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《ヒモノ図書館員の恋愛強化書》女が女の性愛を描いた話題作!『花芯』

  • 2016年04月08日  猫元 わかば  



    作家としても有名な瀬戸内寂聴さん。彼女が「子宮作家」とレッテルを貼られ、筆を置かなければならない時期があったことをご存知でしょうか。時代は1950年。文壇をさわがせた話題の小説は女性の性愛がテーマでした。
     
     
    今回は瀬戸内寂聴さんの『花芯』をご紹介します。
    本作は瀬戸内晴美という名前で活動していたころの作品。
    女性の手によって書かれた女性の性愛がテーマの作品で、発表された1957年当時、文壇からは「必要以上に子宮という言葉が使われている」という、なんとも偏見に満ちた評価を下されたそうです。
    そして寂聴さんには「子宮作家」なんてレッテルが貼られたのだとか…。
    ちなみにタイトルの『花芯』は中国語で子宮を意味するそうです。
     
    時を経て2016年。
    映画化が決定し、ついに8月から公開がスタート。
    批評家にそこまで言わしめるとは、いったいどんな作品なのかと手に取ってみました。
     
     
    ■『花芯』あらすじ
     
    子どもの頃から付き合いがあり、親に「許嫁」と決められた男性・雨宮と結婚した園子。
    子どもも産まれ、優しく頼もしい夫と結婚生活を送っていました。
    ところが雨宮の仕事の関係で東京から京都へ家族そろって移住することになります。
    不慣れな地にやってきた若夫婦のために、住むところなどいろいろと世話を焼いてくれたのが、雨宮の上司である越智。
    園子は越智に何か通ずるものを感じ、一目で恋に落ちてしまいます。
    初めて恋を知った園子は夫を拒み、次第に越智への恋にのめり込み始めます。
     
     
    ■ちょっと痛いけどハイスペックな旦那さん
     
    許嫁からの夫という優位な立場でありながら、あまり良い見せ場のない雨宮さん。
    2人が「許嫁」になったのは小学生のころ。
    高校へ入る前に園子の家に引き取られたため、雨宮と園子の間にロマンチックな出会いやエピソードはありません。
    そして園子視点で語られる雨宮像が、あまりいいものではない。
    自分勝手な園子像を作り上げ、盲信し、園子の一挙手一投足に処女性を(勝手に)見出しては感動に打ち震えている、痛いことこの上ない勘違い男子になってしまっています。
    まあ、園子に対して「つつましやかで、おっとりして、何よりも第一に清純そのもので、年より少しおくれているかわいい少女」なんて願望を押し付けている時点で十分にイタイのですが…。
    実際は全くそんなことなく、園子の生活は高校の先生や不良少年と付き合い、父親のオメカケさんから紹介された男の芸者に囲まれた華やかなものでした。
     
     
    同じ家で兄弟のように育ち、付き合いが長いせいもあり園子は雨宮を特別に意識はしていなかったようです。しかし雨宮は違います。
    同じ家に住むようになってから毎日レターペーター5、6枚分のラブレターを書くなど、かなり園子に熱を上げている様子。
    この頃からすでに、園子と雨宮はすれ違っていたわけです。
     
    作中では良いとこナシの雨宮さんですが、なかなか旦那さんとしてはポイント高い男性だと思います。
    ・まず顔がいい(小さい頃から美少年であったと園子も認めている)。
    ・とにかく園子ひとすじ。童貞も捧げた(人によっては重いかも?)
    ・きちんと就職もした(おそらく有名企業)。
    ・夫婦間で論争のタネになる「母親との同居」問題を、「園子と自分の母親はソリが合わないだろう」と考えて1人で母親に話をつけて別居送金することにした。
    などなど。特に4つ目は読んでいて「やるじゃん!」と膝を打ったポイントでした。
    やる時にはやる男なんですよ、雨宮さんは。
     
    現に園子も「頼もしい申し分ない夫に相違なかった」といっています。
    雨宮さんは本当に園子にゾッコンで、そんな彼に越智への恋心と同じような気持ちを向けられない自分自身に園子が悩むシーンもありました。
    ちょっと押しつけがましい所もありますが、家族のため愛する妻のために身を粉にして頑張れる、すてきな旦那さんではあるようです。
     
     
    ■結婚し、子供に恵まれたあとに訪れた初恋!?
     
    そんな「良い夫」である雨宮がまったく太刀打ちできなかったのが、京都支社の上司である越智さん。
    園子と越智が出会ったのは引っ越し先の京都にある新居。
    ロマンチックな出会い…というわけではありませんが、越智と目が合った時、園子は全身で自分の中にある何かがくずれていくのを感じます。
     
    子どもの頃から結婚相手が決まっていて、男性と遊びはするけど付き合ったことのない園子にとって、越智は初恋の相手だったわけです。
    しかしこの越智がまた一筋縄ではいかない男性。
    園子たちが住むことになったアパートの隣にある洋館にすむ夫人の情夫だったのです。
    あれです、恋愛慣れしていない女子がちょっと悪い男に惹かれちゃう感じ。それです。
     
     
    雨宮とは言葉を交わしてもうまく噛み合わないのに、越智とは視線だけでお互いの考えが手に取るように感じられる。
    そんな相手と初めて出会った園子は、すぐさま越智にのめり込んでしまいます。
     
    越智の夢にうなされ、つい素直に「越智さんが好きになってしまったの。こんな気持ちはじめてなの」と雨宮に告白してしまった園子。
    この時は雨宮も「会社にも雨宮ファンの女子がいっぱいいるよ」とあまり気にかけてはいませんでしたが…。
    ついには越智のことが好き過ぎて、雨宮との夫婦生活を拒み、越智に対して操を立て始めるしまつ。
    告白していないし、付き合ってもいないのにどういうこと!?とさすがの雨宮もビックリ。初恋は途方もない方向にパワーを発揮するのでした。
     
     
    ■複雑な大人な恋愛を美しく描いた作品
     
    瀬戸内寂聴さんが「子宮作家」と呼ばれるキッカケになった作品というので、どれだけエグいのかと戦々恐々としていたのですが、読み進めてもまったくそんな印象を受けませんでした。
    むしろ文学的で、最初から最後まで丁寧な描写が印象的。
    大人の恋愛が美しく描かれています。
     
    あとがきにもありましたが、1950年代という時代を考えると、女性の作家が性をテーマにした作品(しかも主人公が女性)を書くこと自体がものすごくショッキングな出来事だったのでしょう。
    当時の文壇の人たちが、いまの出版業界を見たら泡ふいて倒れそう…。