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《ヒモノ図書館員の恋愛強化書》恋の形とは?『透き通った風が吹いて』

  • 2016年01月08日  猫元 わかば  



    「恋」とひとことで言っても形は様々。ハッピーになれるもの、切ないもの、痛みを伴うもの。どれも恋の一部であって本質ともいえるかもしれません。今回は前の恋を引きずる女性とそんな女性に惹かれた高校生のお話です。
     
     
    今回ご紹介する1冊は、あさのあつこさんの『透き通った風が吹いて』です。
    野球をテーマにした大人気シリーズ「バッテリー」でおなじみの作家さんですね。
    2015年11月に発売されたばかりの本作も主人公は野球少年。
    舞台はバスが日に3本しか走らないような田舎・美作市。
    ある日ふらりと美作にやってきたミステリアスな女性に、一目ぼれに似た感情を抱いた高校生の、甘くて苦い恋愛模様や将来への不安や悩みなどがみずみずしく描かれています。
     
     
    ■『透き通った風が吹いて』あらすじ
     
    甲子園が終わって、どこか気の抜けてしまった主人公・渓哉(けいや)。
    そんな渓哉を心配した親友・実紀に誘われ、2人は市内にある温泉へ向かうことになりました。
    その途中のバス停で出会った女性・里香。
    道に迷ったという彼女を案内すべく一緒にバスを乗るも、そのバスは女性が行きたい場所とは違う方向へ向かうものでした。
    渓哉と実紀に怒りをぶつけることもなく、里香は渓哉たちと一緒に温泉宿に泊まることに。
    里香と話すうちに渓哉は彼女の不思議な魅力に惹かれていきます。
     
     
    ■やっぱりミステリアスな女は強い!
     
    甲子園に進むも試合に負け、どことなく生活に張りが無くなってしまった渓哉。
    部活に打ち込んでいただけあって、ボールやグローブに触る機会がなくなり手持無沙汰なのでしょう。
    大学受験を数か月後に控えて遅れた分を取り戻すべく補習を受ける毎日ですが、そうそうやる気も起きません。
    補習中に居眠りしてしまうほど。
     
    そんな男子高校生の目を覚ましたのが、渓哉の住んでいる美作市に突然あらわれた女性・青江里香でした。
    つばの大きい麦わら帽子に白いワンピースという出で立ち。
    太陽の日差しを受けた彼女を「美しさを表現する語はいくつもあるけれど、この立ち姿を言い表すどんな言葉が存在するだろうか」なんて表現するぐらい、渓哉は目を奪われ一目ぼれ状態。
    自分の住む町の食べ物や風景に目を輝かせる姿にすっかり心まで奪われてしまいまいます。
    そして美作を訪れた理由をはぐらかされ、含みのある言動や哀愁をおびた表情を目にして、渓哉は彼女に振り回されてしまうのです。
     
    やっぱりね、ミステリアスって重要なんですよ。カギなんですよ。男性の興味を引きつけるうえで。「この女性、ぼくに何を隠してるんだろう?」って男性は気になって気になって仕方がないわけですよ。
    最初はただの興味や関心だったはずが気づけば「これって恋かも…?」になるわけですよ!!
    でもどうやったらミステリアスさを身に付けられるのでしょうか。
    やり過ぎるとただの「もったいぶった女」になりそうだし。
    そもそも「ミステリアス」になれる謎の持ち合わせが私にはないのです。
    だって「実は年齢サバよんでました」みたいな「謎」じゃただの痛い女になっちゃう。
    『謎多き女』になること自体がハードル高いわけです。うーん、難しい!
     
     
    ■恋とはどんなものかしら?
     
    野球に打ち込んでいた渓哉ですが、前には彼女がいたこともありました。
    本気の恋だと思っていた相手は年上。部活の練習で会う時間が取れなかったり、彼女の受験があったりして自然消滅。
    特に未練もなく、そのあとお互いに連絡を取ろうとか関係を修復しようとか思うこともなく終わってしまいます。
     
    そんな渓哉とは違って、未練が残る恋愛をしていたのが里香さん。
    里香さんは、別れてしまった元恋人に会いに美作を訪れていたのでした。
    「このままでは前に進めない」とまで言ってみせた彼女に渓哉は衝撃を受けます。
    恋や愛ってもっと楽しいものではないの?
    引きずって前に進めない恋って何なんだ?
    まるで罪業のようではないか。
    という具合に。
    本物の恋の重さを知らない子どもなのか、と渓哉が歯噛みするぐらい彼女の元恋人への想いは強く、渓哉は打ちのめされてしまうんですね。
    恋って何なのだろう、と改めて考えさせられるシーンでした。
     
     
    ■主人公はけっこう罪なやつ!?
     
    里香さんのようにメインヒロインの立場ではありませんが、作中にはもう1人女の子が登場します。
    渓哉と同じ高校に通う、陸上部の栄美ちゃん。
    親友・実紀のハトコで、渓哉とひょんなことから里香さんが泊まることになった老舗の温泉旅館の娘さんです。
     
    この子、渓哉のことが好きなのですねー。
    実紀も彼女の想いに気づいていて、応援しようとしています。まったく彼女の想いに気づかず、気の利かない渓哉に実紀がちょっと腹を立てるシーンもありました。
     
    とある事件(?)があって、渓哉もちょっと栄美のことを意識しているみたいだし、ぜひ栄美ちゃんには頑張っていただきたいな。
    2人でいるとき流れる空気が独特だし、ただの同級生の女の子を「うるんだ瞳をしている」なんて表現しますかね?
    もしかしたら渓哉は無意識に彼女の想いに気づいているんじゃないかな…。
     
     
    ■いろいろな「じれったい」恋のお話!
     
    高校生の青春まっさかりな恋と、大人のビターな恋愛を同時に味わえちゃうお得な小説です。
    特に「じれったいお話が好き!」という女子は楽しめるのではないでしょうか。
    冬に発売された季節外れの夏のお話。
    手ごろなページ数で読みやすいので、ぜひ手に取ってみてくださいね。