お金に困ったとか、イジメにあったとか大きな事件があるわけでもない。
    突然「世間」というものに飽きて「もういいや」となってしまったわけですよ。
     
    また刑事から「まともな人間というのはみな、家庭をもち、せいいっぱい女房子を養うもの」と諭された羽仁男は「あなたは人間はみんな住所をもち、妻子を持ち、職業を持たなければいけないというんですか」と食ってかかります。
    刑事の答えは「俺じゃない、世間が言うのさ」。
    もう何十年と前に書かれたとは思えない、現代の人々も共感できるポイントではないでしょうか。
    いま「面白い!」と読者に受けている理由も納得でした。
     
     
    ●ニガテ意識のある人にこそ読んでほしい1冊
     
    「太宰治って暗くて読みにくいんでしょ?」と身構えたアナタ。とんでもありません。
    太宰らしさも残しつつ、軽めの文章で読みやすい。そこそこ長さはありますが、スピードのある展開のおかげで飽きることなく読み進められます。
    登場する女性も、セクシーだったり母性的だったり、スレているようで実は純情だったり…と文学的な色っぽさ満載のキャラクターばかり。
    文学作品には、男性の理想をこれでもか!と詰め込んだような女性が登場します。
    「男性はこんな女性が好きなのか〜」と参考・研究すれば女性らしさに磨きがかかるかもしれませんよ!?