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《ヒモノ図書館員の恋愛強化書》思春期の痛烈な恋『海を感じる時』

  • 2015年08月14日  猫元 わかば  



    高校の先輩が恋人。女子がアコガレるシチュエーションの1つ。一緒に通学したり、寄り道しながら帰ったり…妄想はつきません。しかしそんな甘々高校生ライフになるとは限らないのです!今回は文壇をわかせた問題作をご紹介します。
     
     
    今回ご紹介するのは、中沢けいさんの『海を感じる時』です。
    作家・中沢けいが誕生するきっかけになった作品でもあります。
    2014年には市川由衣さん・池松壮亮さん主演で映画化もされました。
    映画『海を感じる時』は第24回日本映画プロフェッショナル大賞でも7位に入賞し、さらに池松壮亮さんは主演男優賞も受賞しています。
     
    原作『海を感じる時』は100ページほどの短編小説。
    昭和の文豪が「文学上の事件」とたたえた作品なのだそうです。
    男と女。母親と娘。高校生という微妙で多感な年齢の女の子の前に横たわる、複雑な心理が描かれています。
    とても重厚な世界観だったので、デビュー作というだけでも驚きだったのですが、なんとこの作品を書いたとき、中沢さんは18歳だったのだとか。ひゃー!すごい!
    18歳ということは高校生か大学生ぐらい…逆にその年齢だから書くことができたのでしょうか。
    等身大のみずみずしさといいますか、生臭い、飾り気のない女子の心理を味わうことができます。
     
     
    ●あらすじ
     
    中沢恵美子は学校の新聞部に所属している高校生。
    ある日、同じ新聞部の先輩・高野洋に突然キスをされます。
    父が亡くなり不安とさみしさを抱え続ける日常のみじめさから脱却するきっかけを手に入れた恵美子は、洋に「前から好きだった」とウソをつきます。
    キスの件から洋のことが気になり、洋のことばかり考え、執着するようになる恵美子。
    どこまでも追いかけてくる恵美子に、洋は「君じゃなくともよかったんだ」と恵美子の気持ちをかたくなに拒み続けながらも、2人の体だけの関係は続いていきます。
     
     
    ●ひどい?やさしい?
     
    ストーリーは18歳の恵美子が2年前――洋と関係をもつキッカケとなったできごとを思い返す形ではじまります。
    高校生のとき、恵美子と洋はお互い意識し合っていたわけではありません。
    洋は恵美子を「あんまり好きな女の子のタイプじゃない」と評価していたようですし、恵美子のほうでも、入部したての頃に書いた詩を洋に批評されて恥ずかしい思いをした…というぐらいの接点しか描写されていないのです。
     
    それが何の気まぐれか、部室で洋にキスを迫られたことから2人の関係は一変してしまいます。
     
    高野洋という男子生徒に対して、「けっこう好き!」というタイプと「いやいやムリムリ。こんな男」というタイプに分かれそうな気がします。
    ちなみに私は前者です。
    しょっぱなから恵美子にひどいことをズケズケ言うんですよ。洋くんは。
    キスする前も恵美子から好きなタイプじゃないんでしょ?と聞かれ「好きじゃないよ、すいじゃないけれど」と言ってみたり、終わったら終わったで「君じゃなくともよかったんだ」と言ってみたり。とにかく自分に執着する恵美子を拒み続ける。
     
    読みながら「イタイケな女子高生に手を出して何言ってんだこの野郎!」と胸ぐら引っ掴んでやりたくなることも多々あったりするわけですよ。
    でも洋は洋なりに恵美子のことを思いやってるんだろうな、と感じるシーンも多くて恵美子同様ふりまわされてしまうわたくし。
     
    拒んでも拒んでも追いかけてきて、身体だけでも良いという恵美子を苛立たしげに抱こうとするシーンでも「あんたを大切にしてやれないんだよ」と洋のほうが辛そうなぐらい。
    「セフレゲット〜」ぐらいに思ってテキトーに付き合っていればいいのでしょうけど(恵美子が身体だけの関係で構わないと言っているのだから、それをタテマエにすることもできたはず)、洋にはそれができない。
    悪い男になりきれない。
    読みながらもどかしさに身悶えしてしまいました。
     
     
    ●卒業後も関係はとぎれず
     
    洋が高校を卒業してからも、恵美子は洋を諦めません。
    下宿先を探しあてて手紙をだしたり押しかけて行ったりと積極的にアプローチ。
    この積極性はマネするべきかと思いつつ、今だったらストーカー案件になりそう…。
    洋は何だかんだいいつつも部屋に招き入れてくれたり、デートのようなものをしてくれたり、会うことを「よくない」と言いつつも拒絶はしません。
    そしてついに「こんな中途半端いやだよ」と漏らします。
    洋の言いたいことをを察した恵美子が「一緒に暮らすの?」とたずねた時の返答がまた良い!
    「(実際に付き合ってみて)あんたにダメだってわからせたい」ですよ。
    ある意味プロポーズみたいなものですよ。
    ”同棲してみて、2人は上手くいかないんだと恵美子に分からせる”
    っていうのが、男の子ぽくていいじゃないですか!「子どもができるかも」という恵美子の言葉には「育ててみればいい」と投げやりながらも温かさを感じる答え。
    すごく不器用な優しさ。惰性もあるのでしょうけれど。恵美子の粘り勝ち。一途さの勝利でしょうか。
     
    ●話しは戻って…
     
    最後まで読んでから、冒頭の18歳になった恵美子のスト―リーを読み返すと、また感慨もひとしお。
    洋の予言は外れ、2年後の現在でも恵美子と洋の関係は続いています。
    高校時代から洋がくり返してきた「上手くいかない」という言葉は恵美子への牽制というより自分への戒めや言い訳なんじゃないかな…。
     
    浮気をするわけでも、恵美子と別れて他の女性と付き合おうとするわけでもなく、2年経っても恵美子の隣にいるという事実。
    「結婚はない」と洋はいいますが、私は結構この2人、これから先も上手くやって行くんじゃないかなあとニラんでいます。
    ぜひご一読頂いて、みなさんの意見も聞いてみたいところです。